黒猫

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『ありがとう』
初めてあなたと出会った日を覚えていますか。
ボロボロで罠にかかっていたわたしをあなたが助けてくれました。
そして、あなたの元で生活を送ることを許して貰えました。
1日三食寝床保証で勉強も、武術も教えてくれました。
俺はあまり素直になれない性格であなたに甘えて何も言うことができませんでした。
でも、ひとつだけ心に決めていたことがあります。
それは、あなたを護ることです。
あなたより弱い俺では、あなたを護ることなど出来るわけないとあなたは笑うでしょう。
でも俺はあなたの役に立ちたいのです。
いつか武術も勉強も頑張ってあなたにおいついて、あなたの背中を守れるような人間になりたいのです。
ぼろぼろで死ぬはずだった命を救ってくれたやさしいあなたへ。
そのやさしさは、いつかその身を滅ぼすでしょう。
そうならないように俺はあなたを護れるようになります。
「俺を拾っ、て、、、育て、て、くれ、て、、あり、がと」
やっとそう言えた俺の口からコポリと血が垂れた。



そだてかたをまちがえた。
魔女狩りの対象となってしまった自分を庇って槍で貫かれたこどもをみて、まず思ったことはそれだった。
やさしい子だった。
いつも自分のあとをついてきて、憎まれ口を叩いたり、損得を説いたりしていたが、自分を邪険にしたことはなかった。
いつの間にか、気まぐれに拾ったこどもは自分の大切なひとになっていて、はじめて喪いたくないと思った。
だから、魔女狩りが始まってこどもを逃がした。
まだこどもは知らないだろうが数年先でないと入手できない長い長いお使いに出した。
手に入れるまで帰ってくるなと、強く強く言い含めた。
魔女狩りとなったら真っ先に狙われるのは自分だからだ。
だが、おつかい先で聞いてしまったのだろうか。
こどもはおつかいの途中にも関わらず戻ってきてしまった。
「なんで、戻ってきてしまったのだ。お得意の損得勘定はどうした。」
自分を助けることはどう考えても大損だ。
槍には毒が塗ってあった。
こどもはもう助からない。
少しでも生き延びられるように止血して、こどもを抱えて追手からにげた。
「俺を拾っ、て、、、育て、て、くれ、て、、あり、がと」
そう囁いたこどもは、血を吐いた。
「そだてかたをまちがえた」
何度も心の中で叫んでいる言葉がポロリと零れてしまった。
言ってはいけないことだった。
その言葉にこどもは傷ついた顔をした。
けれども言葉は止まらない。
「おまえをもっとわがままに育てればよかった」
「自分の命のためならなんでも捨て置けるように育てればよかった」
「自分を嫌うくらいに冷たく育てればよかった」
自分は、自己中心的な輩は嫌いだが、この子が生き残ってくれるなら、そんなふうに育てればよかった。
言っている内に足が止まる。
気がつけば追手を振り切っていた。
すると、こどもは、自分を抱きしめた。
慰めるように。
思えば、初めてこどもから自分に触れてきた気がする。
こどものちからがどんどん抜けているのを感じる。
自分は、こどものしあわせを祈って震える手と声でねかしつけた。

2/14/2025, 11:03:52 PM