黒猫

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《君の背中》
俺たちのリーダーを一言で表すなら『怠惰』である。
やんごとなき身分で顔もよく恐ろしく有能だが常にぐーたらしていて背を伸ばしたり、敬語を使ったりしている姿を見たことがない。
ただ、俺たちはそれでもリーダーを敬愛している。
俺たちは知っている。
リーダーがどれだけ努力しても報われなくてもそれでも諦めきれずに足掻いた姿を。
緊急事態の時には頼もしくなるリーダーの大きな背中を。
俺たちはこのリーダーを認めていつまでもついていこうと思っている。 
だから、ひとりでなかないで、かかえこまないで。
バカな俺達には賢いリーダーの考えることも思うこともわからないけど、一緒にいることはできるから。
誰よりも、寂しがり屋な俺達のリーダー。
あなたをひとりにはしない、どこへだってついていきます。


「だから、お前たちは、俺は、馬鹿なんだ」
リーダーと呼ばれていた男はそう、鼻で嗤ったが、その声は震えていた。
目の前に広がるのは間違えた愚かな人間についてきた哀れな者の末路。
夥しい血が、ただの肉塊があちこちに転がっていた。
その態度とは裏腹にリーダーはそれらの肉塊を震える手で丁寧に集めた。
そして、ひとまとめにしたただの肉塊に対して言った。
「本当はもう、どうでもよかった」
親に認めてもらえなくても、あいしてもらえなくても。
「お前らが、一緒にいてくれれば信じてくれれば、どうでもよかった」
すっかり、小さくなった背中を丸めて、なにもかもを失ったなにがあっても泣かなかった人間は、久しぶりに一筋涙を流した。

「ひとり、に、しない、で」
無意識に溢れた声を、拾ってくれる者たちはもういない。

『失って初めて気がついた誰よりも寂しがり屋な王様の話』

2/9/2025, 1:22:01 PM