「うわ、やべぇ」
そう呟く俺に「んー?」と聞いてくる友達。
こっちを見て焦っている俺に少し笑いながら、
「どうした?笑」
「スマホ忘れた」
なにしてんの笑と口々に言われる。
「どこに忘れたん」
1人が聞いてくる。
「たぶん音楽室」
そう答える俺に、
「うわ、遠くね?いってら笑」
他人事みたいな態度とりやがって、こいつ。
「なんだよ、一緒には行かねぇよ?笑」
「ちっ」
裏切られたので軽く舌打ちをしておいた。
「はあ、取りに行ってくるわ」
「いってらー笑」
呑気な声で送り出され、音楽室に向かう。
音楽室は隣の校舎の4階でまあまあ遠い。
3階と4階の間の踊り場まで来た時、何かの音が聞こえた。
「…ピアノ、か?」
まだ少し距離があるせいか、よく聞こえない。
音楽室のドアの前に来てようやくなぜ音が聞こえたのかがわかった。
「…」
少しだけドアが開いていた。
この隙間から音が漏れたのだろう。
待てよ、ピアノの音が聴こえるってことは誰かいるってことだよな。
うーん、知らない人だったらどうしよう。
いくら陽キャだとしても、知らない人と音楽室で会うのはなかなかハードルが高いと思う。
いったん隙間から覗くか。
大丈夫だよな?犯罪とかならないよな?
いや、まあ、うん。
状況確認というか、様子見だし気にしないことにしよう。
「よし、」
意を決してドアを少しだけ開けようとした瞬間、
「なにしてるの?」
音楽室の中から声が聞こえた。
いや、声をかけられた。
…え、待って。なんでバレてんの?怖い。
「いるなら入ればいいんじゃないですか」
なんかわかんないけど許可が下りたっぽいので入ります。
「…失礼しま、す、」
恐る恐る音楽室へ足を踏み入れる。
そして先ほどの声の主がいるであろうピアノの方に目を向ける。
「…だれ?」
このピアノを弾いていたであろう女子にただただストレートに疑問を投げかけられる。
「…西野、です」
苗字だけで名乗ってしまった…
でも、それだけわかったらしく。
「あぁ、サッカー部の人か。なんか女子からキャーキャー言われてる」
まあ、うん。
言われてないわけではないけど。
なんか恥ずかしいよね。
うん。
「たぶんそれかもしれない」
「潔いいね笑」
そんな会話してたのが4月。
今はもう10月。
音楽室で初めて話した時から半年が経っていた。
俺は放課後部活がない時は音楽室に行って彼女と話しているのだが、未だに片想いしたままだ。
「よっ」
ピアノを弾いていた彼女に声をかける。
「ん、部活ないの?」
「今日は休みなんですー笑」
「暇じゃん」
「普段は忙しいんですけど」
へー、なんて、いかにも脈ナシって感じの返事をされる。
そういえば、
「ねぇ、さっき弾いてたのって新曲?」
「あ、わかる?」
そうなの新曲作ったんだぁー、と、さっきに比べてかなり楽しそうな声色になった。
「なんて曲?」
「曲名はね_____」
"君だけのメロディ"
「…それって期待していいの?」
半分冗談半分本気。
そんな事を問う。
「んー、かも、ね?」
なんて答える彼女の頬は、赤く染まっているように見えた。
Write By 凪瀬
休み時間に友達の席まで行き、立ちながら話していた。
「いや、まじで、今回数学やばいと思う」
「えぇ?数学は大丈夫じゃないの?笑」
「ちょ、私が数学弱者なの知ってるよね?笑」
なんて、あと1週間後にあるテストの話をしている。
すると、
「っわ、」
急に腰あたりに腕が回ってきて、そのまま腕に引かれてバランスを崩す。
倒れかけている私の体を受け止めるように、私を引っ張った腕の持ち主の膝の上に座る。
「なに、?」
少し上にある顔を見上げるように見る。
「んー?そこにいたから?笑」
とか、なんでもないように答える彼。
「ふーん」
と、相槌を打っておく。
膝に座っているのはそのままで、また友達の方を見て話し始める。
「数学さえ大丈夫だったらいけるんだけどなー」
「数学はやれば出来るって笑」
「絶対クラス間違ってるよ、理系クラスに行きな…笑」
「やだよ笑だって物理とかやりたくないもん笑」
そう答える数学強者の理系な友達。
なんと無慈悲な。
「確かに物理はやりたくないけどね」
一応物理はやりたくないので同意しておく。
話していると10分という休み時間はすぐに過ぎてしまう。
「そろそろ席戻るね」
「はいよー」
席に戻ろうと立ち上がろうとすると、
さっきよりも、ぎゅっ、と腰に回っている腕の力が強くなった。
「そろそろ戻るから離して」
「ふっ笑つれないなぁ」
なんてケラケラ笑ったと思ったら、ぱっ、と。
意外とあっさり離してくれた。
立ち上がって、自分の席に戻ろうとすると。
「あ、これあげる」
さっきの数学の時間に暇だったから書いたんだよねー、なんて言いながらなんかの紙を渡してきた。
「ちゃんと授業聞きなよ笑」
「聞いてる聞いてる笑」
はいはい戻った戻ったー、と言われ自分の席に座る。
さっき貰った紙を見ると、少し上の部分が折れていた。
紙に書かれていたのは、
"128√e980"
丁度今は英語の授業で、
先生が黒板を書きながらその言葉を読み上げると同時に、
渡された紙を折り目に沿って折ってみる。
先生の声と、答えが重なる。
彼の方を見ると、
私の反応を見るためにこっちを見ていたのか目が合った。
それに気づいたのか、ふっ、と笑って口パクで伝えてきた。
"I Love you"
Write By 凪瀬
「じゃあね、さよなら」
その言葉と俺を置き去りに君は俺の側を離れた。
なんで、そんな事も言わせてはくれない君を恨むことも出来ない俺は、心底君に惚れていたのかもしれない。
『じゃあね、さよなら』
このたった8文字の言葉が俺の頭を埋めつくす。
どうして…どうしてなのだろうか。
俺じゃ彼女を幸せに出来ない、そう考えたのか。
「…本当の気持ちは本人しかわからない…か」
いつの間にか零れた独り言も、誰もいない静寂に吸い込まれていくようだ。
ふと視線を上げると、テーブルに置かれた鍵が目に入った。
「もう、戻れないんだな」
本当にそう思った。そんな時にやっと、頭で理解することが出来たことに気づいた俺は、自分が思っているよりも、ずっと、彼女を愛していたのかもしれない。
所詮は大学生の恋愛だ。何かの拍子に簡単に終わりを告げてしまうようなものだ、とは分かっていても、あまりにも突然すぎる別れだった。
まあ、別れた理由はわかっているのだけれど。
「…っ、」
街で声をかけようとして、やめた。
理由は簡単。彼女が他の男と歩いていたからだ。
それも、俺の前では見せないような笑みを浮かべていた。
それでも、好きだった俺はかなりの者だと思う。
突然の別れの後には、突然の出会いがあると信じている。
Write By 凪瀬
「帰ろ」
そう言って私の隣を歩く彼は、彼氏ではない。
簡単に言えば家が隣の幼なじみだ。
そんな彼のことを私は小学4年生から思いを寄せている。
今年で高校2年生。もう好きなってから7年になるのだ。
…正直、幼なじみをやめたい。やめて彼女になりたい。
そう思って告白をするのも考えた。
けど、この関係が終わるのが嫌で、ずっと逃げてきた。
……でも、それも今日でやめよう。そう決意した。
「あのさ、」
そう切り出す私に、
「なあに」
と、聞く君はいつもよりも眩しく思えた。
「…私もうやめたい」
「え?なにを?」
「幼なじみ」
「え?なんで?どうしたの」
戸惑う彼に伝える、
「好きだから、幼なじみじゃなくて…」
彼女になりたい、そう言おうとした時、
なぜか、彼の腕の中にいた。
そして、彼は、
「俺も、」
「俺も好き」
信じられなかった。
「…泣くなよ」
そう言って、いつの間にか泣いていた私の頬を拭う。
「俺の彼女になってくれますか」
答えは決まってる。
「…はい」
そうして私たちの両片思いで、遠回りした恋物語は幕を下ろした。
まあ、終わったのは序章なのだけれど。
これからも彼とのストーリーを綴っていこうと思う。
まだまだ続くふたりの甘い恋物語。
Write By 凪瀬
「ただいま」
ずっと待っていた人がようやく帰ってきた。
「おかえり、」
そう返すと、寝ててもよかったのに、そう答える彼。
今は午前二時。
「話したいことがあるの」
彼の方を見てはいるけど、顔までは見なかった。
「今度にして」
そう言い放たれて、私の中で何が崩れた。
「最近そればっかり、もう疲れたよ」
最近ずっと考えていた事。明日こそ言おう。そう思って、ずっと先延ばしにしていた。そう、ずっと、そうやって先延ばしにしていたのは、やっぱり彼のことが好きだからなのかもしれない。
「じゃあね、言いたいことは言ったから」
そう言って出ていこうとする私の手を、ドアノブにかかる前に掴んだ。
「…っ、はなしてっ」
まさか私が拒絶するとは思っていなかったのか、目を見開いていた。
「だめ、行かせない、」
そう言うと、私の唇と彼の唇が重なった。
「…なんでっ、別れたのにっ」
そう言う私だが、頬になにかが伝っていた。
「俺がいいって言ってないから、別れてないっ」
と、私を抱きしめる。
「やだっ、なんで、ねえ、なんでなの?」
「私…私、もう疲れたんだよ」
「辛いの、苦しいの」
「ねぇ、離れさせてよっ」
泣きながら言う私に、
「ごめん、もう1回だけチャンスを俺にちょうだい?」
なんのチャンス?と聞くと、
「もう一度好きにさせるチャンス」
「やだよ、」
「…っ、なんで…」
そんなの決まってる、
「もう好きだからだよ」
「これ以上好きにさせないでよ」
「え、じゃあ」
「うん、いいよ」
そう言うと、さらに抱きしめる力が強くなる。
「もう絶対離さないから」
そう言った彼は優しくキスをした。
夜はどんどん深くなる。
真夜中の始まりだ。
Write By 凪瀬