「じゃあね、さよなら」
その言葉と俺を置き去りに君は俺の側を離れた。
なんで、そんな事も言わせてはくれない君を恨むことも出来ない俺は、心底君に惚れていたのかもしれない。
『じゃあね、さよなら』
このたった8文字の言葉が俺の頭を埋めつくす。
どうして…どうしてなのだろうか。
俺じゃ彼女を幸せに出来ない、そう考えたのか。
「…本当の気持ちは本人しかわからない…か」
いつの間にか零れた独り言も、誰もいない静寂に吸い込まれていくようだ。
ふと視線を上げると、テーブルに置かれた鍵が目に入った。
「もう、戻れないんだな」
本当にそう思った。そんな時にやっと、頭で理解することが出来たことに気づいた俺は、自分が思っているよりも、ずっと、彼女を愛していたのかもしれない。
所詮は大学生の恋愛だ。何かの拍子に簡単に終わりを告げてしまうようなものだ、とは分かっていても、あまりにも突然すぎる別れだった。
まあ、別れた理由はわかっているのだけれど。
「…っ、」
街で声をかけようとして、やめた。
理由は簡単。彼女が他の男と歩いていたからだ。
それも、俺の前では見せないような笑みを浮かべていた。
それでも、好きだった俺はかなりの者だと思う。
突然の別れの後には、突然の出会いがあると信じている。
Write By 凪瀬
「帰ろ」
そう言って私の隣を歩く彼は、彼氏ではない。
簡単に言えば家が隣の幼なじみだ。
そんな彼のことを私は小学4年生から思いを寄せている。
今年で高校2年生。もう好きなってから7年になるのだ。
…正直、幼なじみをやめたい。やめて彼女になりたい。
そう思って告白をするのも考えた。
けど、この関係が終わるのが嫌で、ずっと逃げてきた。
……でも、それも今日でやめよう。そう決意した。
「あのさ、」
そう切り出す私に、
「なあに」
と、聞く君はいつもよりも眩しく思えた。
「…私もうやめたい」
「え?なにを?」
「幼なじみ」
「え?なんで?どうしたの」
戸惑う彼に伝える、
「好きだから、幼なじみじゃなくて…」
彼女になりたい、そう言おうとした時、
なぜか、彼の腕の中にいた。
そして、彼は、
「俺も、」
「俺も好き」
信じられなかった。
「…泣くなよ」
そう言って、いつの間にか泣いていた私の頬を拭う。
「俺の彼女になってくれますか」
答えは決まってる。
「…はい」
そうして私たちの両片思いで、遠回りした恋物語は幕を下ろした。
まあ、終わったのは序章なのだけれど。
これからも彼とのストーリーを綴っていこうと思う。
まだまだ続くふたりの甘い恋物語。
Write By 凪瀬
「ただいま」
ずっと待っていた人がようやく帰ってきた。
「おかえり、」
そう返すと、寝ててもよかったのに、そう答える彼。
今は午前二時。
「話したいことがあるの」
彼の方を見てはいるけど、顔までは見なかった。
「今度にして」
そう言い放たれて、私の中で何が崩れた。
「最近そればっかり、もう疲れたよ」
最近ずっと考えていた事。明日こそ言おう。そう思って、ずっと先延ばしにしていた。そう、ずっと、そうやって先延ばしにしていたのは、やっぱり彼のことが好きだからなのかもしれない。
「じゃあね、言いたいことは言ったから」
そう言って出ていこうとする私の手を、ドアノブにかかる前に掴んだ。
「…っ、はなしてっ」
まさか私が拒絶するとは思っていなかったのか、目を見開いていた。
「だめ、行かせない、」
そう言うと、私の唇と彼の唇が重なった。
「…なんでっ、別れたのにっ」
そう言う私だが、頬になにかが伝っていた。
「俺がいいって言ってないから、別れてないっ」
と、私を抱きしめる。
「やだっ、なんで、ねえ、なんでなの?」
「私…私、もう疲れたんだよ」
「辛いの、苦しいの」
「ねぇ、離れさせてよっ」
泣きながら言う私に、
「ごめん、もう1回だけチャンスを俺にちょうだい?」
なんのチャンス?と聞くと、
「もう一度好きにさせるチャンス」
「やだよ、」
「…っ、なんで…」
そんなの決まってる、
「もう好きだからだよ」
「これ以上好きにさせないでよ」
「え、じゃあ」
「うん、いいよ」
そう言うと、さらに抱きしめる力が強くなる。
「もう絶対離さないから」
そう言った彼は優しくキスをした。
夜はどんどん深くなる。
真夜中の始まりだ。
Write By 凪瀬
「ねぇ、」
と、スマホゲームをしている俺に彼女が話しかける。
「ん?」
と、スマホを片手にだいぶ曖昧な返事を返すと、
「愛があればなんでもできる?」
そう言いながら、こてん、と首を傾げる愛しい彼女。
かわいい。そう思った直後に俺はやっと彼女が放った言葉の意味をやっと理解する。
「急にどうしたの?」
いきなりの事でやっている途中だったゲームをやめて、スマホを置く。
「いや、なんとなく笑」
「なんとなくなんだ笑」
と、ふたりで笑った。
でも、と彼女は続ける。
「なんとなくで言ったけど、ちょっと気になるかも」
そう言って、ちょっとぎこちなくはにかんだ。
「そうだなあ…考えたことなかったかも」
「だよね笑」
「無理しないでいいよ、流していいから」
そう答える君に、俺は
「でも、愛があるかないかは別として、自分にとって大事で、今しかしてあげる事ができないなら」
「非人道的な、っていうか、道徳心に欠けること以外ならするかもな」
…なんともありきたりな回答だ、と自分でも思う。
「なるほど…」
と、変に納得している彼女。
そんな君にそれでも、と俺は言葉を綴る。
「他の誰でもない、自分が守るって決めた人になら、その言葉は使えるかもね」
「例えば?」
と聞く君に、
「どんな時でも、側に居てくれた最愛の人とか…ね?」
俺はそう言いながら、彼女の…妻になる君の左手をとる。
俺が握っている小さな手には、これからの未来を指すかのように、淡く光る指輪がはめられている。
Write By 凪瀬
目が覚める、横を見る。
ここにはもう君はいない。
「…」
あの時どうすればよかったのだろうか。
ひきとめていれば…今頃君は俺の隣にいたのだろうか。
「いや、ちがうな」
そうじゃない。例えひきとめていたとして、
今の俺に何が出来ていたのか。
「…はあ、」
君がいなくなってから何度目の朝だろう。
時間は戻らない。
そんなの誰でも知っている。
でも…でも、だ。
始まりに戻れたらな、なんて考えが頭に浮かぶのは、
後悔、という文字が何度も俺の頭に流れてくるのは、
生きている限り逃れられないものなのだ。
今でもずっと後悔している。
あの時、止めていれば…君はまた笑ってくれていたのかもしれない。
君がいない時間を、俺はどう過ごせばいいのか、
教えてくれ。
同じ季節は来ないように、
ひと時の春に散っていった桜のような、
俺の最愛の人よ。
Write By 凪瀬