極短SF! お題一つにつき2個!

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1/20/2024, 2:05:29 PM

海の底の完全な無音の征服の中で、たった一つ、微弱なミサイル発射口の開閉音が届いた。海中1000mをを進水する
巨大な暗黒のミサイルの横を、深海ザメが通り過ぎた。ミサイルは容赦なく海中を突き進んでいく。
深海ザメは慣れないミサイルの振動にしばし硬直したが、向こうから微かな生物的振動を探知したので、静かにそっちへ向かっていった。
数分後深海ザメはフクロウナギを捕まえた。
栄養と光の乏しい深海では、明日生きれるかがこの一食にかかっている。次いつ食べれるかなど分からないから、一度の狩りに命がかかっている。
ひとまず明日まで延命できた。深海ザメはもう何万年も、こうやって命を繋いできた。明日、また明日この繰り返しだ。深海ザメの霞んだ白い目にはそんな未来がぼんやり写っているのだろうか。
または、感覚を研ぎ澄ました彼には実際に近々訪れてしまう終焉が知覚されているのか。先程の深海の人工音は終焉の産声であったということだ。

____

海の底を研究するため、中年海洋学者は深海魚に転生することにした。
そこでまとめた研究結果を持って、彼は浅海へ上っていき、漁船の網にかかった。
打ち上げられた彼は「オジサン」なんていわれて囃し立てられた。
実際、前世の彼に似て作られていた。これは彼なりのジョークだ。業界人たちは魚に転生してやる!などと気をおかしくして自殺したあの奇人が本当に転生したんじゃないかといって笑い話にした。
その顔があんまり中年のおじさんっぽかったので写真を取られた。図鑑とかでよく見るあの写真は彼だったのだ。
あの写真は物知りな小学生から、幅広く知られているが
あの3秒後に人語で深海に関する未知の研究を語り出したことを知っているのは世界でもひと握りの要人だけだ。
初め偶然と処理されていたその奇怪な鳴き声、の内容が、実際に証明されてから彼らは目の色を変えた。

1/19/2024, 12:59:18 PM

君に会いたくてここまでやってきたんだ。
ああ、俺もだ。
感動の再会といきたいところだが、
俺はこの世界には2人も要らない、だろ?
そうだ。
俺もそのつもりだ。気持ち悪くてやってられん。
さぁ、決闘だな。
あぁ、後のお前は俺に任せてくれよ。
ふっ。そりゃーどーも。

____

どうやってここまで?
そりゃあ、君に会いたいって思い、それだけさ。
それで光速の壁を超えたっていうの?
その壁って奴はよく分からんが、俺には燃えたぎる愛情だけだ!
その愛ってやつはよく分からないけど、根性論も捨てたもんじゃないのかもね。面白い研究になるわ。
俺と付き合ってくれ!
ええ、付き合ってもらうわ。
→新規宇宙を作成
自分をそこに転送して、不毛の初期世界にて彼を待つ。
さぁ、宇宙の壁を超えて、無限の宇宙の中から私を見つけられるかしら?さすがに無理じゃないの?

このいたちごっこは人類をはるか眼下に置き去りにした二人だけの戯れだった。
彼女は作り出した殺風景の宇宙の中で、彼が来るまでの時間をどう過ごすか考えて、寂しく思った。




1/18/2024, 12:08:47 PM

閉ざされた日記はいとも簡単に開いた。
閉ざされたとは名ばかりじゃないかと思ったが、
そんなことどうでも良くなるくらい興味深い内容だった。
私はその日記に綴られた世界に飛び込みたい衝動に駆られ、その願いが通じたのか門が開いた。
念の為手で門を抑えていたのだが、もう一目惚れだった。現実世界に未練はなかったので、
さっさとこっちに乗り換えることにした。

男が消えた部屋に、窓から風が入った。
ページがめくれ、日記は閉じた。

男は次の移住者が現れるまで、日記の制作を担当することになった。

____

閉ざされた日記を解放していくのが私の仕事だ。
閉ざされているからにはそれなりの理由がある。
よほどプライベートなことだったり、
何かが隠したい機密事項があったり、
中には災厄が封印されていることもあった。

今回の依頼はこの日記。
亡くなった父親の遺品整理でみつかったらしい。
あーこれはたしか妻を殺した男の手記だったな。
気の毒だがその後の責任は負わないって契約ですから、
知ったことでは無い。
なぜ私がこんなことを知っているのかと言うと、
私の前職が依頼された日記を閉ざす、
「飛ばし屋」だったからだ。

1/17/2024, 11:44:35 AM

木枯らしに乗って楽園の匂いがここまで届いた。
(あと少しで楽園だ)
足取りが軽くなる。
しかしどういう訳か、歩けど歩けど楽園にはつかない。
そしてついに果てしなく禿げた荒野に出てしまった。
荒野に目を凝らしても、どこにも楽園は見えない。

おそらく楽園は、先程の木枯らしだったらしい。
風と共に去ってしまったのだ。
まるで俺は遊ばれているようじゃないか。
移動生楽園の補足に、またもや失敗した。
寂しすぎる荒野へ叫びたくなった。
白いため息を漏らしてから、クルリと踵を返して、
残りの体力で楽園の足跡を辿っていく。

____

木枯らしが吹いた。
(この大迷宮の中で、木枯らしだと!?)
「三日三晩飲まず食わずでろくに働かない脳を働かせて考えろ。吹いたのは、風の通り道があるからだ。それは入口から出口までだろう。吹いたのは入口の方向じゃない。あれ?入口の方向から吹いた、入口の反対の方向へ吹いて行った。入口の反対の方向ということは、出口ということだ。私は出口を目指しているんだろ?確かそうだから、
枯れ葉の流れていくのをたどれば、出口にたどり着けるということだろ!」
私は最後の力を振り絞って枯れ葉を追いかけていった。
足が回らなくなると這った。

いいんですか、こんな残酷なことして。
騙されたのは彼だ。彼は適正でなかった、
それだけだろう。今は夏だぞ。


1/16/2024, 1:36:37 PM

美しい鏡でしょう。私が端正に磨き上げました。
新生活に、1万円で、どうでしょう。
要らないわ。全然美しくないし。
美しいでしょう。これがいまなら1万円。
要らん。全然美しくない。
男は午前中から半日街を彷徨っているが、
まるで買い手は見つからない。
さすがに疲れたのでカフェで一服する。
何が悪いのかなぁ。改めて鏡を見る。
鏡に映る顔は人気俳優の顔だ。すこし私に似ている人。
こんな鏡なら、売れると思ったのだが、
なかなか妬み強い人種なのだなぁ。
午後からは、より醜い顔を写す物を売ることにする。
____

美しい女が窓の外に見えた。
窓際の中年サラリーマン。終わった部類の男は、
無性に股間の疼きを覚えた。そういえば嫁とも数年来、
ご無沙汰であったっけなぁ。

生きる希望なんて無かったので、迷いなど生まれるはずがなかった。

何かが割れる音がして、室内で風が吹いた。見るとガラスが割れていて、外に空気がビュウビュウと漏れていく。
どこかでOLが叫んで、誰も状況は読めない。
「吸い込まれるな!ここは80階だぞ!」

みな割れたガラスに気を取られて、あの陰鬱な社員がいなくなったことに暫くするまで気が付かなかった。

下界は、四方に飛び散った男の体と血液と悲鳴とでおぞましい有り様であった。落下した男の下敷きになった女がいるらしく、衝撃で首がもげてしまっていた。
不謹慎であるが、彼女は勿体ないことに美しい女性だった。

結局、男は精神病を患っていて、飛び降り自殺を図った、そして下に偶然居合わせた美女が下敷きとなり死亡してしまった、というシナリオで事件は落着した。

しかし詳しい検死の結果、女性は転落事故の数分前に心臓発作でなくなっていたことが明らかになった。

またまた事件は迷宮入りし、
そして迷宮ごと風化していつのまにか消えた。



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