妻と一緒にテレビを見ていた時
俺のスマホから着信音がした。
画面をみると父の名前が書かれていた。
...父親から電話なんて珍しい。
そう思った俺は場所を変えて急いで電話に出た。
「もしもし,電話なんて珍しいね。」
俺が言うと父は焦ったように
「やっと繋がった!母さんが...母さんが倒れた!!」
俺にそう伝えてきた。
「えっ!母さんが倒れた?父さん今どこにいるの。」
俺は突然のことで父さんの言葉を
オウム返ししてしまう。
「今は病院で手術している。」
父のその言葉を聞いて
「すぐ行く。」と言って電話を切った。
妻に母さんが倒れたことを言うと妻も
「私も一緒に行く」と言った。
「えっ?大丈夫だよ。」俺が言う。
「そんなに手震えてるのに
運転出来るわけないでしょ?」
妻の冷静な声,心配そうな顔を見て。
俺は今震えていて,焦っていて,
冷静じゃないことを自覚した。
「ごめん。運転お願い。」
「うん。急いで準備しよ。」
妻のその声で俺は動き出した。
病院に着くと父さんは入口にたっていた。
「父さん!!」声をかけて駆け寄った。
「お久しぶりです。お義父さん。」
妻も父さんに挨拶をした。
「あぁ,久しぶり。」
「まだ手術中なんだ...。」
父の声は元気は無く母さんを心配しているのが
目に見えてわかった。
「そっか...。信じて待とう。」
俺は父さんに言った。
何時間もたってから手術室のランプが消えた。
「妻は...、妻は助かりましたか?」
父さんは医師に駆け寄った。
「残念ながら...」
その後の言葉は頭を鈍器で殴られたように
頭が真っ白になって聞こえなかった。
そして俺たちはある部屋に通された。
そこには目を閉じて冷たくなっている母がいた。
「母さん!!」
父親も俺も母さんの名前を泣きながら呼ぶ。
「お義母さん...。」
彼女もそう言って涙を流していた。
いつも呼んだら目じりに皺を作って
笑っているのに今日は覚まさなくて。
そこで母さんが亡くなったことを理解した。
父さんは魂が抜けたような
酷く悲しそうな顔をしていた。
今日は父さんを1人にしてしまうと
危ない気がして
まず実家に行って服を取りに行ってたり
必要なものを買いに行ってから
俺と妻が住んでいる家に帰ることにした。
妻は家に帰るとご飯を作ってくれてた。
以前彼女は母さんに料理を教わっていた。
今日は和食らしい。
母さんの味がして懐かしくて
父さんも俺も涙を浮かべなら
「美味しい...美味しい」と言いながらご飯を食べた。
ご飯を食べて俺と父さんはお風呂に入った
そのあと彼女は
「お義父さんお酒どうですか?おつまみ作ります。」
優しく声をかけていた。
「あぁ,呑もうかな。」
父さんのその声を聞いて彼女は
俺と父さんの前に酒を置いた。
「えっ。」
俺は声を出した。最近禁酒しているからだ。
彼女も知っているはずなのに。
「今日くらい呑んだら?
お酒の力をつかって色んなこと話しちゃいなよ。
お義父さんと。」
そう言って彼女はお風呂に行ってしまった。
「「乾杯」」
そう言って始まった。
父さんとの思い出話。
お酒が進むにつれて母さんとの出会いや,
俺が生まれた時のこと色々な話をした。
小さい時に行った旅行話,
懐かしい想い出は今でも鮮明に覚えている。
話が盛り上がって
お風呂上がりの妻が
懐かしい想い出話の聞き手になってくれて
ずっと昔の話や最近の話など色んな話をした。
結婚の挨拶をした時
父さんや母さんがどう思ったのか。
聞いたこともない話もあった。
最後は父さんも俺も泣いて終わったような気がする
家族のたくさんの想い出
父さんと母さんのような夫婦になって
たくさんの想い出を語っていきたいと思った。
─────『たくさんの想い出』
「寒いね。」
そう言って私は少し背の高い彼を見る。
「そうだね。ホントに寒い。」
彼はそう言いながら手を繋いできた。
「こうすれば少しは温かいでしょ。」
付き合いは長い方だけど
手を繋いだことは1、2回程度で
なんだかまだ慣れなくて顔が熱くなった。
そんな私を見て彼は
「照れすぎ笑」なんて言ってたけど。
そんな彼の耳が赤いのは見逃してない。
お互い慣れてないことになんだか安心して
心が暖かくなった。
「そういえば,冬になったら何したい?」
私が彼に聞いた。
「うーん,クリスマス一緒に過ごしたりしたいかな。」
彼が言った。
「いや,当たり前じゃん。一緒に住んでるんだから笑」
私が言うと
「そうだね笑,でも今年のクリスマスは
ちゃんとお店でご飯食べない?」
彼は私に笑いかける。
去年はお互い忙しくて
夜しか会えなかったから少し残念だったんだよね。
「うん!今年の冬はやりたいこと全部やろう」
テンションが高くなった私を見ながら
「うん。最高の冬にしていこうね。」
優しい声で言ってくれる。
冬になったら
こたつでダラっと過ごすのもいいなぁ
雪遊びするのもいいかも
イルミネーション見に行ったり
初詣一緒に行ったり
やりたいこと沢山あるけど
1番の願いは
冬になっても彼と一緒に楽しく過ごすこと
─────『冬になったら』
あの日の私,どうかしてた。
あの日の私,心に余裕なかったの
あの日の私,頭がいっぱいになって話しちゃったの。
あの日の私,少しのイライラも許せないくらい
余裕がなかったから。
「ねぇ,いい加減にしてよ!!
何回言ったらわかってくれるの?私と別れて!!」
私たちはあの日,あの言葉で,はなればなれになった。
勢いで伝えた言葉
彼はどんな気持ちで聞いて
別れたかなんて私は知らなかった。
あれから数年たった今日。
彼との共通の友達から連絡が来た。
「ねぇ,あんたの彼氏大丈夫なの?」
「何が?」
何かさっぱり分からない私はそう返すしか無かった。
「何がって冗談で言ってるの?」
「は?どういう事?」
冗談って何?わけがわからない。
「あんたの彼氏...もう長くないんでしょ?」
「はっ?」
もう長くない?どういう事?死ぬって意味?
「それって死ぬってこと?」
「うん,そう聞いたよ。
辛いと思うけど最後まで彼と一緒にいてあげて」
言えない...。もうとっくに別れてるってこと。
「あぁ,うん。じゃあ,また」
そう言って私は電話を切った。
あれから私は,彼に連絡を取って話をすることにした。
彼は病室のベッドにいた。
「あ,久しぶり」
数年ぶりの彼の声は以前と変わらず
優しい声をしていて涙が出そうだった。
「...久しぶり。」
「俺,肺がんになったみたいなんだよね。も
う長くないらしい。
タバコの吸いすぎかなぁ笑」
「...タバコ?」
私と付き合ってた時は吸ってなかったよね?
「そう,君と別れてなんだか全部が嫌になって
吸うようになったんだよね。」
「そうなんだ...。ごめんなさい。
あの日のこと。一方的に別れを告げて。」
「あぁ,もういいよ。その代わりに一緒にいて欲しい。
もう長くないらしいからさ。
後悔したくないじゃん。」
彼の近くにいることを彼が望んでいるなら
そうしたいと思った。
一緒に空を見上げている時
一緒にテレビを見ている時
一緒に笑いあっている時
私,どんな彼も好きだなぁと思った。
数日後彼の体調が急変した。
「俺,今も好きだよ。君のこと。」
優しい目で私を見る彼。
苦しいはずなのに
そんな言葉言わないでよ...。
「そんなの...私も同じ気持ちだよ。」
そんなことを言うと彼は笑って目を閉じた。
もう二度と目を覚ますことはない彼を見て
涙は止まらなかった。
はなればなれしたことを
後悔したのは大切な人を失った時
─────『はなればなれ』
「お前って可愛くないよなw」
もうその言葉も彼も忘れていたはずなのに...。
なんで思い出しちゃったの?
その言葉は当時付き合っていた彼からの言葉だった。
彼が浮気していることを知っ私は彼に問い詰めた。
「ねぇ,浮気してるよね?
知ってるよ。なんで?
昨日まで可愛いって好きだよって
言ってくれてたのにあれは嘘だったの?」
「あぁwバレちゃった。浮気してるよw
なんでって仕方なくねw
お前よりもいい女が好きって言ってくれるからに
決まってんじゃんw
てかお前のこと本気で
可愛いとか好きとか思ってなかったからw
この世にお前のこと可愛いって思ってる人いんの?w」
彼はなんの悪いこともしてないように
ヘラヘラ笑いながらそんな言葉を言った。
「なんかごめんw本気に捉えてたんだw
嘘でも可愛いとか好きとか言ってあげた
俺を褒めて欲しいわw」
なんて言葉も言われた。
「別れて。...この部屋から出てって...!」
この言葉を出すことが精一杯だった。
"可愛くない""嘘でも言ってあげた"
彼が好きだからこそ,そんな言葉聞きたくなかった。
いっぱいお洒落して自分に似合うメイクも研究して
精一杯頑張ったはずなのに...。
彼に見合うように努力したはずなのに
私が彼に嘘つかせてたんだ...。
なんて当時あったことを考えていると
また涙が出ていた。
「あーぁ。猫になりたい。
大人の猫じゃなくて子猫になりたい。」
だって世界中の人が子猫を可愛がるでしょ。
お洒落しなくてもメイクしなくても
愛されて可愛がられて世の中不平等。
メイクしても可愛くならない私はどうしたらいいの?
なんのために生きていけばいいの?
「...もう死にたい。」
でも死ねない。
自分で命を絶つことが怖くて,
さらに自分が嫌になる。
自分で命を絶つその勇気が出るまで生きてみよう
自分の命の猶予期間をつくる
そのときまでに理想の自分に会えることを思って
─────『子猫』
そういえば一緒に住み始めてから
彼と待ち合わせしてデートする事って無くなったなぁ...なんて洗濯の待ち時間で思う。
「ねぇ,明日デート行かない?
ダメかな?待ち合わせして夕方デートしよ。」
「うん,いいよ。じゃあ夕方図書館で待ち合わせよう。」
私の提案にからは快くいいよと返事をしてくれた。
明日のことを考えていると,
いつもはめんどくさいめんどくさいと思うことが
今日はなんだかめんどくさいと思わなくて
ずっと口角が下がらなかった。
夜は,早く明日が来るように
いつもより早く寝ようとすると彼から
「楽しみにしすぎ笑」と笑われてしまった。
「だって久しぶりのデートだよ?
楽しみにしてくれてないの?」
楽しみにしてるのが私だけだと感じて私は彼に言った。
「そんなことない。俺も楽しみ。
君にもっと惚れて貰えるようにオシャレするね。」
なんて優しい言葉をかけてくれる。
もう十分惚れてるのに...
「今日は,俺も早く寝ようかな」
そんなことを言って一緒に朝を迎えた。
「おはよう。今日のデート忘れないでね。
いってらっしゃい。」
「おはよう。忘れるわけないでしょ笑,いってきます。」
朝早くから予定があった彼を見送ってから
私は今日のデートの準備をする。
まず,お皿洗いと掃除,洗濯回さないと...。
今日は待ち時間でデートの服装を決めた。
メイクも服装も髪型も普段より気合いを入れて
「よし,いい感じかな。」
全身鏡で変じゃないかを確認してた。
「いってきます!」
誰もいない部屋に言葉を発する。
こころなしかいつもより足取りが軽かった。
私を横を通る風はもうすっかり秋風を感じさせた。
涼しく冷たい風は私の手を冷やしている。
集合場所の図書館に着いて彼を探す。
「あっ,いた。」
私より先に来ていたようで彼は本を読んでいた。
彼は,普段よりもカッコイイ格好をしていて輝いているように見えた。
「ちょっと笑,来てたなら声掛けてよ。」
「あっ,ごめん。めっちゃ似合ってる,かっこよすぎて見惚れてた笑」
「なんだよそれ笑,そっちこそ似合ってる。
俺とのデートのためにオシャレにしてるの嬉しい。」
そんな会話をしながら外に出ると
彼は,何も言わずに私の手を取った。
「冷たっ。外冷えたもんね。」彼は言う
「いつもは家から手繋いでたからわかんなかったんだ。もうこんなに寒かったんだね。」私が言うと
「これからは俺がずっと手繋いでてあげる。絶対に離さないから。」
優しく私の顔を見て微笑む彼は
いつも私をドキドキさせる。
私は彼といるとさっきまでの秋風が
嘘のように温かく感じるみたい。
幸せを感じながら
今日も彼の隣を歩いていく。
─────『秋風』