星空の下で私たちは…
先輩との交流期間を完全に失ってしまった…
「お前、最近元気ないよな」
「好きな人に会えない気持ちがどれだけ辛いかわかってないでしょ!?」
「へぇへぇ」
君の意地悪にももう慣れた。可愛いかまってちゃんなんだ。私は先輩に会えない苦しみから少しだけ幼馴染くんに救われている気がする。頼もしい訳でも強い訳でもない。ただ、一緒に居るだけで、私は安心してしまったんだ。ずっーとそばにいて見捨てない人。君にはわかりもしないだろう、これまでの想いなんて、これまでの苦労なんて。
「今日も送ってく」
「えぇ。良いよォ、マジで優男(やさお)やね。」
「そんなんじゃねぇし」
「ここまでで良いよ、ありがと。じゃあまた…はぁ、仕方ないなぁ」
私の袖を無言で掴む幼馴染くん。おねだりのはじまり。私が何しようとも本気で疲れてる時以外は帰ってくれない。私たちは自転車を停めて、地面に腰を下ろした。星空が綺麗だったんだ。
「あっ!見て、あれあれ!めっちゃ綺麗。一等星かな?」
「ん?あ、ホントだ。」
私が空を眺めていると君は話し始めるんだ。
「あのさ、俺、最近ちょっと……」
学校の話や友達の話。幼馴染くんは決まって私の前で話して相談してくる。
「ストレスは溜めちゃダメだよ。あ、そうそう。ハグすればストレス軽減されるらしいよ」
そういうと君は私に向かって両手を広げた。恥ずかしそうにしながら。冗談はよしてよ笑なんて、あんなに真剣になっていた君に言えそうにもなかった。クスッと笑ってから私はまた星空を眺める。
君の手は私の手に触れていて、星空の下で私たちは、密かに互いの体温を噛み締めていた。
流れ星に、君はなんと願ったのだろうか?
私は先輩じゃなくて、幼馴染くんじゃなくていい。それでいいんだ。
先輩を見なくなって時間が経った。私の記憶からも先輩との毎日の練習が消えていく。毎日が切なくて、毎日が虚しくて。それでいい。私は先輩との思い出を忘れる他ないんだ。ずっと先輩の事を考えてるなんて、諦めたなんて言えないじゃない?
あぁ、此処で先輩のために…って練習したんだ。
でも、もう先輩のためになんて言葉も使うことはないんだ。
あ、先輩が此処で笑ってたなぁ。
もう笑い声も聞くこともないか。
ぬいぐるみの背中。チャックを開けて中に入っている先輩とお揃いにって作ったキーホルダー。先輩の名前をつけていたこのぬいぐるみ。
ー気持ち悪いなー
いやぁ、幼馴染くんの事を考えなくなってからスッキリした。やっぱり、これで良かった…のかな。好きだった。そ、そんな事…ないよ。それでいいんだ。私が君のことを考えることなんて…よっぽど君のトリコになってたんだな。君の努力が無駄になってないって伝えたかったんだけど。思わせぶり、誘ってる…色んなことを考えたけど、結果的に私のことも配慮した落とし方だった。まぁでも、そんな日々、楽しかった。ありがとう。
と言いながら握りしめてるペアルックのキーホルダー。
ー説得力なんてないんだよなー
エイプリールフール。私がついた嘘は罪深いものだったのかもしれない。
先輩、すみません。先輩が勘違いしてしまったかもしれないと思って。私、先輩が本当に好きでした。でも、先輩が卒業してしまったので、私は気持ちを切り替えたんです。私はもうそんな目で先輩を見てません。すみませんが、私は先輩のこと、大嫌いです!ご迷惑をおかけしました。それでは、また。
いつもの自分の練習場所。1人で練習したこのセリフは心が傷んで、私は先輩の前で嘘をつくことが出来なかった。
昨日の嘘。私は、今日、用事で部活に行けなかった。昨日の嘘は本当に私を引っ掛けるためだけに考えた嘘だったんだろうか?私も幼馴染くんと同じことを考えていたんだけどな…でも、聞いてほしいことがあるんだ。と、私は始める。
君の嘘、とてもつまらないよ。私をハメようとしたのかもしれない。でも、私はそう簡単には君に落ちはしないよ。君に沼りだってしないだろう。だって私はチョロくもなんともない。最初からわかってたでしょ?私、君のこと、大嫌いになったんだから。
でも、これ。君に似合いそうだったからあげる。
お返しの嘘と、私とのペアルックのキーホルダー。君は私の嘘に気づいてくれる?
私、今、この人と居られて幸せ…
大切な人、見つかったんだね。お幸せに…
私が言葉にするのはきっと…
先輩が卒業してからというもの、私は虚無虚無プリンのように、生きることさえ楽しくないと感じるようになってしまった。それでも、毎日毎日私の心は修復を続けた。走る時は前に先輩の姿が見えた。何気なく校内を歩いていると、先輩の笑い声が聞こえた。誰もいない3年の教室を1人で覗いては幻のように先輩の座る姿が浮かんだ。何をしても先輩のことばかり。私はずっと心が空になったままなのだろうか?
今日もまた1つ、思い出した。先輩がいた頃には、私は先輩をgoalに思い浮かべた。そしてgoalに向かってひたすら走っていた。先輩を見る度に部活の熱は燃え上がり、私はまさに絶頂に立っていたのだ。いつも1人で練習しているこの場所も、あの時は先輩で溢れていたのだ。今はもう、先輩の姿が消えてしまって見ようとしても見えないんだ。
あの日、夢見た先輩の隣。未来の私は叶えられたかな。
幼馴染くん。彼女さん、できたんだ。そっか。おめでとう。…え?私、元気がないって?そ、そんなことないよ!バッカじゃないの?き、君に彼女ができるなんて思ってもいなかったからびっくりした…だけだよ。…君が私のモノになっていてくれれば良かったのに。なんでもないよ!そっか、じゃあ、君は彼女さんと上手くいくといいね。まだ学生だけど、長く続くこともあるしね!
何かスッキリしたと感じる気もした。それは気のせいなんだ。きっと。本当に思ってもない出来事だった。そんな時に
「そんなん、嘘に決まってんじゃん。明日、来ないんでしょ?エイプリールフール、お前にも引っかけてやりたいって思っただけだから笑」
君からこぼれた真実。エンマ様、許してくださいと可愛く頼む君は、私をまた期待させてしまうんだ。
「なんでそんな嘘、つくの?もう、嫌い!」
少しだけ安心して、嬉し涙が出てしまった。君は私を幸せにしてくれる?
何気ないフリ1つで私は振り回されてしまうんだ。
先輩が、考えている。先輩が間違えている。何気ないフリしてまた戻ってくる。先輩を追いかけると毎日毎日新しい発見がある。先輩の癖や先輩の話し方。でも、いくら真似しようとそれは真似をしている自分でしかなかった。
あーあ、先輩見失っちゃった。
そう思った途端に先輩が走って来て、すれ違って行った。先輩の匂いが一瞬のうちに漂って、私はこの空気を、この時間を私のものだけにしたいと思ってしまった。振り返ると、先輩は首元を触っていた。先輩は今…。そっか、私の事、視界には入れてくれていたんですね。
何気ないフリして私に話しかける幼馴染くん。何気ないフリして私に微笑む幼馴染くん。何気ないフリして私の袖を引っ張る幼馴染くん。君にはいつも青春ってものを学ばせてもらっている。別に好きでもないし、嫌いでもない。ただ友達以上恋人未満ってだけで、こんなにもキュンとして胸を締め付けられるんだと毎度実感している。何気ないフリして、あの時、私に…しようとした君を今でも忘れているわけじゃない。本当は君でも良かったんじゃないかと思ってしまうくらいだ。でも、この気持ちは間違っている。だって、だって…
何気ないフリして優しくしてくれる君に勘違いして好きという感情を抱いてしまうのは、きっと間違っている、そう思うから。