私の元を去る先輩。
私に気がなくなったような幼馴染くん。
私のそばにいたお兄ちゃん。
先輩も幼馴染くんもお兄ちゃんも…みんな私を置いて行くんだ。サヨナラも言わずに…
先輩。県内の高校に留まるんですね!でも、遠いんですね、高校。出来れば隣町のあの偏差値の高い高校にして欲しかったです。先輩なら入れたのに…そ、そうですよね、陸上、続けるんですよね。そっか、行ってしまうんですね。私、先輩のこと、まだ諦めてもいないのに。
君!…君。あ、君。ねぇ。…き…。私が呼んでも答えてくれない。そんなに私の事嫌いになったんだね。いつもいつも私の元に来るくせに。今度は私が近寄るのも嫌だって言いたいの?なんでずっと私たちの距離が縮まらないの?君、私の事、諦めたんだね。私も君にそんな気は一切なかったよ。君が言えば私の気持ちは動いたのかもしれないのに。ずっと待ってたよ、君のこと。私に会うことさえも引け目を感じているんだね。そう…なんだね。
おにぃ…お兄ちゃん!行かないで、お願い。ここに居て。そんなことは聞きもせずにお兄ちゃんの大学は県外に決まった。生まれてからずっと私のそばにいたお兄ちゃん。引越しの準備をたんたんと進めている。
県内に留まれば良かったのに。
将来の就職が確実になるかもしれないんだ。
いつ帰ってくるの?ゴールデンウィーク?
んー。ゴールデンウィークは難しいな。
いつ帰ってくるの?
わかんないな。帰ってこないかも笑
時には大好きで、時には大嫌いで。それでも、私たちは毎日毎日一緒にいて。他の兄弟とは比べ物にならないくらいの仲良しで。私はお兄ちゃんが大好きだ。ブラコンなんだ!そんなお兄ちゃんも4月にはこの家を旅立つ。私も見送りについて行くけれど。お兄ちゃんも私のことを置いて行くんだ。ずっとここにいればいいのに。それじゃあダメなんだよと笑うお兄ちゃんに私は泣きたくなった。いつもワガママ言っては怒られた。でも、今回だけは聞いてほしい。それもまた、ダメだった。お兄ちゃんは私の一番の宝物なのに。自慢の兄なのに。
先輩も幼馴染くんもお兄ちゃんも。みんな私の元から去っていく。それでもなお、私はハッピーエンドを追い続ける。私の本当のハッピーエンドはもう…存在しないのかもしれない。
…サヨナラくらい言ってくれてもいいじゃない
見つめられると…堕ちてしまう。君の沼へ、堕ちてしまう。
先輩は今日も私の視界に入っている。先輩を見つけては喜んで目で追いかける。ある種のストーカー行為だと思ってくれて構わないが、私の日常の支えだった。ずっと、学校の事をこなし続けてきた。
先生)これ、お願いね。
友達)これ、代わってくんない?頼む!じゃあね。
はい。いいよ。全然大丈夫。暇だからさ。ついでにやっておくよ。
今まで私はいくつの物事をこなしてきただろう。自分の時間まで裂いてしまって…
なぁ、やめろよと友達と絡む先輩とすれ違った。笑顔。笑い声。姿。形。私の…好きな人。私がつい追いかけると目が合ってしまう。数秒、たかが数秒でも見つめあっていた。私の心は先輩に全て覗かれた。持っていかれた。沼らない理由なんてここにありはしないだろう。
人が5秒以上見つめ合うと一目惚れと同じ状態になる。このようなことを聞いた事はありませんか?そんなことを知った後の私と幼馴染くん。私の方が意識してしまったのかもしれません。
「ねぇ、、、」
袖を引っ張る君。これはボディタッチではなくスキンシップの延長だと誰かが言っていた気がする。
「なぁ、おい!」
私の腕を掴む君。私は今セクハラを受けているのだろうか。
「君、女子には優しく接しないと。将来を担うLadyなんだから」
「また急にそんな意味のわからない事言って。今日なんかおかしいぞ?」
私の顔を覗き込む君。私は恥ずかしくなって、顔が紅潮する。
1…怖い
2…顔が火照るのがわかる
3…君の目が映る
4…綺麗だ
「あっ!せ、セクハラだ!」
「あ、あぁ!?」
ごめん。今日はもう、君を見つめる気力さえ残ってないよ。
The pain in myheart.
先輩は私を選んでくれなかった。
「そういうのに興味ありません」
先輩の文字が歪んで見えた。あれ、これは…書き間違え?私の期待には応えられない。先輩の期待に応えられない。要らなかった私の勇気。無駄だった先輩の彼女枠の可能性。
先輩は無口に戻る。先輩は私の前に現れなくなる。私にしかわからない距離感で離れていく。
そうして私の心はまたいらない傷を負う。
ねぇ、最近あの子たち話してなくない?え、あそこって出来てるんじゃないの?え、でもあの子の好きな人って先輩じゃなかった?もしかして二股!?やだ、私もちょっとあの子の性格疑ってたんだよね。
勝手なこと言ってんじゃねーよ。
「君ぃ?君のせいで私が大変なことに巻き込まれてるってこと知ってる?」
「お前が勝手に巻き込まれに来てんだろ?あぁ?」
「誰がお前だ?もういっぺん言ってみろや、二度と口聞けねぇようにしたろうか?あぁ?」
「やれるもんならな」
誰かが通ると
「汚い言葉を使ってすまない。君、とりあえず謝ってくれないかな?」
「俺…僕が謝る必要ってあるんですか?」
ごめんてと吹き出す私に幼馴染くんは少し困った顔をした。君の不意な行動や言動でやはり勘違いを招くようだ。そんなことを言われても気にしない私と君との仲はきっと誰が切ろうと繋がっているのだろう。私たちは無敵な幼馴染。だと思っていた。
笑顔の君。勉強を教わりに来る君。私に触れる君。次第に私の知っている君の姿が減っていった。君も私にしかわからない距離感で離れていく。少し困った顔をしていたのはそのせいだったんだね。
私はまた意味の無い傷を負う。
あぁ、こんなにもボロボロになってしまったんだ。
私は初めっから…ないものねだり
「これは?」
ー欲しくないー
「あれは?」
ーいらないー
「なんでみんなと同じように欲しがらないの?」
ー家は貧乏だから欲しいと言ったら怒られるー
「普通じゃないんだね笑」
ーいいんだよ、私は変わり者でー
私が初めて命をかけてまで欲しいと願ったものは先輩だった。笑顔の先輩。走る先輩。ありがとうと呟く先輩。欲しくなって関わる度に増すないものねだり。いつしか欲しいのは先輩。先輩の…何?先輩の…先輩の……愛。辿り着いたのは愛。先輩からの愛だった。…欲しい。でも関わる度にわかっていった。私に対しての先輩からの愛は1ミリも無いって事。私のないものねだりは私自身を不幸にする。私がねだった愛は知りもしない誰かに注がれ、私は望まない涙を流す。私の唯一のないものねだり。
幼馴染くんの声が聞こえた。それは笑い声。女子の声も聞こえる。私には見せようともしない笑顔をそうやって簡単に見せる。君の想い人になる人はさぞかし誤解するだろうに。君は私の元に来ると急に無口になる。話す話題がないなら帰るよ、と。君が勝手に来ていただけなのに、話題がないのもまた私のせい。君といると頭を抱えてばかりだな、私は。それでも私が無口になる時はそばで君が話をしてくれる。お前の点数が低いんだったら俺はどうなるんだよ。君の言葉にも声にも私は安心してしまうのだな。私たち、ずっとこのままでいられないのかな。君の声をそばでずっと聞いていたい。それは…ないものねだりになってしまうのだろうか。
「なんでみんなと違うものを欲しがるの?」
ー欲しがっているのには変わりない。ただそれが
手に届かないだけー
「小さい頃からずっと欲しがりもしなかったくせに」
ーいいんだ。私はずっと変わり者でいいんだー
好きじゃないのに…私も最初はそうだったのにな…
陸上部に入部して少し経った。私は私の種目に命をかける。ただそれだけ。先輩は尊敬している。特に長距離のs…いや、言わないでおこう。走る姿勢が綺麗でつい目で追ってしまう。やっぱり今日もカッコイイ。部活に対して真剣に向き合っている。私もいつか余裕が出来たらあんな風に…。
ある日の事。私はいつものように部活に行き、セクションにわかれた練習をしていた。その時、誰かの笑い声がした。先輩だった。汚れのないあの笑顔は今でも忘れられない。そう、その時。私の胸は高鳴っていた。それからというもの、四六時中先輩の事を考えては勝手に気分が舞い上がってしまう。
「あ、私…先輩の事、好きになっちゃった」
好きじゃないのに…はもう既に好きという感情に変わっていた。
好き・好きじゃない・好き・好きじゃない…みなさんも幼い頃、経験したのではないでしょうか。花びらを一枚一枚ちぎりながら占うんですよね。実は私も少し前にやったんです。
幼馴染くんは私を弄(もてあそ)んでいる。スキンシップは多いし、距離は近いし。私は幼馴染くんに対して決してそのような感情はございません。ですが、最近厄介なことに少し避けられると心配になるんです。というか寂しく思うんです。親しくしては距離をおく。また親しくしては距離をおく。この繰り返し。そばにいるのが当たり前になるといないことを不安に思うようになるんですよ、これがね。そうして、私自身の想いが狂わないためにもという予防策を考えた結果。あの遊びに辿り着いた訳です。今丁度、3回目が終わりました。偶然に偶然が重なり3回とも好きで終わってしまう。こんなことを聞いたことはありませんか?
ー1度目は偶然。2度目は必然。3度目は運命ー
と。つまり、私が偶然だと思っていたことは偶然ではなかった訳です。私は好きじゃないのに…幼馴染くんの発言や行動に期待してしまう。これはもはや運命なのでしょうか。
最初は初心。ただそれだけの話だったのに。