<登場人物>
カナエ:高校生(腐)女子。
アイザワ:大学生男子、カナエの家庭教師。
「……うん。合ってる、よく出来ました。よし、じゃあ今日は、ここまでかな。なにか質問はありますか?」
「アイザワ先生、身長は何センチですかー?」
「175センチでーす、ってカナエさん、そうじゃなくて勉強の、」
「そっちはないから、いっかなーと思ったの! そういえばこの前も、バッタリ会っちゃったよねー。またキシダさんと二人で、並んでこっちに歩いてきて……キシダさんの身長は、何センチですかー?」
「アイツは確か185、って……」
(アイザワ’s heart)
──カナエちゃんやっぱり、キシダ狙い?
キシダの身長知りたくて、俺のから聞くとか……。
フフッ、ちょっとカワイイじゃん?
(カナエ’s heart)
──よしよしよしよし、よーし。
それぞれのプロフィール、充実してきたぁ!
ふんふん、10センチ差か、なるほど……。
「そっかー、うん。先生ってばキシダさんのこと、軽く見上げてたもんねー」
「っ、そりゃ……そうなるよ、アイツのほうがデカいんだから」
「え、あれ。先生背低いの、気にしてた?」
「いや、そういうわけじゃないし。でも175はそんなに低くないよね?」
「うん。そんなに低くないよ?」
(アイザワ’s heart)
──んん? なんか、ニヤニヤしてる……?
や、そりゃ……ちょっとだけ、気にはしてたけども!
ってかカナエちゃん、それ見抜いて俺をディスりたかっただけ、だったりする?
(カナエ’s heart)
──ちょっ、やだ、先生ってば!
ナニソレ、もう……かーわーいーーー!!
うんうん、気にしてたんだよねっ、キシダさんとの差にちょっとイラって、「そのうち追いついてやるからなっ」とか、ゆっちゃう? ゆっちゃってるのっ? ハァ尊いわー……こんなの、筆が進んじゃうから……。
先生、待ってて! 二人のこと、私……『ハッピーエンド』迎えるまで、ちゃーんと書くから、ねっ?
(ご興味ある方は『My Heart』もどうぞー)
眼鏡越しだっていうのに──「俺に愛されてるって、わかってるだろう?」と言わんばかりの、あの目が全部、いけないんだと思う。
彼に『見つめられると』本当に、どうしたらいいのか、わからなくなってしまって。この「わからなくて怖い」状況から逃れたくて、彼との距離を少しでも稼ぎたくて、でも彼から目を離せずに背を向けられないまま、じりじりと後退する。
「……逃げたく、なっちゃった?」
ふいに──優しい声で、問われ。
私はハッとして、それから、足にグッと力を入れて、その場に踏み止まった。
「っ、ごめんなさい。もう、逃げません」
この先を期待して彼を自分の部屋に上げたのは、他ならぬ私、なのだ。
なのに。とにかく、動悸が止まないし、止まないし、止まないし──自分の体が、自分のものじゃないみたいな、地に足が付いてないようなこの感覚を、どうしたらいいのかわかんなかったけど、でも。
もう……逃げたく、ない。
私だって彼と、この先に……。
「……あ」
「え? ……あっ。私、これ……鼻血?」
「おっとっと、ほらティッシュ、押さえて!」
☆ ☆ ☆
「……つまり。俺の眼力のせいだ、と?」
「ううっ、ごめんなさい! 鼻血なんて私、こんな、のぼせちゃうなんて……あーもうっ」
「べつに謝ることないし。じゃあ、まぁ……それならさ、よいしょっと。……こういう、バックハグなら、どう? こうやって後ろからだったら、俺の目、見えないだろうし?」
「っっ?! 〻£⁂⌘$<%〆#!!」
<登場人物>
カナエ:高校生女子。
アイザワ:大学生男子、カナエの家庭教師。
「お邪魔しまーす。こんばんは〜カナエさん、さっそくだけど今日は……ん? それは、英作文かな?」
「うん、そんな感じ。『My Heart』っていうお題でね、考えてたの」
「お題? 宿題ってこと? どれどれ、
"Don't forget that my heart is always with you."
"I love you with all my heart."
……うん、ちゃんと書けてるね」
「そりゃそうだよ、だってこれコピペだもん」
「っ、コピペって、」
「悩んでるのはね、訳のほう」
「そうなんだ。んーでも、カナエさんレベルなら、そんな難しくはなさそうなんだけど」
「そんなことない」
サラサラサラ…(シャーペンを走らせる音)
「……うん。よし、書けた。じゃあ先生、ちょっと読んでみて?」
「え? あっはい、えーと…"忘れんなよ、俺の心はいつだって、お前と共にあるんだ"……なんか、翻訳がアツいね?」
「んー。もうちょっと、心を込めてくれると……」
「え? 心を?」
「うん。じゃあ心を込めて、こっちも読んでみて」
「……"俺はお前を、心の底から愛してる"」
「……グ、フッ。アイザワ先生、すっごくいい」
「っっ?! えーと、それって……え?」
(アイザワ’s heart)
──ま、まさかっ?
カナエちゃん、俺のことが好きなのかっ……?
(カナエ’s heart)
──やっぱり。思ってた通り、先生は「受け」。
ここぞって時に、こういうセリフを「攻め」にサラッと言っちゃう系の、天然入った「受け」だよね、グフッ、グフフフフ……。
「あ、そうそう! この前、先生とばったり会ったときに先生と一緒にいた人、お友だちですか?」
「えっ? あー、うん。アイツは同じサークルの、キシダっていうんだけど……」
(アイザワ’s heart)
──ま、まさか?
あの一瞬でカナエちゃん、キシダ狙いかよ?
……なーんだ、そっか。
まぁアイツの顔面、なかなかだもんなー……ハァ。
(カナエ’s heart)
──キシダ、さん。
キシダ×アイザワ……グフッ。
(昨日のつづき。1800字越え…お覚悟を!)
国の少子化対策の一環として始まった、お狐様の祝福、通称「狐の嫁入り」。
この祝福は無作為に、晴れの日の小雨とともに授けてくれるもので、わかりやすく花びらを一緒に散らしてくれる、ということになっている。
お狐様からの祝福を受けた者は、24時間のうちに運命の人と出会う、のだそうで──私は絶対にそれを避けたかったから、この祝福が降る予報が出た日には、必ず傘を持って出掛けていた。
……それなのに。
あろうことか、電車から降りたところで傘が、どういうわけか、車内にいた乗客のリュックに引っかかり、そのままドアが閉まってしまい。
そして私が呆然とその電車を見送っていたところで、屋根のないホームの空から、水滴と花びらが……。
「……ユキヤナギだ、これ」
びっしょり、ではないけれど。
雨に降られて濡れた髪を耳にかけながら、私はボヤいた。
柳のような枝にびっしりと、可憐な小さな白い花を咲かせるユキヤナギの、あの小さな白い花びらが、たーっくさん──濡れた髪や服に、気前よく、降りかかっていて。
「どうすんのよ、これ」
こんな、花びらが小さいのを大量にって、一種の嫌がらせとも思えるんだけど?
このまま洗濯機に入れらんないし、でもまぁ、乾けばパラパラと落ちてくれるかな……。
ああでも、そんなことよりも。
これから24時間のうちに、私に、いったいなにが起こるのやら──。
………………。
っ、あ〜もうっ!
このまま帰ろう、仕事なんか、休んでやる。
24時間を自宅で、やり過ごしてしまえば──押し付けられた運命とか、そんなモノからも逃げられるはず!
ホームにいる人たちから、「あの人、祝福受けた…」的な、なんとも言えない視線を感じる。
にしても、ホームには結構人がいたのに、上手いこと私だけが花びらまみれなのには、あきれるのを通り越して感心する。
まったく、いったいどういう仕組みになってんだか……。
降りた番線と反対側の番線に、下りの電車がすべり込んで来て。
それに乗り込むべく、ハンドタオルで花びらを払いながら、ホームドアの脇に寄った私は、突然耳に飛び込んできた「あのっ!」という声に、ビクッと身を震わせた。
「ごめんなさい、傘!」
電車から降りて来た人の、どうやら私に向けて放った声に、驚いて顔を上げると。
さっきの、ドア付近であのリュックを抱えていた、学生さんらしき男の子だ。
そこでベルが鳴って、ホームドアが閉まり。
乗り損ねた電車が走り去るのを、彼の背後に眺めているうちに少しずつ、私の頭が働き始めた。
「……え。わざわざ、戻ってきてくださったんですか?」
「もういないかとも思ったけど、いてくださってよかったです! 本当にごめんなさい、ボクがリュックをしっかり抱え込んでなかったから、」
「いえそんな、私の傘の持ち方も、甘かったので」
傘を受け取ってお礼を言い、彼とお互いに、ペコペコと頭を下げ合い……。
んん、ん?
まさか……ね。
この子が例の「運命の相手」だとか、言わないよね?
別に『ないものねだり』するわけじゃないけど、この子だと……年上でもないし、私と同じくらいの背で、私より体重も軽そうな細さで?
そして学生さんならもちろん、経済的に自立してる年齢でもないし、でも顔は……。
って……いやいやいや。
さすがに、違うでしょ。
ってか、そんな目線……彼に失礼だし!
「じゃあ。私は、これで」
「はい。……あれ? また電車に、乗るんですか?」
「ええ。ちょっといろいろあって、帰らなくてはいけなくて」
……と。
そんなふうに、お互いの名も名乗らずに別れた、私と彼、なのだけれど。
いろいろあってその後、しっかり偶然の再会を果たす、とか──。
「あの朝。実はボクも、祝福を受けてたんですよね」
後に──未だ敬語の抜けない彼から、聞いたところによると。
「ボクのは、チューリップの花びらでした。マンションのエントランスを出たところで、降られて……慌てて部屋にかえって、ホウキとチリトリとゴミ袋を持って戻りました」
あー、もう。
本当に、なんって律儀な子なのかしら?
で、それで、まぁ……私は彼のそんなところに、すっかり絆されてしまったわけで。
……ったく、お狐様め。
相手がまだ社会人じゃないとか、歳の差とか、世間体とか……いろいろと、本当にいろいろと、いったいどうしてくれるのよ?
「……は晴れ。『ところにより雨』や祝福の花びらが降るでしょう」
朝のニュースで天気予報をチェックするのが、仕度の最後。
テレビを消して玄関へと足早に移動し、靴を選んで履いて、迷わずに長いほうの、UVカットも兼ねた傘を手に取る。
まったく。いくら少子化対策待ったなしだからって国も、お狐様に頼むってのは、どうなのよ?
で、「いいよー」とばかりに安請け合いした……のかどうかはわからないけど。
お狐様はしっかり、国民への祝福を約束してくれた。
この「狐の嫁入り」という名の祝福。
無作為に、晴れの日の小雨とともに授けてくれるのだけれど、わかりやすく花びらを一緒に散らしてくれる、ということになっていて。
その祝福を受けたくない者は、傘を差せばいい──そして。
私は絶対に、その祝福を受けたくなかった。
テレビやSNSで見た、祝福を受けてしまった人たちの話によると、どうやら、たいして『好きじゃないのに』相手と結婚に至ってしまった、そんな事例もあるのだそうで。
そんなのって……それも出会いの一つ、だなんて私は、ちょっと怖くて割り切れない。
祝福を受けて、24時間のうちにあなたは、お狐様のご縁で、運命の人と出会えるでしょう──って?
喜びの声も多く、なーんて報道もあるけど、さ?
みんな、本当に……どうかしちゃってるよね?
<つづく>
……かどうかは今後のお題と気分次第!