komaikaya

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(昨日のつづき。1800字越え…お覚悟を!)


 国の少子化対策の一環として始まった、お狐様の祝福、通称「狐の嫁入り」。
 この祝福は無作為に、晴れの日の小雨とともに授けてくれるもので、わかりやすく花びらを一緒に散らしてくれる、ということになっている。

 お狐様からの祝福を受けた者は、24時間のうちに運命の人と出会う、のだそうで──私は絶対にそれを避けたかったから、この祝福が降る予報が出た日には、必ず傘を持って出掛けていた。

 ……それなのに。
 あろうことか、電車から降りたところで傘が、どういうわけか、車内にいた乗客のリュックに引っかかり、そのままドアが閉まってしまい。
 そして私が呆然とその電車を見送っていたところで、屋根のないホームの空から、水滴と花びらが……。

「……ユキヤナギだ、これ」

 びっしょり、ではないけれど。
 雨に降られて濡れた髪を耳にかけながら、私はボヤいた。

 柳のような枝にびっしりと、可憐な小さな白い花を咲かせるユキヤナギの、あの小さな白い花びらが、たーっくさん──濡れた髪や服に、気前よく、降りかかっていて。

「どうすんのよ、これ」

 こんな、花びらが小さいのを大量にって、一種の嫌がらせとも思えるんだけど?
 このまま洗濯機に入れらんないし、でもまぁ、乾けばパラパラと落ちてくれるかな……。

 ああでも……そんなことよりも。
 これから24時間のうちに、私に、いったいなにが起こるのやら──。

 ………………。
 っ、あ〜もうっ!
 このまま帰ろう、仕事なんか、休んでやる。

 24時間を自宅で、やり過ごしてしまえば──押し付けられた運命とか、そんなモノからも逃げられるはず!

 ホームにいる人たちから、「あの人、祝福受けた…」的な、なんとも言えない視線を感じる。
 にしても、ホームには結構人がいたのに、上手いこと私だけが花びらまみれなのには、あきれるのを通り越して感心する。
 まったく、いったいどういう仕組みになってんだか……。

 降りた番線と反対側の番線に、下りの電車がすべり込んで来て。
 それに乗り込むべく、ハンドタオルで花びらを払いながら、ホームドアの脇に寄った私は、突然耳に飛び込んできた「あのっ!」という声に、ビクッと身を震わせた。

「ごめんなさい、傘!」

 電車から降りて来た人の、どうやら私に向けて放った声に、驚いて顔を上げると。
 さっきの、ドア付近であのリュックを抱えていた、学生らしき男の子だ。

 そこでベルが鳴って、ホームドアが閉まり。
 乗り損ねた電車が走り去るのを、彼の背後に眺めているうちに少しずつ、私の頭が働き始めた。

「……え。わざわざ、戻ってきてくださったんですか?」
「もういないかとも思ったけど、いてくださって、よかったです! 本当にごめんなさい、ボクがリュックをしっかり抱え込んでなかったから、」
「いえ、私の傘の持ち方も、甘かったので」

 傘を受け取ってお礼を言い、彼とお互いに、ペコペコと頭を下げ合い……。

 んん、ん?
 まさか……ね。
 この子が例の「運命の相手」だとか、言わないよね?

 別に『ないものねだり』するわけじゃないけど、この子だと……年上でもないし、私と同じくらいの背で、私より体重も軽そうな細さで?
 そして学生さんならもちろん、経済的に自立してる年齢でもないし、でも顔は……って、いやいやいや。

 さすがに、違うでしょ。
 ってか、そんな目線……彼に失礼だし!

「じゃあ。私は、これで」
「はい。……あれ? また電車に、乗るんですか?」
「ええ。ちょっといろいろあって、帰らなくてはいけなくて」

 ……と。
 そんなふうに、お互いの名も名乗らずに別れた、私と彼、なのだけれど。

 いろいろあってその後、しっかり偶然の再会を果たす、とか──。

「あの朝。実はボクも、祝福を受けてたんですよね」

 後に──と言っても、未だ敬語の抜けない頃の彼から、聞いたことによると。

「ボクのは、チューリップの花びらでした。マンションのエントランスを出たところで、降られて……慌てて部屋にかえって、ホウキとチリトリとゴミ袋を持って戻りました」

 あーもう。
 なんって、律儀な子なのかしら?
 でも、まぁ……私は彼の、そんなところにすっかり、絆されてしまったわけで。

 ……ったく、お狐様め。
 相手がまだ社会人じゃないとか、歳の差とか、世間体とか……いろいろと、本当にいろいろと、いったいどうしてくれるのよ?


3/27/2026, 8:08:13 AM