komaikaya

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2/13/2026, 9:03:52 AM

「えー。貴女に『伝えたい』ことがあります」

「はい? なにを改まって……まぁ、はい。どうぞ」

「俺と結婚してください」

「……けっこん」

「はい。結婚、です」

「結婚。私と……タクミ?」

「指差して確認しなくても。いまこのテーブルには、俺とアヤしかいないんですけどね」

「っ、プロポーズじゃん」

「はい、そうなります」

「プロポーズを、いま……ここ? 『この場所で』?」

「っ、……はい」

「いつものトコでいっかー、で決めた居酒屋で。生で乾杯して二杯目も飲んで、こうして三杯目に口つけてる、このタイミングで」

「っ、えーと、いろいろ考えたのですが。自分の精神的負担の軽減を優先したら、こうなってしまいました。返す言葉もございません」

「あー違う。責めてるわけじゃなくて……いつもの店で肩の力抜いて、でも二、三杯ひっかけてからじゃないとダメだった、と」

「うん……はい、その通りです」

「それを聞く私は、といえば。ホッケの骨をこうやって、ベロベロッと剥がしたところ……」

「あー……ごめん、タイミング……」

「や、責めてるわけじゃなくてね、ホッケをどう攻略しようか考えてたから、ちょっと思考が追いつかないって言うか」

「何気に俺のことは、冷静に分析してんのに」

「うん、そうなんだけど。自分でもよくわからない、意外と動揺してるのかな」

「……とりあえず。ホッケ、食ってよ」

「……うん、そうする。タクミ、このヘンのトコ、ガッツリ取っちゃって」

「じゃ、遠慮なく……っていきたいトコだけど、よく考えたらそれどころじゃねーわ」

「だよねぇ。私、まだ返事してないし」

「返事……」

「でも、ホッケが冷めていくのも、放って置けないし」

「ホッケ……」

「って、アレ? 私ってやっぱ、タクミのこと、責めたいのかな?」

「あああ……タイミング的に、最悪だったよな……」

「フフッ、そんな、頭抱えなくたって。でもこれって、一生カラカえるネタになりそうじゃない?」

「一生かよ。……っ、一生? 」

2/11/2026, 5:32:48 AM

大きな手が
すくいあげにくるんだ
『誰もがみんな』を

『誰もがみんな』
あの手の中にあって
でもポロリと
指の隙間から
こぼれ落ちたボクには
『誰もがみんな』の
誰もが
気づかない

落ちてしまった
ボクは
どんどん高くに
遠ざかる手の甲を
じっ、と見上げている

『誰もがみんな』には
なれなかったな、って

けれども
あるときは

ボクはあたたかな
手のひらの内側にいて
つまりは
『誰もがみんな』の
みんなの中にいて

指の隙間から
下に見える
小さくなってゆく
なにかを
少しだって
気にしたことはなく

過去なのか
未来なのか
いつかの
こぼれ落ちたときの
記憶を
感情を
忘れてしまえるのだ

『誰もがみんな』になれた
という

ただ
それだけの理由で

2/10/2026, 9:50:07 AM

 君たちはまるで摘み取られ供された花々のようで、この永遠の時を生きる私には、その限られた時間を君たちと共にするのはとても苦しい──だからこそ、花という花はすべて、この身から遠ざけてきた、それなのに。

 いまの私はこの手に、君たちという『花束』を抱えている──いずれ後悔するだろう、すべての花々がこの手の中で枯れるのを見る、その未来は遠からず訪れるのだから。

 だとしてもこれだけは、伝えるべきなのだ。
 縁あって、この私の手の中に留まる君たちへ。

「出会ってくれて、ありがとう」と。

2/9/2026, 2:14:30 AM

「店長、お願いがあります」

「ん? 北野さん、なにかな?」

「わたしのバイト代から、『スマイル』分を差っ引いてもらえませんか?」

「……スマイル、分? えーと……え? 差っ引く?」

「だってわたし、同じバイトなのに……恩田さんに比べて、ぜんぜんスマイル出来てないじゃないですか」

「あー……まぁね、そんなこともあるだろうけど、それはこれから頑張ってくれればいいから、ね?」

「無理なんです、絶対! オーダー取るのも下げ物もちゃんと出来るって自信あるんですけど、スマイルだけは、わたし……どうしても、出来ないからっ!」

「えーと。なんでそんな、思い詰めてる感じ? ってか、店長のオレはそんなん指摘してないし、誰か他のスタッフに、なにか言われたとか?」

「そんなんじゃありません! スタッフの皆さんはいい人です、そんなこと言わないです!」

「あっハイ、すみません……でも、じゃあなんで」

「店長。恩田さんのスマイルがある日とない日で売り上げが違うのは、もちろんご存じですよね?」

「えっ? ……うーん、そんなに違うかなー?」

「恩田さん、帰りに必ず言ってます。『今日も忙しかったねー』って。正直わたしはそんなでもないことのほうが多くて、それってつまり、同じバイトなのに仕事量に差があるってことで……すなわち! 恩田さんにあってわたしにはないスマイル分、わたしがちゃんと働けてないってことじゃないですか!」

「……いや、待って? それはなにか違うんじゃ、」

「わたしだってちゃんとスマイルしなきゃ、一度はそう考えました。でも……無理なものは無理、わたしこの仕事で、あんなふうに笑えないっ。お客さんや店長の薄ら寒いオヤジギャグにも爽やかに微笑んでみせる、恩田さんみたくなれないんです!」

「や、無理して笑う必要、ないからね? それと、オレのギャグって、そんな?」

「無理して笑う必要が、ない……? じゃあ、それじゃあ恩田さんが、恩田さんのスマイルが報われないじゃないですか! あんなに売り上げに貢献してるのに!」

「っっ! よーし、北野さん、いったん落ち着こうかー? 北野さんのおかげで、恩田さんが頑張ってくれてることがよーくわかったからねー、うん。恩田さんの時給を、次の査定で充分考慮する、これでどうかなー?」

「……スマイル手当、導入していただけますか」

「っ、スマイル、手当?」

「恩田さんのためにも、ぜひ」

「あっ、あー……そういうのあったら頑張れるってバイトさん、多いのかなー? 北野さんももしかして、スマイル手当があれば励みになって、スマイル出来ちゃったりしてー?」

「わたしは、スマイル無しですね。本っ当に無理なんで、お客さんと店長の寒すぎて処理に困るダジャレとオヤジギャグ」

「北野さん……スマイルは無しでいいからね、けど言葉はもっとこう、オブラートに包んで欲しいかなっ泣」

2/8/2026, 7:58:50 AM

 私が彼女へのこの気持ちを"誰にも言えず『どこにも書けないこと』"とする魔術を自らに施したのは、国の魔導師の長として、国のすべての民の前で公平な立場で在らねばならないからで。

 とにかく、本人の前であろうとなかろうと、気持ちを口に出しさえしなければ、乗り越えられる──そう思ったからこそ、この気持ちに自覚したその日に魔法陣を描き始めて三日をかけて完成させ、全精力を削ってそこにマナを注ぎ込み、魔術を成功させたのだ。

「……いやぁ、うん。ここんとこ一体、なにやってんだろーなーとは、思ってましたけど。でも閣下の側近としてこの際、はっきり言わせていただきます。閣下のお気持ちは、口にせずとも記さずとも、バレバレです」

「……は? なんで?」

「魔塔にも城内にも、閣下の第4王女殿下へのお気持ちを知らない人なんて、一人もいませんから。ってか自覚すんの、遅すぎじゃないですか?」

「えっ? っ、いや、だから……なんで?!」

「なんで、って……閣下は、その自覚もないんですよねぇ……ああ、そろそろ第4王女殿下とお約束した時間じゃないですか?」

「あっ、ああ、そうだな。なぁしかし、バレバレは言い過ぎじゃないか? そこは訂正を……って、鏡?」

「その、ゆるんだ顔! それに王女殿下への態度が、他の人と比べて全然違うのと! その、いまも無自覚に垂れ流してる浮かれマナがまるで、背景に花飛ばしてるみたいなんですってばー!」

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