暗黒に飲み込まれようとしている、この世界で。
神が我らにその存在を示した『たった1つの希望』──すなわち、神託が選んだ聖女は他でもない、貴女様なのです。
さあ、この世の暗黒たる魔王を討ち果たすべく、いざ共に参りましょう!
「……無理」
「……え?」
「いま、無理だから。とっとと帰って」
「っ、そんな! 貴女様がいなければ、世界は!」
「いまワタシがいなくなれば、この店は! 空腹に耐えかねた冒険者たちがそれこそ、魔物の群れのように暴れ回るでしょうよ! 見てわかんない? いまちょうど満席になって、料理の注文がドカンと入ってきたトコなんだから!」
「え……あの、でも、」
「うーるさーいっ! 集中して作りたいの、話なら後にして! ヒマならそこの鍋とフライパン、洗っといて!」
「はっ、はい!」
◇
「えええ? いまそこに伸びてる中年のオッサン……相手の状況をこれっぽっちも見れない、洗い物もろくに出来なくて使えなかったコイツ、いやこの方が、本当に王弟殿下で? しかも、魔王討伐のためのパーティーを率いる、勇者だって? 大体さぁ、食堂のオバチャン、って呼ばれてるワタシが聖女って、神託がどうかしてるとしか、」
「手をかざして「ヒール」と唱えてみてください」
「はぁ。……ヒール」
「……はっ。私はいったい……あっそうだ、とにかく鍋を洗わねば、」
「殿下、気がつかれてよかったです。ほら、貴女様の呪文でちゃんと、回復しましたよね?」
「えええ……ワタシに、こんな力があるなんて。ってか、こんなオッサンとオバチャンのパーティーって、」
「ちなみに魔法使い様も同年代ですのでご安心を」
「なにをどう安心しろと?」
3/3/2026, 9:52:04 AM