komaikaya

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11/17/2025, 4:18:42 PM

 11月最初の金曜日、君を初めてウチに呼ぶ、その前の、ついでのドライブの間くらいは、紳士でいたかったんだけど。

 穴場の展望台に着いて、夜空を見上げた途端に君が、『君を照らす月』の名前、なんとかムーンってアレを、11月のヤツだけじゃない、12か月分スラスラと得意そうに、嬉しそうに口にするもんだから──ああもう、そんな口はいったん、塞いでしまえばいいんだ。

「……ねぇ。僕の名前は?」

 唇を離し、それから、まだお互いの吐息がかかるくらいの距離だけ君から離れて、僕は君をじっ、と見つめる。君はびっくりしたのか目を大きく見開いたまま、濡れた唇もその余韻で、閉じ切らないままで──。
 
「月の名前ばっかり12個も呼んどいて、僕の名前はまだ呼べない、なんて。そんなの、不公平じゃないかな?」
「っ、意味わかんない、それに先輩この前、ゆっくりでいいよ、って、」
「言ったけど。でも不公平すぎだもん、だから急かすことにした」
「理不じっ、んっ……」

 指摘された通りに僕は、理不尽に君の反論を奪い、『冬へ』向かって欠けてゆく月に、見せつけるようにキスをする。僕の名前、とりあえず12回以上呼んでもらうのが目標で──ああ、ごめん、こんなに口を塞ぎっぱなしじゃあ、呼びたくても呼べないよね?


11/16/2025, 5:53:21 AM

 森の中、眼前に青く広がるブルーベルの下草の上を、一匹の白い蝶が飛んでいる。
 微かな風に揺れる『木漏れ日の跡』を慕うように、小さな白い羽がひらりひらりと渡ってゆくのを、彼女は、ただ茫然と見送っていた。

 ──ブルーベルの花が咲くのは、春なのに。

 物心ついてからずっとつらく当たられてきた継母に、ついに勘当を言い渡された自分はさっきまで、冬の森を、あてどもなく彷徨っていたはずで──なのに、どうして?

「……ああ、そっか。天国、なのかな?」

 彼女のほかに誰もいない森では、その呟きを肯定する者も否定する者もいない。が、彼女は妙に納得し、それから、ブルーベルのない木の根元を見つけると、木の幹に寄りかかるようにして座り込んだ。

 樹々の葉を抜け、それでもあたたかい春の日差しに彼女は、ほうっ、と息をつく。
 ほとんどボロでしかない服だけで夜の冬の森に放り出され、凍えていたのが嘘みたいだ。

「でも……もう、動けない。おしまい、みたい」

 木漏れ日が彼女にも降り注ぐのに気付いた白い蝶が、自らの死の訪れを待って目を閉じ、微睡んでいる彼女の頬をかすめる。と、思うと、蝶はパッと飛び退き、ふいにそこに現れた存在に、その場所を譲った。

 突如としてそこに現れた青年、銀の長い髪がかかるその背には、一対の、大きく透明な羽があり──。

「大丈夫。おしまいなんかには、させないよ」

 彼に体を掬い上げられた彼女は、疲労と衰弱から、もう目を開けられずにいて。けれど、自分を抱く大きな腕の確かさと、どうしてか感じるその声の懐かしさに、ひどく安堵した。

 その懐かしさにはちゃんと理由があったのだと、彼女が気付くのは──ここからもう少しだけ、先の話。

「ようこそ、精霊の森へ……いや。おかえり、かな?」

 そう彼が言ったのを最後に、彼女の意識はそこで、プツンと途切れたのだった。


11/15/2025, 3:06:02 AM

「じゃあ、また明日」
「うん。また明日!」

 そんな、取るに足らない『ささやかな約束』がちゃんと果たされることは、あの当時の僕らにとっては当たり前すぎるくらいに簡単なことで──だから。
 そうやって守られた約束を積み重ねることで、お互いへの信頼を育てていたことに、いまも昔も変わらず浅はかな僕には、気付けるはずもなかったのだ。

 学校を卒業し、それぞれに新しい生活が始まり。
 僕らの約束が「また来週」になり「次の連休」や「お盆休み」になっていくにつれ、どうしてなのか約束は、次第にその重さを増していった。

 そのうち、僕と彼女との間にあった信頼が、いくつかの守れなかった約束の重みによって、少しずつ軋むようになり──僕らが結論を出したのは、軋んでいたそれが、派手な音を立て崩れ落ちてからのことだった。

「……じゃあ、元気で」
「うん。……あなたも、元気で」

 それはもう約束だなんて呼べない、辻褄合わせの挨拶でしかなくて……いや、祈り、か?
 あなたの健康と幸せをお祈り申し上げます──うん、そんな感じで、そして。

 ……きっと、僕らは。
 たったいま交わした、お互いへのささやかな祈りの果てなど知らないまま、それぞれの場所で、それぞれの人生を終えるのだ──。

 先に地下鉄の階段を降りていった彼女の背を、ひどく穏やかな気持ちで見送っていたはずの僕は、いまごろになって……ようやく、そんな事実に気がついたのだ。


 

11/14/2025, 8:06:11 AM

 あなたに、ここにいて欲しい──それが私の、唯一の祈り。

 あなたがいま現在、この世に在り、息をしている──ただそれだけのことが、私にとってどれほどの意味を持つのかを、あなたは知らず、そしてそれでいい。

 未来永劫、私があなたの隣に並ぶことはなく。あなたとは違う空の下に在りながら、ひたすらにあなたの無事を願う。

 もしかしたら私と同じように今日の空を、秋の喨喨と鳴るのが聞こえてくるような、澄んだ水色を見上げているかもしれない、あなたの幸福を願うのだ。

 この『祈りの果て』に私が得るものは、何一つとしてなく。
 しかし私は、ありとあらゆるすべてを得る。

 ──ありがとう。

 自然にこぼれ落ちた、このことばこそが、あなたに相応しい。

 この世に生まれてきてくれて、ありがとう。

 あなたがここにいる、それだけで──あなたという存在にめぐり逢えたこの人生は、決して捨てたもんじゃない、と。

 そんなふうに、思えるのだ。

11/13/2025, 2:02:32 AM

「はぁ〜い、夢魔ちゃんだよっ⭐︎ いまキミがいるのはね〜、キミの深層心理が作り出した、キミの『心の迷路』の中! 脱出出来ないとサイアク死んじゃうかもだけどー、いーっぱい焦ったり怖がったり泣き叫んだりして、頑張ってこの悪夢の出口を見つけてね⭐︎」

「…………」

「アハッ、もう絶望しちゃったかなっ? だよねー、こーんなに壁高くって、暗いしそれに、」

「…………寝る」

「って、え? 壁に寄りかかって体育座りで、ホントに寝る? でもほら、死んじゃうかもってアタシ、さっきゆったよねっ?」

「……でも暗くて出口わかんないし、眠いし……ぐぅ」

「は? 絶望しないで寝た? キミの絶望がアタシのごはんなのに? あーもう、わかった! 特別に明るくしたげるから、起きて!」

「……フッ、社畜には余裕の生ぬるい明るさ……ぐぅ」

「っ、寝るなーっ! そっか、床も寄っかかる壁もない迷路なら……ほいっ、これでどう? 目、覚めた?」

「……ふぁー、ヒマワリの迷路……やっぱり出口が全然わかんないし……ぐぅ」

「まんま土の上に寝る、だと……? んんーしゃーない、木製巨大迷路、ヤグラ付き! 迷路の途中で上から俯瞰出来るから、ちょっとはやる気に、」

「……木の香り、いいね……ぐぅ」

「ちょっ、なんで?! 大体さっきから、心の深層に直に干渉してんのに、全然ブレないとか……なんなの、心臓に毛でも生えてんの?! ねぇ、ねぇってば!」

「……うぅー、そんなに揺さぶんないでよぉ。あーまーね、仮にも社畜なら、心臓に毛くらいは……あーでも、脱出無理っぽいしこの心臓、もうすぐ止まっちゃいますよねー」

「えーい、うるさいっ! 一回起きて、会社辞めて来やがれ!」

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