「じゃあ、また明日」
「うん。また明日!」
そんな、取るに足らない『ささやかな約束』がちゃんと果たされることは、あの当時の僕らにとっては当たり前すぎるくらいに簡単なことで──だから。
そうやって守られた約束を積み重ねることで、お互いへの信頼を育てていたことに、いまも昔も変わらず浅はかな僕には、気付けるはずもなかったのだ。
学校を卒業し、それぞれに新しい生活が始まり。
僕らの約束が「また来週」になり「次の連休」や「お盆休み」になっていくにつれ、どうしてなのか約束は、次第にその重さを増していった。
そのうち、僕と彼女との間にあった信頼が、いくつかの守れなかった約束の重みによって、少しずつ軋むようになり──僕らが結論を出したのは、軋んでいたそれが、派手な音を立て崩れ落ちてからのことだった。
「……じゃあ、元気で」
「うん。……あなたも、元気で」
それはもう約束だなんて呼べない、辻褄合わせの挨拶でしかなくて……いや、祈り、か?
あなたの健康と幸せをお祈り申し上げます──うん、そんな感じで、そして。
……きっと、僕らは。
たったいま交わした、お互いへのささやかな祈りの果てなど知らないまま、それぞれの場所で、それぞれの人生を終えるのだ──。
先に地下鉄の階段を降りていった彼女の背を、ひどく穏やかな気持ちで見送っていたはずの僕は、いまごろになって……ようやく、そんな事実に気がついたのだ。
11/15/2025, 3:06:02 AM