komaikaya

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11/7/2025, 8:42:44 AM

 立冬を迎える前から『冬支度』はすっかり整っている。保温効果の高い肌着の上下に靴下、手袋とマフラー、羽織るダウンにも室外用と室内用があるし、羽毛布団も冬用のモコモコスリッパも、すっかりスタンバイ済みである。

 そう、少しでも体を冷やしたら、負ける。
 負けとは──風邪を引くこと。

 冬支度というのはつまり、戦の準備だ。冬という季節と私との、絶対に負けられない戦いの始まり。
 一度も風邪引かないで春を迎えられれば、私の勝ち! 毎年そう意気込んで、でも昨シーズンは数回負けた……悔しい。

 マスクにのど飴、使い捨てカイロ、葛根湯、ビタミンCのサプリ、ヨシ。あとは日々の食事と、加湿は夜洗濯の部屋干しで……あー加湿器という便利な物もありますよね、でも加湿器のお世話に自信がない……今年は検討してみようかな?

 アナタの冬支度はどこから?
 ワタシは喉から、とにかく喉を守るのだ!

11/6/2025, 2:05:06 AM

 円満離婚した元ダンナは、私の10コ上だった。
 そして、いまの私のカレシであるスバルくんは、私の10コ下。こんなの、もちろん狙ったわけじゃないんだけど。

 離婚前の私は。元ダンナと同じものが見たい、と年に似合わない背伸びをして、それで空回りばかりしていた。
 だからスバルくんが、私との年の差に、要らない焦りを感じている、その気持ちが、わかりすぎるくらいにわかってしまうのだ。

 でもね、スバルくん。私はあなたに、そんな無理はしてほしくない。彼に、そのままでいいよ、って言いたいけれど、それを伝えることの失礼さも重々承知している。

 なら例えば、神様にでも頼んで──スバルくんを待って、私の時だけが止まってしまう、そんなことが起これば、私たちはすれ違わずにいられるのだろうか?

「町中華特集かぁ。最近、多いなー」

 テレビのリモコンを片手に、スバルくんが言った。
 結局、今日もこうしておウチデートになってしまったのは、私が体のだるさを訴えたからで。20代のスバル君はまだ若いんだし、もっと外にお出かけしたいだろうなぁって思うんだけど。
 こんな私に付き合わせてしまって、いいのかな。テレビ画面に映る、中華屋さんを営む老夫婦を眺めながら、罪悪感と、それと真反対の、彼に想われ大事にされていることへの嬉しさが、私の内側でせめぎ合っていて……。

「12歳年上の姉さん女房。ふーん……」

 その姉さん女房なおかみさんのコメントを聞いたスバルくんが、言った。

「俺もこの境地に、早くたどり着かないもんかなぁ……出来れば、あと2年くらいで」
「んん? この境地、って?」
「このご夫婦さ、82歳と70歳で、でもそんな年の差があるなんてパッと見、誰もわかんないじゃん? いまの俺だとどうしても、ユウナさんと比べてガキでしかないから、」
「あと2年で、って……フフッ。アハハハハッ」
「なっ……笑わなくたっていーじゃんか!」

 スバルくんの、ムッとしたカオ。
 でも、ごめんね。だってさ……。

「やだ。そんな急に年とりたくないよー」
「や、だから、そういうことじゃなくて! ユウナさんはそのまんまで、俺がもっと、」
「それもやだ。スバルくんもそのまんまでいい、そんなにすぐに、オジサンにならないでよ」

そっか……そういうことなんだ。
 私とスバルくんはいつか、おばあちゃんとおじいちゃんになって、年の差が10コもあるなんて、誰にもわからなくなる。私とスバルくんの間に横たわる年月は、それこそ時間が解決してしまうってこと、じゃあ、それならば。

 神様にはやっぱり、『時を止めて』欲しい──私だけじゃなくて、二人一緒に。この瞬間、スバルくんがスバルくんのまま、そして私も私のままでいる、いまという時間を、もっと大事に、ゆっくりと味わいたいから──。

 ……なーんて、ね?
 でも実際のところ、アンチエイジングにはそこそこ必死にならないと、いろいろとマズいかもしれない。この美少年顔はきっと老けにくい……どうするよ、私?!


11/5/2025, 3:35:04 AM

「スバルくん、『キンモクセイ』の香りがするねー。どこで咲いてるのかなぁ」

 ああ……今年も、か。
 ユウナさんは毎年この季節になると、路地に漂うキンモクセイの香りにそわそわする。そんなに、うれしそうにして──ひょっとして、円満離婚したっていう元ダンナとの、いい思い出とか、そういうのがあったりするのだろうか?

 そうやって俺は、キンモクセイの香りに、その背後にいるかもしれない元ダンナ氏に嫉妬する。あーもう、なんか不毛だし、重症だし……。
 互いの部屋に泊まるような関係になってもう10か月も経つってのに、それでも俺は、まだ過去には勝てないんだよなぁ、などと独り勝手に打ちのめされて落ち込み、それで──結局。
 俺って本当、ユウナさんとの歳の差以上にガキくさい、我慢できずにこうして、ユウナさんに問い正してしまうんだ。
 
「え? キンモクセイをなんで気にするか、って……や、べつに、彼との思い出がどうこうって訳じゃないよ?」
「……そう、なの?」
「うん。単純に、そんな季節になったんだなーって思うだけで……」

 なんだそうだったのか、と俺が安堵したのも束の間、ユウナさんが「……ああ、でもね。……フフッ」なんて、思わせぶりに笑った。っ、なんだよ、やっぱりなにか……。

「いま気づいた。スバルくんだからだよ、キンモクセイのこと、口にしたの。だって彼とはそういう類の、例えば、空が高くなってすっかり秋の空だねぇ、なんていうぼんやりした話は、全然しなかったもの」

 ベッドの上、すぐ隣にいる彼女の、ひんやりした手が俺の頬に触れた。

「スバルくんにはそういう、もしかしたらつまんないかな? ってことでも、なんでか話せちゃうんだよねぇ。っていうかキンモクセイの思い出って言うなら、スバルくんと初めて会ったときのこと、思い出すよ? ウチの店に来てくれたのが、ちょうどこの時期だったな、って」

 半身だけ起こしたユウナさんが、しょうがないなぁ、ってカオして俺を見下ろし、それから軽いキスをくれる。
 あーあ、それって……キンモクセイなんかにも嫉妬する、ちっさい男でもいいよ、ってこと、ユウナさん?

11/4/2025, 1:40:03 AM

 あの男は、いつもそう。
 わたくしに永遠の忠誠を誓った騎士のくせに、わたくしより先にわたくしを見つけられない。

 遠ざかる足音──あの男の背を、わたくしはただ、見送ることしか出来ない。何度生まれ変わってもわたくしはちゃんとあの男を見つけるのに、ったく、あの男ときたら!
 そうやって、わたくしではない女に笑みを浮かべ、わたくしに背を向け──ああ、せめて文句を言ってやりたいのに、どうしてなのか、わたくしは声を出すことが出来ない。
 だからわたくしは、ただ願うしか出来ない──あの男の背に、わたくしを置いて『行かないでと、願ったのに』、そう強く願ったのに、それなのに、あの男は──!

「ああ、もう! わたくしに、気づきなさい!」

 そう叫んだ自分の声で、わたくし──わたしは、目を覚ました。
 ここは……そう、教室の、自分の席?

「あれ……夢、だった?」
「あー。やっと起きた」

 声のほうに顔を向ける。隣の席に座っていたのは──くされ縁の幼なじみでクラスメイトでもある、シゲタトキオ。教室に残ってるのはわたしとシゲだけで、それは日直の仕事があったからで……。

「ごめん、わたし……寝ちゃって、た?」
「うん。日直レポート提出しに行って戻ったら寝てて、すぐ起きるだろうって待ってたけど、なかなか起きないからどうしようかって思った。で、それで……なんの夢、見てたの?」

 シゲにじっ、と見つめられながらわたしは、夢の余韻を追おうとして──でも。

「えっと……わかんない。ぜんぜん思い出せないや」
「っ、なんだよそれ。あんなハッキリ寝言言ってたくせに……覚えてない、って?」

 そう言うとシゲは突然、ケラケラと笑い出し。わたしの頭はまだ半分くらい寝ぼけていて、でも段々と、夢の中の腹立たしさだけを思い出しはじめた。

「覚えてないけど、なんか、すっごくムカついたのは覚えてる……ねぇ、殴っていい?」
「はぁ? なんでそーなんの?」

 そしてわたしたちは、どちらからともなく立ち上がり、夕暮れの教室を後にした。
 駅までの道を、連れ立って歩きながら。シゲが呟いたことばを、わたしは上手く聞き取れなかった。

「悪かった……でも今回は俺が先だったね、我が君」
「えっなに? ごめん、なんて言ったの?」
「いや……ちゃんと待ってる俺って、エラいよねってハナシ!」
「あーハイハイ、お待たせしてどーもすみませんでしたー」
「なんだよその、謝る気のない言い方!」

 だって。なんならもっと待たせてやればよかったって、なんでかそう思うんだもの。
 胸がキュッとなるような、この気持ちは……なんなんだろう?


11/3/2025, 1:42:07 AM

『秘密の標本』の情景3篇

その1:

「先月に『秘密の箱』ってお題、ありましたよね?」
「ですねー。秘密シリーズ?笑」
「お題がまさかのシリーズ化笑。今月は『標本』……ってことは来月は、封印、風景、風船とか?」
「あーなるほど、そう来ますかー。いや風船て笑」
「で、さ来月は部屋かヘソクリ」
「うわー現実味あるー」


その2:

「先輩。この『秘密の標本』ってなんスかね?」
「なにも言うな。プロの引っ越し屋なら黙って運べ」
「でも全部の箱にわざわざ書いてあるのってのが、」
「中身が標本だってわかるだけ、まだマシだ。あと詮索はもういいから、黙って仕事しろ」
「あーこの箱の感じ。瓶と、なんか液体が入ってるっぽいんスけど……あっ。この研究室ってほら、両生類学の、」
「っ、言っとくがな! 俺はそっち方面のそういうのは大っ嫌いなんだよ! ついでにお前みたく思ったことなんでも口にする後輩も大嫌いだ、コンチクショー!」


その3:

「教授のクソ野郎……『新しい研究室はとっても広くてキレイだから見においで』って……」
「完っ全に騙された! これ全部ここにいるオレらだけで開けて棚に分類整理し直すとか、無茶ブリすぎるだろ?!」
「ってか梱包したの誰だよ? いくら部外秘だからって箱に『秘密の標本』しか書いてないって、おかしいだろ? 番号振って別でリスト作るくらいのこと、思いつけよ!」
「だって! 教授が私たち呼びつけたの、研究室退去日の2日前だったんだよ?! 」
「詰めるだけで精一杯だったっての!」
「その割に『秘密の標本』って、全部の箱にキッチリ書いてるのがウケるよな〜?」
「それは……引っ越し業者さんへの牽制になるから、って教授の指示だったの! そのほうがたぶん丁寧に運んでくれるからって……画数多いのに……っ、書くの、クッソめんどくさかった……」
「あー……悪かった、泣くな。とりあえず……教授にピザかなんかタカリに行ってくるから、な?」

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