あの男は、いつもそう。
わたくしに永遠の忠誠を誓った騎士のくせに、わたくしより先にわたくしを見つけられない。
遠ざかる足音──あの男の背を、わたくしはただ、見送ることしか出来ない。何度生まれ変わってもわたくしはちゃんとあの男を見つけるのに、ったく、あの男ときたら!
そうやって、わたくしではない女に笑みを浮かべ、わたくしに背を向け──ああ、せめて文句を言ってやりたいのに、どうしてなのか、わたくしは声を出すことが出来ない。
だからわたくしは、ただ願うしか出来ない──あの男の背に、わたくしを置いて『行かないでと、願ったのに』、そう強く願ったのに、それなのに、あの男は──!
「ああ、もう! わたくしに、気づきなさい!」
そう叫んだ自分の声で、わたくし──わたしは、目を覚ました。
ここは……そう、教室の、自分の席?
「あれ……夢、だった?」
「あー。やっと起きた」
声のほうに顔を向ける。隣の席に座っていたのは──くされ縁の幼なじみでクラスメイトでもある、シゲタトキオ。教室に残ってるのはわたしとシゲだけで、それは日直の仕事があったからで……。
「ごめん、わたし……寝ちゃって、た?」
「うん。日直レポート提出しに行って戻ったら寝てて、すぐ起きるだろうって待ってたけど、なかなか起きないからどうしようかって思った。で、それで……なんの夢、見てたの?」
シゲにじっ、と見つめられながらわたしは、夢の余韻を追おうとして──でも。
「えっと……わかんない。ぜんぜん思い出せないや」
「っ、なんだよそれ。あんなハッキリ寝言言ってたくせに……覚えてない、って?」
そう言うとシゲは突然、ケラケラと笑い出し。わたしの頭はまだ半分くらい寝ぼけていて、でも段々と、夢の中の腹立たしさだけを思い出しはじめた。
「覚えてないけど、なんか、すっごくムカついたのは覚えてる……ねぇ、殴っていい?」
「はぁ? なんでそーなんの?」
そしてわたしたちは、どちらからともなく立ち上がり、夕暮れの教室を後にした。
駅までの道を、連れ立って歩きながら。シゲが呟いたことばを、わたしは上手く聞き取れなかった。
「悪かった……でも今回は俺が先だったね、我が君」
「えっなに? ごめん、なんて言ったの?」
「いや……ちゃんと待ってる俺って、エラいよねってハナシ!」
「あーハイハイ、お待たせしてどーもすみませんでしたー」
「なんだよその、謝る気のない言い方!」
だって。なんならもっと待たせてやればよかったって、なんでかそう思うんだもの。
胸がキュッとなるような、この気持ちは……なんなんだろう?
11/4/2025, 1:40:03 AM