『無人島に行くならば』
無人島に行くならば
ニンゲン辞めてからがいい
おまえが一匹いるだけで
島の秩序は乱される
無人島に行くならば
その身を捨てて
魂だけで
島の大樹の葉に宿り
落ちては大樹の糧となる
ああでもきっと
魂さえも
「ニンゲン由来は、お断り!」
有人島の輪廻へと
戻って、ぐるぐる
目をまわす
叶わぬ夢と知りながら
いまでも時折夢にみる
無人島に行くならば、と。
「『秋風🍂』吹きましたよね🍁」
届いたメッセージはいつも通り、ご丁寧に絵文字の入った、彼の世代らしからぬモノで。
そんなスマホの画面を見ながら私は、すっかり遠い目になっていた。
◇
彼に告白されたのは、彼が大学4年生の夏の終わり。
動揺した私は彼を連れてコンビニへ行き、そのとき出回り始めた季節限定の『秋』の文字が入った缶ビールを2つ買って、1つを彼に手渡してから言った。
「残りの大学生活を仲間と過ごして、就職して、なーんてしてるうちに、こんなアラサーに告白なんかしちゃったのは一時の気の迷いだったんだな、って思うよ、きっと」
「……じゃあ。一時の気の迷いじゃなければ、真剣に受け取ってくれる、ってことですよね?」
彼が学生生活を終え、社会人になってしばらくして──具体的には、夏を越して、秋風が吹く頃になっても同じ気持ちでいたなら、正式にお付き合いをしてもいい。
そんな条件と期限を付けて私は、彼とお試しのコイビトになった。
……ってね、彼が卒業して社会人になってからは、清い交際なんてモノも保てなくて、実質もう付き合っちゃってるよね、コレ? って感じだったりするんだけどね?
なんだけど、三十路ともなれば……もうね、いろいろダメだったときのダメージに耐えられない、だからこんなふうに及び腰になってしまうのは、しょうがないことだと思うのよ?
まぁ……でも。
彼がこの一年飽きずに、私なんかと一緒にいてくれたのは──律儀に期限いっぱい、お試しのコイビトでいてくれたってだけ、かもしれない。
今度会ったら「イヤ〜おかげでいい社会勉強になりました! サヨナラ〜!」ってことになったって、全然おかしくなんかないのだ。
◇
「フフッ。リホさんもこれ、実際に見るの初めてでした? ああ、ここの証人欄はウチの両親の名前です。お願いしたら喜んで書いてくれましたよ? ちなみにウチの両親も年の差婚なんで、……」
彼に会って手渡された婚姻届なるモノに、私は激しく動揺し、いろんな盾を繰り出したのだけれど。彼はその一つ一つを、完膚なきまでに粉砕していった。
「だから、まぁ……正式なお付き合いは、結婚してからすればいいじゃないですか?」
彼の話す日本語が、訳わかんなくて……泣けてくるとか。
ねぇ。ちょっとコンビニで、缶ビール買ってきてもいいかな?
わたしがお年玉をはたいて買ってきたモノを見ると、お母さんは「悪い予感しかしないわね」と言って、ため息をついた。わたしはそれで、ちょっと泣きそうになってしまったんだ。
最初に、店先で目が合って──って、これにはもちろん目なんて付いてないんだけど。
気がついたらわたしの目の前にはこれがあって、わたしは無意識に手を伸ばしていて、触れた瞬間、指先にピリッと電気が走ったような感覚がして、だから。
これはきっと、わたしの運命なんだ。
だって、ワクワクする──きっと面白くて楽しいことが、これを手に入れた、これからのわたしを待っているんだ、って。
わたしには、そう思えたのに──。
◇
うーん、なるほどー。
このお母さん……オトナって、変化を嫌うトコあるよなぁ。この何事もない日常がつつがなく続いてくれればそれでヨシ! それがいちばん! みたいな。
そして若かりし頃のお母さんはかつて、自分の予感に従って、失望したことがあったりなかったりするのかもしれない……なーんて。
日常を壊されそうに思っちゃうお母さんの不安は、わからなくもない。でも、だからって、ヒトが抱いたステキな予感や未来を否定する権利なんか、実の親にも、誰にもないんだからね! 頑張れ、『わたし』チャン!
──さてさて。
次の作品の『予感』は、ポジティブ?
それとも、ネガティヴ?
「いやそれ、誤解誤解。俺らはjust 『friends』だからさー」
くそぅ。なんでそこでネイティブ発音になるかな。日本語で『ただのトモダチ』って言うより耳に残るじゃねーか。
奴は私を恋愛対象な女として見ていない。そんなことくらい知っているし、それを利用して私は、他の女子よりも奴の近くにいられるワケなんだし。
ところでトモダチの定義って何よ? つるむのが多いとトモダチ? お互いのアカ交換してれば? 一緒にごはん食べ行ったりする仲なら?
それで? 片方がトモダチ以上の気持ちを持って相手に期待してたとしても、トモダチって言える?
……で。他人に誤解される程度には仲良く見えてしまう奴と私は、まぁ……トモダチ、なんだけどさ。
「吉野はさー。俺らって付き合ってんの、って訊かれても、これっぽっちも動揺しないよなー」
吉野こと私と奴との仲を確かめたくて、奴を質問責めにした女子たちが去った後で、奴が言った。
「動揺? する必要、なくない?」
トモダチならね。だから全力で演技してますよ? って、やだ私ってば、めっちゃ演技派。
「そっかー。まぁ、そーだよなー……あーでも、」
言いながら奴が私に、ぐっと顔を近づける。ったくもう! 帰国子女のパーソナルスペースはどうなってんだ、コンチクショー! と内心で吠えまくりながらも平静を装い、私は奴が続けるのを待った。
「…………」
しばらく私の顔をじっ、と見つめていた奴の手が、私の両頬を包む。私より大きな手が、冷たい──。
「こうすると……カオアカクなるんだけどな」
「え? なに?」
奴の手が、両頬から両耳に滑り。おかげで上手く聞き取れなくて、でも聞き返しても、奴は言い直してはくれなかった。
「つまり。いまのところは、なんだけどな」
「え? いまのところ、って、なにが?」
「なんだろうねー? あ、五限終わったらラーメン行くよな?」
「あー……うん。いいよー行っても」
行く行く、もちろんっ! と嬉しさをそのまま素直に伝えないjust friendsな私の演技は、今日も絶好調だ。
君の歌がどうしても羨ましかった僕は、君の歌を僕の物にした。
僕が唯一得意とする魔術でそれが可能なんだと知ったとき、僕は嬉しくてしょうがなかった。君の歌を奪って、ついでに──誰からも必要とされない、僕を捨てればいい。
僕と違って君は、誰からも愛されていた。君の歌を愛さない者なんていなかった──そうやってこれまで、たくさんの人に愛されながら生きてきたんだろう? 僕にもそれを、分けておくれよ……!
そして僕は、禁呪を使った。
君の体から君の魂を追い出し、そこに僕の魂を憑依させることに成功した。
君の歌を歌っているのが、君の姿と声を得た僕だなんて誰も気づかない、つまり──君の歌はすっかり、僕の物になったのだ。
みんなが僕の歌を褒めて、必要としてくれる……ああ、なんて幸せなんだろう!
……なのに。
少しずつ、本当に少しずつ、人々は僕から離れていった。僕には、僕の歌では、それを止めることが出来なくて……どうして? 同じ声で、同じ歌い方なのに。前の方が良かった、って……どういうこと?
なにも変わってなんかない。
変わったのは──魂、だけだ。
まさか──『君が紡ぐ歌』が人々に愛されていたのは、君のその、美しい魂のせいだったというの……?
「うーん。ボクの魂が美しい、とか……それは、どうなんだろ? そんなことよりさ、ちょっと提案があるんだけど、聞いてくれる? それをやればきっとね、もっといい歌になるはずなんだ!」
いまもなお僕のかたわらに在る君のゴーストが、そんなふうに言う。
「じゃ、特訓しよ? 大丈夫、キミなら出来るから!」
そうやって君は──いとも容易く僕を許し、僕の未来を信じてみせるのだ。