「おっぱいって、怖いね」
人気のない公園で、幼馴染を膝枕していた時の事だ。
彼女は、私の方を見てそう言った。
「ん、どうして?」
「だってさぁ……」
その小さな唇は、淡々と言葉の続きを紡ぐ。
「こうやって下からおっぱい見てると、太陽が見えなくなるんだもん。なんか……世界の終わりみたいじゃない?」
前から独特な奴だとは思っていたが、ここまで変人だとは思いもしなかった。
同性の幼馴染に膝枕をねだられて普通に許す私も、人のこと言えないかもしれないが……。
「よく分かんない」
「下になってみれば分かるよ」
彼女はそう言って、体を起こした。
正座をし、その手で『おいで』と言うかのように膝を叩く。
「んっ」
柔らかな太ももに頭を埋めながら、私は空を見上げた。
いや、空は見ていない。
こいつのデカパイのせいでほぼ視界が遮られている。
影が落ちたその胸は、まるで宇宙だ。
青いはずの空に、果てしない宇宙が広がっているかのような景色。
太陽が消えてしまった事によって、光の反射がなくなり地球を覆う空が壊れてしまったかのような、そんな景色だ。
「終末だね」
「でしょ」
その小さな手は、私の頬に当てられた。
何度かムニムニと揉まれて、すぐに離れる。
そして彼女は、にんまりと口角を上げた。
「おっぱいは宇宙だ」
エッチがしたいなぁ……って気分で寝ると、エッチな夢を見れる。
腹減ったなぁ……って気分で寝ると、飯をたらふく食う夢が見れる。
私が今朝見たのは、姉を殺す夢だ。
つまり、それは。
「おーい」
寝癖まみれの姉が、私の前で手を叩く。
ぼーっと、一人の世界に入り込んでいた私は、目を覚ましたかのように顔を上げた。
私はこの人を、殺したいと思っているのか?
「大丈夫そ?」
うーん……。
死んでほしくないなぁ、やっぱ。
こんな可愛い存在が家から居なくなるのは、嫌だもん。
「お姉ちゃん」
私の声に、彼女は安堵してため息を吐く。
「どうしたんだい、我が妹よ」
気取った感じに腕を組み、私の言葉を待つ。
「お姉ちゃん、死なないでね」
「え?」
私はそっと、彼女の頬を撫でながら、その唇に触れてみた。
顔が赤いけど、嫌では無さそう。
抵抗は、してこない。
「お姉ちゃん、やっぱ死んで」
私はやっぱり、この人を殺したい。
殺して、殺して。
他の誰にも、この可愛さを見てほしくない。
私だけの、お姉ちゃんだ。
ある朝目が覚めたら、部屋の中にデロリアンがあった。
銀色の角ばったボディに、赤く光る計器類。
マジもんのデロリアンである。
いきなりここに転移してきたとか、そういう感じでは無さそう。
だって、壁に穴が空いてるから。
デロリアンの周りに瓦礫が散乱していて、壁に大穴。
たぶん、空から突っ込んで来たんだろう。
ここはマンションの5階だから、アクセルとブレーキの踏み間違いなんかじゃない。
バック・トュ・ザ・フューチャー2のデロリアンなら、たしか空も飛べたはず。
てなると、ここに来た経緯は納得できるが……もしかして運転手ってドク?
運転席を見てみた。居たよ。
確かに、あのドクが居た。
何から何まで、映画のドク、そのまんまだ。
ただ一つ、割れた頭から脳みそのかけらを垂らしてる点を除けば。
「おーい、おーい、聞こえますかー?」
彼の目の前で、手を振ってみる。
もちろん、反応は無い。
死んでる。
(困ったなぁ……壁の修理代、請求できないじゃん)
私は一瞬肩を落としかけたが、すぐに立ち直った。
思い出したのだ。
今、目の前にあるこの車は、タイムマシンじゃないか!
壁がぶち破られる前に戻って、ドクが死なないようクッションとか置けば、すべて丸くおさまる。
さぁ、時間旅行の始まりだ!
私は今、抱かれている。
目を潤ませた女の子に、抱きしめられている。
なぜか。
思い出せない。
「ねぇ……私だけを見て」
その言葉は、全く無意味な物に感じられた。
だって、とうに私の視界は、その少女だけを捉えているのだから。
今更お願いされたって、何も変わらないのだから。
この子は、なんで泣いてるんだろう。
どうして、そんな目で見てくるんだろう。
理解出来ないし、して良いのかも分からない。
「うん」
肯定の言葉。
その短い一言だけしか、私には返せなかった。
極ありふれた単語。
そんな言葉なのに、彼女は口角を上げたんだ。
そして、私の体に回した手を、いっそうきつく抱きしめた。