気がつけば、学生生活の終わりが近づいていた。毎日当たり前のように過ごしてきた日々が、もうすぐ思い出に変わってしまう自覚が芽生えた。
朝、教室に入ると聞こえるゲームの音、友達の声、どうでもいいような話で大騒ぎし、授業中に堂々とレポートを書く。何気ない日常のすべてが、かけがえのない時間だった。漠然と終わりは来ない気がしてた。
試験前に徹夜で勉強したこと、文化祭の準備を全力でして大雨の中片付けたこと、クラス内でやったプチ運動会。そのひとつひとつが、どれほど特別な瞬間だったか今更気づいた。
学校に行くのもあと2日か、、、とつぶやく彼に、卒業したくないなと周りが笑ってみせる。本当はその場に居た全員が心の底から思っていたのだろう。
どうか、この時間がずっと続いてほしい。
時間よ、止まれ。
もう少しだけ、この最高の時間の中に留まっていたい。
2025/02/17 時間よ止まれ
あの頃、どこにいても居場所がないような気がしてた。誰かといても、ひとりでいるような寂しさがずっとつきまとってた。それでも今、まだやれるって思えるのは側にいてくれた人のおかげ。
友達へ。ふざけ合った昼休憩、くだらない話で笑い転げた日々。悩んでるのに「大丈夫」なんて言ったときも、何も聞かずに隣にいてくれた。気づかないふりをしてくれて、ありがとう。みんなと過ごした時間は、どんなに傷ついた日よりもずっと大切で心に残る。
先輩、後輩へ。憧れだった先輩の背中、私もああなりたいって必死に追いかけてた。時には怖くて、時には優しくて、先輩方が受け継いできた伝統が、気づけばそんな背中が、私自身を形作ってた。後輩たちは、どんな私でも慕ってくれて、頼られることで強くなれた。先輩としてカッコよくいたかったけど、結局、みんなに支えられてた。みんなのおかげで充実した。
先生へ。学校だけが世界だと思ってたあの頃、自分の居場所は狭くて、小さなことで絶望して、勝手に諦めかけた。でも先生の言葉が、心の奥でずっと響いてた。「とにかく楽しみなさい。」って、「君は強い。」って、本当は何の根拠もなかったのかもしれない。それでも叱ってくれたから、信じてくれたから、ここまで来れた。
いじめられた中学時代。私はどこにいても透明人間で、綺麗さっぱり消え去りたいと思ってた。無視されるのが普通で、笑われるのが日常で、痛みは慣れない当たり前になった。でも、その痛みの分だけ、強くなれた気がする。偽善じゃない優しさも、同じ環境の人に声をかける勇気も、あの時間がくれた。
久しぶりに再会した同窓会、覚えているのは私だけだった。まだまだ憎しみが消えるわけじゃないけど、そろそろ感謝に変えられる気がする。
唯一夢中になれた部活。すべてが嫌いだったあの頃に、唯一逃げ込める場所だった。悔しくて、苦しくて、もうダメかもって思ったことなんて何度もあった。でも、それでも続けた自分を誇りに思う。泣きたくなるほどの努力は、確実に私を変えてくれた。あのときの自分、あの場所、私の仲間はいつも最高だった。
苦しい時期には毎日繰り返し聴いたちゃんみな。痛みは美しさに変わるって、今なら信じられる。
2025/02/15 ありがとう
いつも一緒にいるのが当たり前だった。
朝の挨拶、何気ない雑談、授業中にこっそり交わす視線、放課後の他愛ない時間。そんな日々が、もうすぐ終わる。
最後の授業日。
曲者揃いの教室で個々が尊重されている居心地の良さ、ふざけ合う声に、笑い合う顔も、いつもと変わらないはずなのに、胸の奥に何かがつっかえる。卒業なんて、まだ実感が湧かない。でも、カレンダーは確実にその日へと向かっている。
人生で初めて、学校が楽しいと思えた。行く意味を感じた。
クラクラするくらい笑えて、なんでも話せる友達ができた。
かけがえのない時間をくれたみんなが、もうとっくに私の日常になっている。
だから、大きな声では言わないし言えない。
でも本当は、涙が溢れるくらい寂しいよ。
2025/02/13 そっと伝えたい
思い返せば、もうずっと前、小学生の頃から、夜に眠れないことがあった。ただ目が冴えているだけの日もあれば、どうしようもなく気持ちが沈む夜もあった。
今日もそうだ。理由なんてわからない。ただ、漠然とした不安が胸の奥に広がり、心臓が重たくなる。この先、何が待っているのかなんて誰にもわからないのに、それが怖くてたまらなくなる。
ベッドの上でじっとしているのが苦しくなり、ベランダに出た。見上げると、雲が広がり月も顔が出せないようだ。でも、今日は、見えない星を見つめ、ただ願うこと自体に意味がある気がした。
「絶対大丈夫。」
小さくつぶやく。誰に聞かせるでもなく、ただ自分の心に刻むように。雲が裂けると、静かな夜の中で、星は変わらずそこにあった。それだけで、少しだけ救われた気がした。
2025/02/11 星に願って
部屋の片付けをしていたら、クローゼットの奥にしまいこんだ箱から小さな封筒と封もされず折りたたまれた紙が出てきた。
どちらも少し色あせていて懐かしさを感じる。折りたたまれた紙には、右肩上がりの不器用な文字で
「好きです。付き合ってください。」
と書かれていた。
中学のころ、同じクラスだった彼。私の隣の席に座っていて、いつも私をからかってばかりいたくせに、何気ないときに優しくしてくれた。そんな彼が珍しく真剣な顔をして少し震える手でくれたこの手紙を、私は驚きと戸惑いの中で受け取った。
その日の夜、私も彼に手紙を書いた。彼のあんな顔を見るのは初めてで、何度も書き直し、言葉を選びながら手紙をしたためた。
放課後、手紙を渡そうと彼を呼び出した。だけど、私に呼び止められた彼の顔を見た瞬間、手紙を渡すのが惜しくなった。
言葉で伝えたい
そんな思いが湧き上がり、私はポケットの中で握りしめていた手紙から手を離した。そして、震える声で彼の胸の辺りを見ながら言った。
「伝えてくれてありがとう。私も好きだよ。」
恐る恐る彼の顔を見ると、驚いたように目を見開いた彼がニカッいつもの顔で笑った。その笑顔を見て、私はこれでよかったのだと確信した。
あの日の空気の温度も、夕暮れの色も、まだ鮮明に覚えているのに、その後の記憶は少しずつぼやけている。私は二通の手紙をそっと重ねた。彼からの手紙と、私が渡せなかった手紙。
あのとき、言葉で伝えることを選んだ私を、今は誇りに思う。
もう過去には戻れないけれど、この手紙を見つけたことで、私はあの頃の自分ともう一度向き合えた気がした。新しい生活が始まる今、もう一度勇気を持って進んでいけるような気がする。
2025/02/02 隠された手紙