塩サバ

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卒業式が終わっても、私たちは解散する気にはなれなくて、約束通り夜の街を歩き出した。

こんなに大人数での居酒屋で、初めてのメンツで乾杯し、いつもは話さなかった人とも当たり前のようにふざけあって、それでもふとした瞬間に「もうみんなでこうして集まることも減るのかな」なんて考えてしまう。でも誰もそれを口には出さない。
店を出ても解散する空気にはなれなくて、酔いを冷ましながら歩いてカラオケに向かった。普段は一緒に行かない子が突然マイクを握って全力で歌い出したり、みんなで懐かしい曲を合唱したりした。静かな曲縛りでいこう。なんて言いながら歌って、笑いながらも胸がぎゅっと締めつけられる感覚があった。泣きそうなのをごまかすために、わざとテンションを上げてバカ騒ぎした。疲れているはずなのに、誰も寝ようとしない。狭い個室にぎゅうぎゅうに詰まって、「トレーニングって良いよな」「新居のシンクが狭い」なんて、どうでもいい話を延々と続けた。きっと、話が尽きたらこの時間が終わってしまう気がして怖かったんだと思う。
朝が近づき、外に出ると、冷たい空気が一気に現実を突きつけてきた。眠気でフラフラになりながら、「じゃあ、またね!」と手を振る。誰も「最後」とは言わなかったけど、たぶん心のどこかで、それを感じていた。

そして、ひとりになった途端、涙が溢れてきた。

みんなの笑顔が、ふざけた声が、夜の景色が、全部一気に頭に心に押し寄せてきた。寂しいとか、楽しかったとか、いろんな感情がぐちゃぐちゃになって、涙を止められなかった。こんなに楽しい夜を過ごしたのに、どうして最後はこんなに苦しくなるんだろう。

それでも、みんなと見た景色は、私の心の中にずっと残り続けると思う。消えるわけない。何年経っても、あの夜を私は絶対に忘れない。



2025/03/22 君と見た景色

3/21/2025, 3:42:27 PM