朝日がカーテンの下から溢れ、それが自分の顔に当たる。
眩しい…と感じると体勢を横にするとコツンと何かに触れる。
その瞬間ふと温もりが伝わる。
「ん……」
ゆっくりと目を開けるとそこにはパッチリと目が開いた彼がこちらを黙って見ていた。
「うわぁぁ!」
「な、なんだよ!!」
「…びっくりした、そっか」
「彩芽、おはよう?」
彼が笑顔を見せるとすぐに彼女が笑顔になる。
彼がいる。ここに…
昨日彼は私にどれだけ愛してるかを伝えてくれた。
その全てを凄く愛おしそうに、大切にしてくれた。
「おはよ…大好きな朔」
「俺も愛してるよ」
「このままずっとこうしてたい…」
「ん?」
「朔とずっとこうやってたいなって」
「彩芽、それはだめだよ?仕事は好き嫌いじゃないんだから」
「えー…」
「仕事は嫌い?」
そんな問いを改まって言われた事などなかった。
答えに困り何も言えなくなり少し考え込むような顔をクスッと笑いながら見つめている。
「ま、好きだって言う人なんか少ないだろうけどさ」
「朔は?」
「俺?どっちでもないかな、でも夢の為なら何でも頑張れるって昨日俺思ったんだ」
「嫌いな仕事じゃなくても好きな仕事じゃなくても、俺昨日お前と一緒になってその夢叶えれると思った」
「彩芽と家族になって幸せに暮らすっていう夢」
「…朔私もう」
「まだダメだよ?」
彼が笑顔のまま口に優しく触れるとベッドから起き上がる。
「夢があるって思ったら頑張れるだろ?」
「ちぇっ…」
「会社まで送ってあげるからさ」
彼女が残念そうな顔でそのまま立ち上がるとキッチンへと向かう。
その姿を優しい目で見つめながら少し口角を上げる。
「お前はずっと好きな人だよ」
episode『好きになれない 嫌いになれない』
君と居るだけでなんでこんなに笑えるんだろう。
君といるだけで時間があっという間に過ぎていくんだろう。
「彩芽?何考えてんの?」
「えっ!?別になんにも考えてないけど?」
彼がビールの缶を持つと彼女の前にあるカップに注ぐ。
「彩芽あんまりお酒飲まないんだっけ?」
「そんなことは無いよ?ただ時間があっという間だなって思ってさ」
彼が時計を見るともうここの家に来てから2時間は経っていた。
「ほんとだ、早いね」
「…ね、さっき言ってた話って本当?」
「ん?」
「私この家に…っていう話だよ」
彼がクスッと笑う。
「俺と一緒に寝たいんじゃねぇのかよ?」
「ま、まぁそれは……それは否定…しないけど」
「否定しないんだ」と彼が笑い始める。
「な、なによ!」と言いながら彼女が慌てたように下を向き恥ずかしそうにしていると彼がテーブルに肘を当て右手で顔を半分隠しながら彼女を見た。
「嫌になったら自分の家に帰ればいいんだよ。でも俺の事好きならずっと一緒にいて欲しい。俺だって離れたくないし、仕事終わったあと彩芽がいるこの家に帰ってこれるならいくらでも頑張るさ」
「朔……」
「君とずっと一緒にいたいから」
彼女が何も言わず下を向く。
「そろそろ寝ないとな、もう12時だ」
彼が立ち上がると彼女の手を掴みそのまま立ち上がらせる。
「寝よう、な?」
「うん」
彼女を抱きしめると彼は満面の笑顔で彼女の口に重ねる。
そのまま導かれるように2人は暗闇の部屋へと進んで行った。
episode『君と』
そのドアがゆっくり開く。
その瞬間…自分の鼻に通るのは『彼の匂い』だった。
「…朔の匂いする」
「ははっ…ようこそ?」
「はじめまして」
私の家より少し大きいその家に
少しキョロキョロと見回す。
「あんまりジロジロ見ないでよ」
そう言いながら1つのドアを開ける。
そこには割と広いリビング、そして奥にはベッドがあった。
「へぇ、ひとつの空間になってるんだ?」
「開き戸だよ」
「なるほどね?」
「彩芽ベッド使いなよ、寝る時」
「えっ?朔は…?」
「俺あっちの部屋にベッドもう1個あるから」
そこにはまた1つのドアがあった。
そっか、そりゃそうだよね…。
そう思っていると彼がクスッと笑う。
「何?もう俺と片時も離れたくないんなら寝るけど?」
「えっ!?」
一気に顔が赤くなる。
ドキドキが止まらない…
「…そうだよな。もう幼なじみじゃないんだもんな」
ドキドキする……
それ以上…
「一緒に寝ようか」
私もうどうなっちゃうんだろう…
episode 『はじめまして』
そんな寂しさの中…私は暗闇の中ただ正座座りで
ずっと下を向いているだけだった。
「こんな思いするなら…好きになんかならなきゃ良かった」
その時だった。
その静けさに『ピンポーン』とチャイムが鳴り響いた。
びっくりと共に体が跳ね上がる。
慌てて立ち上がるとそのまま玄関のドアを開ける。
「………朔」
そこには……その顔を見るだけで
「おい、あんなLINEされ……彩芽」
その彩芽の目からは大粒の涙が零れていた。
「私好きになっちゃダメだったのかなって…」
抱きしめるとそのままゆっくりと玄関のドアを閉める。
お互いが何も言わない。
ただ…確かめるかのように抱きしめているだけだった。
「俺は好きだよ」
「…寂しいって思っちゃったんだな」
朔のシャツが少しずつ冷たくなる感触が伝わる。
「またなって言ったわけじゃないだろ?」
「…朔」
「俺あの時また明日なって言っただろ?」
笑いながらしゃがむとそのまま上を見る。
「泣くなって、もう泣かせないって言っただろ?」
「けど寂しくて…」
「いて欲しい?離れたくない?」
「…寂しいよ…離れたくないよ…」
その答えにクスッと笑う。
「彩芽。軽くとりあえず荷物まとめて持っていこう」
「え?」
「今日はまたねって言うべきじゃなかったって俺も思ったからこうして引き返してきたんだ。ちょっと渋滞なっちゃって…電池も切れちゃって…」
「彩芽泣かせてるかと思ったら急ごうって思ったんだけど」
「…朔…」
「彩芽、家おいで。明日会社は俺が送っていくから」
「うん」
彼女が涙を拭くと笑顔を見せる。
「この家と少しお別れかな?」
「…え?」
「朔の家行ったら帰らないかも?」
彼女がクスッと笑うと彼も笑う。
「そしたら荷物全部持って俺達の家にいけばいいのさ、またな!って言ってからな」
episode 『またね!』
LINEを送ってからもう何時間経つだろう。
ふと時計を見る。
あれからもう3時間…。
あのLINEが何か朔にとって嫌だったのかと不安になって仕方なくなって…
「ご、ごめん…不安なこと言って」
と追いLINEをしたのだが、それすらも既読にならず…
ご飯を作らなきゃいけないのに……
それすらも手につかない。
今まで友達としての彼は毎日連絡を取り合う関係ではなかった。
ふとした時にLINEが来て、お互いの今の環境を話する。
お互い元気そうでよかった!それくらいの連絡頻度だった。
「…彼女になったらLINEしてくれるって訳じゃないんだ…」
彼にとって私とのLINEはそんなにしなくてもいいっていう解釈なのかな…
確かに私も常にずっとというのは困る。
けど…今日告白しての、今日付き合いたての……
今日だけはまだ沢山話したいって思うのは
『私だけ』なのかな。
そう考えただけで
涙が溢れ出てくる。
好きになるって
理想と現実……ってなんでこんなに違うんだろう
寂しいだけなのに。
episode 『涙』