夕暮電柱

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12/31/2024, 2:44:19 PM

良いお年を

凸乱入最終防衛線

 三十代半ばの私にも平等にやってくる大晦日、十二月三十一日いわゆる年の瀬って奴。最近忙しくて休む暇もないし模様事の度にトラブルがついて回る。
 この間のクリスマスだって両親と兄貴と私が話し合って飾りつけたイルミネーションも、予報になかった大雪でお釈迦様だし、妹が連絡も無しに帰省してくる物だから泡食った思い出、冷食引っ張り出して足りたから良かったけどさ。

「お姉ちゃん、アレ取って」
「自分で取れるでしょ、全く」
「へへへー、ありがとーぅ」

 暖房器具に身の半分以上を埋めて視線は液晶の板っぱち、返す感謝の言葉もわざとらしい。それでも渡してあげる私は優しい方、兄貴なら冷たく「自分で取れ」の一言だけで何もしない。
 父は厳しく気軽に物を頼む雰囲気では無いし、母は私も動きたくないの、なんて正直に返す物だから必然的に私になる、たかがティッシュ如きで面倒くさい。

「じゃあ、取ってくるから」

 リビングを後にして二階の自室へ向かう、後回しにしてきた物が一つあるからだ。
それは自室の大掃除もとい大整理。
 何を?そうです押し入れにしまった同、人、誌。
年末に行われた即売会、その在庫と戦利品の整理がまだ終わってないのである。バレない様にバレない様に毎年毎年コツコツと続けてきた努力を無駄にしたくは無い。
 
 一般的よりかはズレて居るのは分かってる、何せ私のジャンルは無機物通しのカップリングだから。マグ、飛行機、揚げ物、卵かけご飯、etc etc。他者から見ればネタ枠と言われるだろうね。

 何故このタイミングで?それは大雪が原因してる。
今朝も積もりに積もって早めに掻き出さないと後々凍りついて面倒、でも、いつも使っている雪かきがこの間の大雪で壊れたから、予備の雪かきを出さなきゃ行けない。そうここまで言えばわかるね、その予備こそ、この押し入れの奥底に眠ってる訳だ。整理はついでだけど。

 とりあえず目標物を取り出してしまえれば最低条件だけど、実家住み個室鍵無しと言えば家族の凸(とつ)
(突然乱入の意)が予想される。
親は無遠慮に、兄貴は声を掛けて開閉はしないが妹はそうじゃない。気をつけ無ければ合わせる顔が無い。

 部屋に入る、絶賛作業中の内容を保存してパソコンをシャットダウン、件の押し入れに手をかけ襖をあけ

「お姉ちゃん私もなんか手伝う〜?」

「う、ううん大丈夫。それよりお母さんの料理の手伝いしてきたら?私の方は大丈夫だから、本当に」

「分かったー」

 ...ようとした手は高速で閉まり、出入り口の妹の方へ視線を移した。
ぎこちなく話題を逸らしつつも見送る、おおかたお母さんに何か手伝える事あれば行ってきなさい、とでも言われたんだろう。ドタドタと聞こえる足音が遠くなるのを確認してから再度襖を開けた。

 危ない、自分のサークルでは無いにしろ戦利品の表紙を見られる所だった。額の冷や汗を拭いつつ手早く取り出していく、なるべく同じジャンル通しになる様に丁寧に並べて整理してようやく目標物を手にした。

 そうするとギシギシと誰かが階段を上がる音がする、この速度は母だ!先手をとって最終防衛線である自室のドアを開けて、母を迎え撃つ。背後のドアは忘れずに閉めてね。

「見つかった?」
    「あったよ!ほらコレ」

「あら、じゃあお父さんに渡しておくわね」

 母の言葉が言い切らないうちにさっさっと雪かきを手渡す、強化プラスチック製の橙スコップ✖️二個確かに押し付けた。相手が背後を見せるまで私も背後を晒せない。向こうに行ったのを確認してから部屋に戻る。
 今兄貴は雪と格闘している、お母さんと妹は料理、残す所父だが渡した雪かきで外に出るはず。

 それはそれとしてあまり時間は掛けられない、三十分は部屋にいるのだもの、手短に収めなくちゃ。
イレギュラーは唐突、急いでる時ほど起こりやすい我が家のジンクスでもある。

 慌てながらも全ての本をしまい、襖を閉じた瞬間勢いよく防衛線が打ち破られた。相手はまさかの父。

「おい、ちょっと外手伝え、量が多くてかなわん」

 一瞬体が跳ねた、けど大丈夫もう全部しまった後だもの。悠々と余裕たっぷりに了承しようとしたその時、父の足元に落ちている紙が目に入った。

まずい

「ん?なんだコレ」

 父が紙に気がついて拾おうとする、まずい。さっき出した時にしまい忘れた!
書かれている言葉は悪く無い、「良い年末を!」ありきたりな言葉しか書いてない。だけどそれはこの間の即売会で配布したフリーペーパーなのだ。

「待ってお父さm」

 今年は集大成で過去最新全ての無機物のオールスターズ、頬らしき箇所を赤らめたマグカップが、飛行機が、揚げ物達が、卵かけご飯が、、、その全てが描かれている全てが良いお年をと言っている。

「•••」

 静止を求める私の手は虚しく空をかき、その場に転倒する。見上げて見た父は手にしていたスコップを足元に落とす。理解の理から外れた様に、彼の背後には宇宙が広がっていた。


おわり

12/25/2024, 10:47:09 PM

クリスマスの過ごし方

クリスマスワンルームワンナイト

 寒空の下ドアの前で床の植木鉢を持ち上げる、目の前のドアを解錠できるスペアキーを手に持ち、僅かに付いた土埃を取り払う、普段この鍵は使われないのだから当然か。
 いつも使っている鍵は会社のロッカーの中にはあるが、ロッカーにも鍵は付いているしそうそう開けないだろう。忘れてしまったのはしょうがない急いでいたのだ。
カチャリ、と耳心地の良い解錠の音がする。

ただいま




平日ど真ん中の水曜日、街中流れるクリスマスソングとカップルをかき分けたどり着いた我が城。
パチンと灯りを付けて響く第一声は誰もいない空間に虚しく消え、代わりに寂しさを返した。

氷点下の気温に晒された築何十年のボロアパート、期待に漏れず室内は寒々しく暖房なしでは居られない。
扇風機に似た形のハロゲンヒーターと炬燵、更にはエアコンの電源を入れて台所に立つ、予約していたミニホールケーキをお皿に移しチキンはレンジへ。

兎にも角にも寒い、私の口は外にいた時と変わらず寒いしか発する事しか出来ず、悴んだ手をヒーターへ伸ばす。
ほんのり温かい熱波が私の固まった指先をゆっくりと溶かしてゆく、無心で手を閉じては開いてを繰り返していれば、短く高い音に戻された。

今日はクリスマス、毎年恒例ソロイベント。
激務でイヴを会社で過ごそうとも私には関係無い、一人の方が気楽で好きだ。
洒落たツリーも飾り付けも要らない電気代が勿体無い、
ケーキとチキンと炬燵と私、それだけあれば充分。
テレビを垂れ流しにして洗い物は明日の自分に託し、家事を何もせずまったり過ごす、これが私のクリスマスの過ごし方。

料理を置いてテレビを付ける、着の身着のまま炬燵へイン。着替えてなんか居られない、炬燵が温かく私の足を歓迎する。
ほんの一瞬違和感を覚えたが、認識する前に液晶越しから流れる楽しげな音楽に、些細な思考は隅へと流された。

イルミネーションでキラキラした都会の映像、美味しそうなローストチキン、気難しい話しかしない政治家も今日ばかりはサンタ帽子を被り、ニュースキャスターと浮かれている。
 さあ食べよう、だけど肝心のスプーンが無い。生憎素手でケーキを食す習慣は無いので致し方なし。
私は離れがたい炬燵からしばしの別れを告げ、台所へ立つ。
この時、時刻は19時を指していた。

テーブルのスマホがチカチカと点滅している、開かなくてもわかる彼からのメッセージだ。入社して半年が過ぎ教育係の私の手から離れた筈の後輩君、安易に連絡先を教えてしまったのは間違いだったかも。
最近距離が近く、欲しいと思った物をピンポイントで送ってくるのだ、当然全てお断りしている。
私生活を覗かれている気分で正直怖い。
今日の予定だってしつこく聞かれた。

だけども、私は好きで一人のクリスマスを過ごすと決めているのだ。誰にも邪魔はさせない。
プラスチックのスプーンを携えて座る、今度こそケーキにありつける。

メリークリスマス

いただきますの代わりに呟いてみた。
まだ、「ただいま」よりも先に言ってしまうとは、
私も相当浮かれているのかも知れない。


おわり(一部編集)

9/24/2024, 10:59:29 AM

ジャングルジム

私情クライマー

都会の住宅街に挟まれた狭い敷地に公園が出来た。

オーソドックスな滑り台や砂場はなく、二人掛けの木製ベンチと手洗い場、そしてジャングルジム。
数多ある遊具ひとつとしては珍しい。
見かけるのは小学校や大きな公園がせいぜいで、こんな狭い土地で広い面積を取る遊具など何をどう考えても候補から外れるに決まっている。
子供に好かれそうな黄色や橙などの塗料がされている訳でもなく、鉄本来の光沢ある棒を掛け合わせた物で、世間一般のジャングルジムより一回り大きい。
何より価格も相場の約四倍の三桁万を超えている。

こんな遊具を施設したのは中小企業の社長で、委任されているのを良いことに自身の案を押し通し現状の公園が在る。

幼少期の頃、ジャングルジムの頭頂から望む景色と登りきった達成感に強い感動を覚え、遊具に携わる会社を立ち上げた。偶然とはいえチャンスが巡ってきたのなら当然推していきたい訳で、詰まるところ私情による設置だ。

彼の意見に反対した人達の考えを裏切るように、意外にも人気はあるようで。珍しさからか若者から社会人、女子高生に老人まで訪れては登頂した。

登頂した人々は大きな賞を取ったり優勝したり会社を立ち上げるなど成果を挙げる中、当の本人は忙殺により立ち寄れず仕事を送る毎日。
束の間の休憩でネットニュースの人物が快挙を達成した見出しを眺める。まさか自身が関わっているなど微塵も思ってはいないのだが。

強い願いは物にも宿るのか、まるで都市伝説のような噂がちらほらと囁かれる頃、一人の子供が自分の背丈よりも何倍もの遊具を見上げている。
登るか立ち去るか二つに一つ、何を思うのか。

次に公園に訪れた時、巨大なジャングルジムを見上げているのはあなたかも知れない。


終わり

7/7/2024, 6:52:51 PM

七夕

陸の孤島

大型ショッピングモールの一角、即席で作られた壁紙には沢山の長方形の紙が張り出されていた。

『七夕祭り、お願い事を書いてみよう』

明朝体で書き出された機械的文面、A3用紙の白い余白に飾り毛のない黒が印字されている。イベントにも関わらず簡素でシンプルなデザイン、文字も一つ一つ切り出してもっと適切な書体を使えば映えるだろう。
せめてお願い事を書く紙も色紙を使えば良いのに白い画用紙を長方形に切っただけの、本当に遊び心のないつまらない物だ。

それでも、その短冊には様々な思いが書き連ねていて。幸せを願う人、応援する人、目標を掲げる人、そのどれもが筆跡に感情を発している。

照明が落ちた店内に陽の日差しが入る、思いを繋ぎ止めている透明なシールは光を受け、着実にダメージを与えた。その幾つかは剥がれ今にも落ちそうな短冊すらあるが、今の所床に落ちた短冊は一つもない。

併設された飲食店、紳士、婦人服から子供服まで揃った服屋。異様な空気漂う食品スーパー。動力を失った動かないエスカレーターと正面入り口、そして右奥にある老夫婦が営む雑貨屋。しんと静まり返った店内は当時のままそこにある。

去年と同じ七月七日、午後四時頃大きな爆発が全てを変えた。その日からこの土地に人の、生物の侵入を許さない過酷な場所へと形を変えたのだ。
どんな優秀な機械でもメンテナンスが必要であるように、人間もまた同じ過度なストレスはミスを誘発する。

フッ と一枚の短冊が音もなく剥がれ落ちた

「家族みんな元気でありますように」

再びこの土地に人が訪れる日は早くとも数十年先、先の見えない未来でも、希望を見出し今を生きる。
家族を案ずる思いに陽の光が当たる、
その一枚の短冊の願い事を聞き届ける様に。

おわり

7/1/2024, 5:56:23 PM

窓越しに見えるのは

窓から望む一世紀

白い一軒家があった
壁、玄関、屋根、敷かれた砂利道から塗装されたコンクリートの床、そして郵便受けも例外なく白に染まっていた。
色以外で特筆することはあまりない、強いて言うなら二階建てで、都会にあるモデルハウスをそのままコピー&ペーストした量産型の産物と呼ぶだろう。

若い男女が荷物を運んでいる、段ボールだ、数がとても多い。時おり抱き合いお互いに言葉で愛を交わし、他者が見ればため息をつきたくなるほどに密接だ。
二人はやがて家の中へ、きっちりと揃えられた革靴と、脱ぎ散らかされた赤いハイヒールが玄関に転がる。
若さと勢いで浮かされた下の心が止まらない二人
悩ましい声が薄らと聞こえている。幸いに周りに住宅が無いのが救いか。
白い雨戸が隅に寄せられて大きなガラスの扉が現れたのは夕方になってからだった。

ガラス窓の向こうはリビング、そして離れた島、アイランドキッチン。
沢山の手料理が並ぶ、どれもこれも彩り豊かでオシャレな、そしてそれを口に運ぶ男の破顔が出来栄えを表していた。

季節が巡る

お腹を膨らませた女と愛おしそうにお腹を撫でる男。
リビングは既に子供専用のおもちゃがいくつかある。

月が変わる

夜中にサイレンが響く、空いた窓から女が男らに車へと運ばれていく、あの男の姿はない、代わりに縁側に残る小さな水溜まりが月明かりを照らした。

日が暮れる

木製のイスにかけた男が隣の女を宥めている。
足元に壊れたガタクタとボロボロの絵本。
目を腫らして泣いていた、お腹はもう膨らんでいない。

年が経つ

カーテン越しに映る二人と小さな影が二つ、暖色に照らされた家族の一時。同年に追刻された表札には二つの名前。

時を経る

壮年夫婦と若い夫婦、元気な幼い男の子がくたびれた男にまたがりおもちゃの剣を振り回す。適度な動きで馬を再現しつつも落ちないように気を配る。

針が進む

壮年の夫婦が喪服を着て中年の男と会話をしている。
家の外壁は傷だらけで、柱には車がぶつかった跡が残っている。何もなかった近所は似たような家が立ち並び、五十メートルも歩けば商店街があり、キラキラと光る光化学の小さな電球が夜の街を華やかな場所へと変貌させた。

一世紀を迎える

もうそこに白い一軒家は無かった。
大きな企業に土地ごと買収されたからだ。
ガタが来たボロボロの家を誰が使うものか、結局は取り壊され立体駐車場の一部がそこに在る。
形ある物は自然に淘汰される、人が作りし物もまた人の手で淘汰されただ消えていくのみ。

その歴史を見守っていた大木は物言わずに今日まで生きている。明日切り倒されるとも知らずに。また一つ大切な風景が、何かが消えていく。
なにも悲しいことばかりではない、何かが終わればまた何かが始まる。世の中の輪廻。
そして新しい世代へと進むのだ。

おわり

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