クリスマスの過ごし方
クリスマスワンルームワンナイト
寒空の下ドアの前で床の植木鉢を持ち上げる、目の前のドアを解錠できるスペアキーを手に持ち、僅かに付いた土埃を取り払う、普段この鍵は使われないのだから当然か。
いつも使っている鍵は会社のロッカーの中にはあるが、ロッカーにも鍵は付いているしそうそう開けないだろう。忘れてしまったのはしょうがない急いでいたのだ。
カチャリ、と耳心地の良い解錠の音がする。
ただいま
平日ど真ん中の水曜日、街中流れるクリスマスソングとカップルをかき分けたどり着いた我が城。
パチンと灯りを付けて響く第一声は誰もいない空間に虚しく消え、代わりに寂しさを返した。
氷点下の気温に晒された築何十年のボロアパート、期待に漏れず室内は寒々しく暖房なしでは居られない。
扇風機に似た形のハロゲンヒーターと炬燵、更にはエアコンの電源を入れて台所に立つ、予約していたミニホールケーキをお皿に移しチキンはレンジへ。
兎にも角にも寒い、私の口は外にいた時と変わらず寒いしか発する事しか出来ず、悴んだ手をヒーターへ伸ばす。
ほんのり温かい熱波が私の固まった指先をゆっくりと溶かしてゆく、無心で手を閉じては開いてを繰り返していれば、短く高い音に戻された。
今日はクリスマス、毎年恒例ソロイベント。
激務でイヴを会社で過ごそうとも私には関係無い、一人の方が気楽で好きだ。
洒落たツリーも飾り付けも要らない電気代が勿体無い、
ケーキとチキンと炬燵と私、それだけあれば充分。
テレビを垂れ流しにして洗い物は明日の自分に託し、家事を何もせずまったり過ごす、これが私のクリスマスの過ごし方。
料理を置いてテレビを付ける、着の身着のまま炬燵へイン。着替えてなんか居られない、炬燵が温かく私の足を歓迎する。
ほんの一瞬違和感を覚えたが、認識する前に液晶越しから流れる楽しげな音楽に、些細な思考は隅へと流された。
イルミネーションでキラキラした都会の映像、美味しそうなローストチキン、気難しい話しかしない政治家も今日ばかりはサンタ帽子を被り、ニュースキャスターと浮かれている。
さあ食べよう、だけど肝心のスプーンが無い。生憎素手でケーキを食す習慣は無いので致し方なし。
私は離れがたい炬燵からしばしの別れを告げ、台所へ立つ。
この時、時刻は19時を指していた。
テーブルのスマホがチカチカと点滅している、開かなくてもわかる彼からのメッセージだ。入社して半年が過ぎ教育係の私の手から離れた筈の後輩君、安易に連絡先を教えてしまったのは間違いだったかも。
最近距離が近く、欲しいと思った物をピンポイントで送ってくるのだ、当然全てお断りしている。
私生活を覗かれている気分で正直怖い。
今日の予定だってしつこく聞かれた。
だけども、私は好きで一人のクリスマスを過ごすと決めているのだ。誰にも邪魔はさせない。
プラスチックのスプーンを携えて座る、今度こそケーキにありつける。
メリークリスマス
いただきますの代わりに呟いてみた。
まだ、「ただいま」よりも先に言ってしまうとは、
私も相当浮かれているのかも知れない。
おわり(一部編集)
12/25/2024, 10:47:09 PM