夕暮電柱

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風景

ステンドガラスト

 私の街には教会がある、地元の結婚式なんかでは定番で家の両親もそこで式をあげた。
結婚するなら〇〇の雑誌で特集される様な場所でそこそこ有名。
一般的に思いつく白で塗りつぶした箱に十字架を貼り付けた建物じゃない、少し洒落ていて白は確かに基調としてはいるんだけど差し色が派手目な教会。
小規模ながらも存在感があってなんと言っても特徴的なのがステンドガラス。

 ほとんどの壁面にステンドガラスが散りばめられていて、派手目と言ったのはこれの事。外から眺めていても絵になるし、絶好の撮影場所になる。海外からも人気が高くて観光客の大半は必ず撮影しに来る訳。

 子供の頃は地元しか知らない場所で、人通りも少なくて友達との待ち合わせ場所にしてた位だったんだけど。
五年前にキラキラしたインフルエンサーが紹介した途端、人で賑わう様になって数少ない居場所を奪われた気持ちにもなったわ。

 でもおかげで商店街は活気を取り戻したし、こうして美味しいパスタにありつけてる訳だから悪くは無かったのかもね。
店内から見える教会は今日も今日とて見知らぬ人とチェキを重ねる、私は電子の板で日々感じた心のままにエッセイを綴る。そしてここのお会計もスマートに、あ足りないかも、、いいえ小銭を足せばギリギリ足りるわ。うーーん、まあこれは及第点かしら?



 見慣れたステンドガラス、一瞬だけこれが最後になるのかも知れない、もし割れてしまったら、なんて変な被害妄想を何度思い浮かべたか。私の中に眠る破壊的衝動がこちらをちらちらと覗かせては理性で押し留める。最も最後になるかも知れないのは余所の人達で、人生で二度も訪れる事は多分きっと無い。それこそ深い思い入れが無ければこの美しい芸術品をまた見たいなんて思わないでしょうね。

 ぬるりと独占欲が私の心を覆う、誰のものでも無いのに私個人への作品である錯覚、見知らぬ人のその場限りの消耗品になり続ける位ならいっその事私が壊してしまおう。私は鞄から金槌を取り出して投げつける、一投で全てのガラスが盛大に割れる音と降り注ぐ光の破片、幾つかの破片は私を傷つけて地面に落ちては砕け散る。達成感を感じながらも開放感すらある、私は満足気に頷いた、もちろん 脳内で。

 目の前に広がる、何処かの時代の風景を模ったステンドガラス、私の一番のお気に入りで破壊対象であり保護対象でもある。
後ろから二人組の観光客が私に声を掛けてきた、手には携帯つまりはそう言う事。
受け取った端末を地面へ叩きつける衝動を抑えながら、笑顔で撮影を引き受けた。

 一枚目はわざと人物を外してステンドガラスだけを収める、私だけの作品でいて欲しいけれどそうはいかない、そんなささやかな抵抗で。
もう一度照準を合わせる、今度はちゃんと二人も写す。

 再び破壊衝動が私を捉えてしまわぬ内に、鮮やかなステンドガラスと二人組をカメラに収めて、三、二、一、と、私はシャッターを切るのであった。


終わり

4/13/2025, 8:46:36 AM