夕暮電柱

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良いお年を

凸乱入最終防衛線

 三十代半ばの私にも平等にやってくる大晦日、十二月三十一日いわゆる年の瀬って奴。最近忙しくて休む暇もないし模様事の度にトラブルがついて回る。
 この間のクリスマスだって両親と兄貴と私が話し合って飾りつけたイルミネーションも、予報になかった大雪でお釈迦様だし、妹が連絡も無しに帰省してくる物だから泡食った思い出、冷食引っ張り出して足りたから良かったけどさ。

「お姉ちゃん、アレ取って」
「自分で取れるでしょ、全く」
「へへへー、ありがとーぅ」

 暖房器具に身の半分以上を埋めて視線は液晶の板っぱち、返す感謝の言葉もわざとらしい。それでも渡してあげる私は優しい方、兄貴なら冷たく「自分で取れ」の一言だけで何もしない。
 父は厳しく気軽に物を頼む雰囲気では無いし、母は私も動きたくないの、なんて正直に返す物だから必然的に私になる、たかがティッシュ如きで面倒くさい。

「じゃあ、取ってくるから」

 リビングを後にして二階の自室へ向かう、後回しにしてきた物が一つあるからだ。
それは自室の大掃除もとい大整理。
 何を?そうです押し入れにしまった同、人、誌。
年末に行われた即売会、その在庫と戦利品の整理がまだ終わってないのである。バレない様にバレない様に毎年毎年コツコツと続けてきた努力を無駄にしたくは無い。
 
 一般的よりかはズレて居るのは分かってる、何せ私のジャンルは無機物通しのカップリングだから。マグ、飛行機、揚げ物、卵かけご飯、etc etc。他者から見ればネタ枠と言われるだろうね。

 何故このタイミングで?それは大雪が原因してる。
今朝も積もりに積もって早めに掻き出さないと後々凍りついて面倒、でも、いつも使っている雪かきがこの間の大雪で壊れたから、予備の雪かきを出さなきゃ行けない。そうここまで言えばわかるね、その予備こそ、この押し入れの奥底に眠ってる訳だ。整理はついでだけど。

 とりあえず目標物を取り出してしまえれば最低条件だけど、実家住み個室鍵無しと言えば家族の凸(とつ)
(突然乱入の意)が予想される。
親は無遠慮に、兄貴は声を掛けて開閉はしないが妹はそうじゃない。気をつけ無ければ合わせる顔が無い。

 部屋に入る、絶賛作業中の内容を保存してパソコンをシャットダウン、件の押し入れに手をかけ襖をあけ

「お姉ちゃん私もなんか手伝う〜?」

「う、ううん大丈夫。それよりお母さんの料理の手伝いしてきたら?私の方は大丈夫だから、本当に」

「分かったー」

 ...ようとした手は高速で閉まり、出入り口の妹の方へ視線を移した。
ぎこちなく話題を逸らしつつも見送る、おおかたお母さんに何か手伝える事あれば行ってきなさい、とでも言われたんだろう。ドタドタと聞こえる足音が遠くなるのを確認してから再度襖を開けた。

 危ない、自分のサークルでは無いにしろ戦利品の表紙を見られる所だった。額の冷や汗を拭いつつ手早く取り出していく、なるべく同じジャンル通しになる様に丁寧に並べて整理してようやく目標物を手にした。

 そうするとギシギシと誰かが階段を上がる音がする、この速度は母だ!先手をとって最終防衛線である自室のドアを開けて、母を迎え撃つ。背後のドアは忘れずに閉めてね。

「見つかった?」
    「あったよ!ほらコレ」

「あら、じゃあお父さんに渡しておくわね」

 母の言葉が言い切らないうちにさっさっと雪かきを手渡す、強化プラスチック製の橙スコップ✖️二個確かに押し付けた。相手が背後を見せるまで私も背後を晒せない。向こうに行ったのを確認してから部屋に戻る。
 今兄貴は雪と格闘している、お母さんと妹は料理、残す所父だが渡した雪かきで外に出るはず。

 それはそれとしてあまり時間は掛けられない、三十分は部屋にいるのだもの、手短に収めなくちゃ。
イレギュラーは唐突、急いでる時ほど起こりやすい我が家のジンクスでもある。

 慌てながらも全ての本をしまい、襖を閉じた瞬間勢いよく防衛線が打ち破られた。相手はまさかの父。

「おい、ちょっと外手伝え、量が多くてかなわん」

 一瞬体が跳ねた、けど大丈夫もう全部しまった後だもの。悠々と余裕たっぷりに了承しようとしたその時、父の足元に落ちている紙が目に入った。

まずい

「ん?なんだコレ」

 父が紙に気がついて拾おうとする、まずい。さっき出した時にしまい忘れた!
書かれている言葉は悪く無い、「良い年末を!」ありきたりな言葉しか書いてない。だけどそれはこの間の即売会で配布したフリーペーパーなのだ。

「待ってお父さm」

 今年は集大成で過去最新全ての無機物のオールスターズ、頬らしき箇所を赤らめたマグカップが、飛行機が、揚げ物達が、卵かけご飯が、、、その全てが描かれている全てが良いお年をと言っている。

「•••」

 静止を求める私の手は虚しく空をかき、その場に転倒する。見上げて見た父は手にしていたスコップを足元に落とす。理解の理から外れた様に、彼の背後には宇宙が広がっていた。


おわり

12/31/2024, 2:44:19 PM