夕暮電柱

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ジャングルジム

私情クライマー

都会の住宅街に挟まれた狭い敷地に公園が出来た。

オーソドックスな滑り台や砂場はなく、二人掛けの木製ベンチと手洗い場、そしてジャングルジム。
数多ある遊具ひとつとしては珍しい。
見かけるのは小学校や大きな公園がせいぜいで、こんな狭い土地で広い面積を取る遊具など何をどう考えても候補から外れるに決まっている。
子供に好かれそうな黄色や橙などの塗料がされている訳でもなく、鉄本来の光沢ある棒を掛け合わせた物で、世間一般のジャングルジムより一回り大きい。
何より価格も相場の約四倍の三桁万を超えている。

こんな遊具を施設したのは中小企業の社長で、委任されているのを良いことに自身の案を押し通し現状の公園が在る。

幼少期の頃、ジャングルジムの頭頂から望む景色と登りきった達成感に強い感動を覚え、遊具に携わる会社を立ち上げた。偶然とはいえチャンスが巡ってきたのなら当然推していきたい訳で、詰まるところ私情による設置だ。

彼の意見に反対した人達の考えを裏切るように、意外にも人気はあるようで。珍しさからか若者から社会人、女子高生に老人まで訪れては登頂した。

登頂した人々は大きな賞を取ったり優勝したり会社を立ち上げるなど成果を挙げる中、当の本人は忙殺により立ち寄れず仕事を送る毎日。
束の間の休憩でネットニュースの人物が快挙を達成した見出しを眺める。まさか自身が関わっているなど微塵も思ってはいないのだが。

強い願いは物にも宿るのか、まるで都市伝説のような噂がちらほらと囁かれる頃、一人の子供が自分の背丈よりも何倍もの遊具を見上げている。
登るか立ち去るか二つに一つ、何を思うのか。

次に公園に訪れた時、巨大なジャングルジムを見上げているのはあなたかも知れない。


終わり

9/24/2024, 10:59:29 AM