蓼 つづみ

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1/19/2026, 7:55:18 PM

会っても何も解決しないと知っている理性。
楽しませることを引き受けないという選択。
それでも、向いてしまう意識。

それらはすべて、
昼のあいだは
きれいに整列している。

夢は、その整列を崩す場所だ。

そこでは
「会ってはいけない理由」も
「会いたいと言わない誠実さ」も
効力を失う。

ただ、
意識が畳み損ねたまま残した余白に、
すっと入り込んでしまう。

無意識が、
未完のままでも成立する接触を
夢の中で試している。

朝になって、
胸が、少し重い。

題 君に会いたくて

1/18/2026, 2:18:07 PM

それは
窓を開けたつもりで
ずっと排気口に顔を近づけていた、
そんな感じだ。

Xは、
スケジュール帳でもなく、
広告の掲示板でもなく、
元々、昔は
声に出すほどでもない言葉の避難場所だった。

今日あったこと、
今浮かんだ違和感、
まだ整理されていない感情。
完成させる気のない文章を
息の延長みたいに置いていく場所。

あれは主張じゃなく、
記録でも宣言でもなく、
思考が自分の形を探す途中の音だった。

私は書いていなかった。
掲げてもいなかった。
他人の日記の頁を、延々とめくっていただけ。

でも、そのうち、
あの呟くような日記は、掲示物に変質した。
読む前提、評価される前提で言葉が歪んでいく。

そうなると、
もう
呟きを置く場所じゃなくなる。

風のつもりで吸い込んだものが
実は
誰かの焦げた言葉や
未消化の怒りの粉塵で、
肺の奥に
静かに積もっていく。

最初は
「少しむせるだけ」だった。
目も冴えるし、
世界をどう誘導したい人がいるのかを、
感じられる気もした。

でも
気づくと
心拍が一拍早くなり、
思考は常に
警報音の横に置かれるようになっていた。

だから目を伏せた。
ページを閉じた。
言葉の洪水から
視線だけを引き上げた。

逃げたわけじゃない。
酸素濃度を
自分の体に戻しただけ。

今は
静かな場所で
呼吸がちゃんと
胸まで届く。

世界はまだ騒がしい。
でも
その全部を
吸い込まなくていいことを
思い出しただけだ。

題 閉ざされた日記

1/17/2026, 10:54:08 AM

木枯らしは、
何かを壊そうとして吹いていない。

ただ、
空気の粒を荒らし、
砂を巻き上げ、
呼吸の経路にノイズを流し込む。

感知器は壊れていない。
むしろ、よく拾う。
音も、間も、
ため息の角度も、
沈黙の長さも。

だから、
身体の内側では
選別と予測と防御が
休みなく走る。

まだ起きていない衝突の
予告編だけが
繰り返し再生される。

木枯らしは、
敵の姿を見せない。
どこから吹いているのかも
いつ止むのかも
はっきりしない。

ただ、
「安全ではない」という情報だけを
一定の風量で送り続ける。

逃げ場はない。
止める対象もない。
だから神経は
未確定の緊張を抱えたまま
拘束される。

外から見れば、
誰も殴られていない。
何も起きていない顔をしている。

けれど、
回転部には砂が残る。
アクセルを踏んでも
力はきれいに伝わらない。

反応は遅れ、
判断は鈍り、
思考は重くなる。

それは破壊ではなく、
摩耗だ。

跡は残らない。
ただ、
神経系の奥に
乾いた冷気だけが居座る。

木枯らしは過ぎ去っても、
身体はまだ
その風向きを
記憶している。

これは嘆きではない。
長く吹きさらしの場所で
生き延びた結果としての
静かな後遺症。

木枯らしとして
読むことができる、
確かな事実。

題 木枯らし

1/17/2026, 5:29:15 AM

鳥は、
「この色が好きだ」と考えてはいない。
ただ、その刺激だけが、
ほかよりも高い処理優先度を与えられている。

人も同じだ。
美しいものを見たとき、
「怠惰が読み取れないからだ」とは思わない。
「努力の結果だ」とも思わない。

ただ、
足が止まり、
息が一拍遅れ、
視線が引き寄せられる。

その反応は、感情ではない。

痩せていることは、美しさそのものではない。
飾り気のなさは、怠惰の証明でもない。
健康に近づくことは、美しさに近いが、正解ではない。

表情も同じだ。
笑顔が張り付けば、
それはもはや好まれるとは言えなくなる。
覇気が過剰になれば、
そこには息苦しさが生まれる。

幼稚園の担任が、子どもたちに向けて
「今日も、みんないい顔してるね」
そう言うときの“いい顔”は、
美しさにかなり近い。
けれど、それもまた唯一の答えではない。
退廃的な美も、確かに存在する。

人の美しさも、
本来はもっと、
花が咲いたり、
光が屈折したりするのと、
近い場所にあったはずだ。

山が空気の層を、
静かに切り替える場所に、
サンカヨウという花が咲いている。

図鑑に載る白は、少し雄弁だ。
実際の花は、
手のひらに隠れるほどの在り方で、
群れても、主張しない。

雨が音を細かくほどき、
地に潜り、
眠っていた香気を
ゆっくりと立ち上がらせるころ、
そのやわらかな花弁は、
降り注ぐ雫に触れ、
静かに、白の役目を終える。

消えたのではない。
ただ、光を受け取るのをやめ、
水と世界のあいだへ、身を透かす。

形は残る。
その小さな質量は、
確かにそこにある。

可視性だけを手放し、
内部を、そのまま差し出してくる。

花びらは光に透け、
雨粒を抱えたまま、
薄い水の膜のように、
ごくわずかに波を打つ。

細胞に水が満ち、
境界はやわらかく曖昧になり、
花は世界と同じ屈折率を持つ。

息を詰めるのは、見る側だ。
壊れそうだと、
勝手に思い込まされてしまう。

けれど雨が去れば、
白はまた、何事もなかったように戻ってくる。

それが脆さではなく、
一時的な同化だったことを、
静かに知らせる。

美しさと呼ばれるものは、
対象の性質ではなく、
それを見る側の屈折率として、
ふと立ち上がる。

題 美しい

1/15/2026, 6:28:54 PM

ひとも空も
木も草も
くるり、くるりと
ないて、わらう。

風は みみをくすぐり
光は ゆびをすりぬけ
影は あしもとで
くるくる、くるくる
たのしそうに踊る。

世界はぐるぐる
止まりたくても止まれない。

ぐるぐる、ぐるぐる
回っちゃうから
ちいさな かけらが
目のはしで キラリ、キラリ。

手をのばせば
ゆびさきが ふれそうなところで
ぐるぐる、ぐるぐる
だから心は ふわり、ふわり。

私たちをのせて
今日も世界はぐるぐる。

ぐるぐる、ぐるぐる
ぐるぐる、ぐるぐる
ぐるぐる、ぐるぐる
回っている。

題 この世界は

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