蓼 つづみ

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それは
窓を開けたつもりで
ずっと排気口に顔を近づけていた、
そんな感じだ。

Xは、
スケジュール帳でもなく、
広告の掲示板でもなく、
元々、昔は
声に出すほどでもない言葉の避難場所だった。

今日あったこと、
今浮かんだ違和感、
まだ整理されていない感情。
完成させる気のない文章を
息の延長みたいに置いていく場所。

あれは主張じゃなく、
記録でも宣言でもなく、
思考が自分の形を探す途中の音だった。

私は書いていなかった。
掲げてもいなかった。
他人の日記の頁を、延々とめくっていただけ。

でも、そのうち、
あの呟くような日記は、掲示物に変質した。
読む前提、評価される前提で言葉が歪んでいく。

そうなると、
もう
呟きを置く場所じゃなくなる。

風のつもりで吸い込んだものが
実は
誰かの焦げた言葉や
未消化の怒りの粉塵で、
肺の奥に
静かに積もっていく。

最初は
「少しむせるだけ」だった。
目も冴えるし、
世界をどう誘導したい人がいるのかを、
感じられる気もした。

でも
気づくと
心拍が一拍早くなり、
思考は常に
警報音の横に置かれるようになっていた。

だから目を伏せた。
ページを閉じた。
言葉の洪水から
視線だけを引き上げた。

逃げたわけじゃない。
酸素濃度を
自分の体に戻しただけ。

今は
静かな場所で
呼吸がちゃんと
胸まで届く。

世界はまだ騒がしい。
でも
その全部を
吸い込まなくていいことを
思い出しただけだ。

題 閉ざされた日記

1/18/2026, 2:18:07 PM