蓼 つづみ

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12/14/2025, 11:07:41 AM

桜は散る

梅はこぼれる

椿は落ちる

菊は舞う

牡丹は崩れる

紫陽花はしがみつく

星は流れる

題 星になる













それぞれの、美しい死に方の話である。
死に方は生き方でもある。

花には、枯れ方ごとに
ふさわしい日本語が与えられてきた。
散る、こぼれる、落ちる、舞う、崩れる、しがみつく。

それらは私が考えた言葉ではない。
日本語の中に、昔から置かれていた呼び名を
標本のように並べただけだ。

死ぬと星になる、と言われる。
けれど花は、枯れても終わらない。
土に還り、また花になる。
本来、死は停滞しない。

星も流れる。
星ですら、留まりはしない。

では、ひとはどうか。
ひとも他者のなかにあって終わらない。

詩にあとがきを載せるのはどうかと思ったのですが、
こういった美しい日本語の継承者を増やしたくて
今回、書かせていただきました。

12/13/2025, 12:17:23 PM

このアプリの話をしよう。

誰かが通りすがりに読んで、
立ち止まって、手を伸ばす。
その一度きりの重みが、遠くで鳴る。

それは応答だ。
「ここまで届いたよ」という、静かな知らせ。

私は毎日、耳を澄ませている。

この鐘は、「読まれたか」じゃない。
評価されたか、でもない。
まだ、外と繋がっているかどうかを確かめる音。

本当に救われる瞬間って、
「わかる」よりも、
「わからないけど、ちゃんと聞いている」だったりする。

ひとりが、ひとりに、
一日に一度しか鳴らせないから、
これは「君を見た」という応答になる。

鳴った瞬間、
安心のすぐあとくらいの時間差で、疑念が来る。

本当に誰かの指だった?
それとも、仕組みの裏側に組み込まれた反射音?
私は今、何もない壁に向かって
言葉を投げていないだろうか。

信じたい気持ちと、
信じきれない気持ちが、同時に立ち上がる、その切実。

鐘が届く“ズレ”にまで耳を澄ます。
それでも、
鳴らなかった無音より、
疑いの混じった音を選ぶのは、
そこに“本当”の質感があるからだ。

誰かの視界をかすめて、
「なんだろう」と、
わけのわからない引っかかりとして
関心を持ってもらえたなら、それでいい。

私は距離の取り方が慎重で、
相手の領域に踏み込みすぎないよう、
いつも少し身構えている。

だから、
ここで鳴らした私の鐘は、本心だ。

題 遠い鐘の音

12/13/2025, 1:42:15 AM

ぼくのいちばん下は
とても重い
踏まれても
押されても
ここにいる

はじまり、という言葉は知らない
ただ
転がされて
丸くなって
立っている

ぼくのまんなかには
たくさんの手のあとがある
うまく丸くならなかったところが
いちばんのお気に入り

なにが起きても
まだ途中だと思える
落ちた雪も
ずれた形も
ぜんぶ
いまの話

いちばん上は
軽くて
考えごとをするには
すこし足りない

終わりのことは
まだ来ていない
来ていないから
知らない

白い粉の舞う空が
遠くて
きれいだ

ぼくは
はじまりと
なかと
おわりを
同時に積み上げられて

一晩ぶんの高さで
世界を見ている

題 スノー

12/11/2025, 1:49:54 PM

もう無理だって夜を、
いったい何度、
くぐればいいのだろう。

どいつもこいつも、
どこか噛み合わない歯車のように
空転している。

一部だけが巨大な圧力をかけ、
多くの者が押しつぶされていく気配を、
骨の髄で受け取っているのは
私だけなんだろうか。

夜が明けることは救いじゃない。
死ぬ気力さえ尽きたから、
ただ息だけが続いて、
気づけば朝を迎えてしまう。
それで、もう充分なんだ。

人間が聖人君子になろうなんて、
そんなものは、ただの思い上がりだ。

完全なものを求められるほど
私たちは整っていない。
不完全さのままで生き延びていい。

題 夜空を超えて

12/10/2025, 2:16:57 PM

にぁう…にぁ…
きみの鳴き声ってさ、ぬるい液体が日だまりを撫でながら流れるみたいだったよね。

小さな口から空気がゆっくり溢れて、喉の奥であたたかい水面が揺れてる感じ。
柔らかい毛の体がふわりと揺れて、息と一緒に体温が溶け出してくるみたいな波の揺れ。
子音より呼吸に近い、小さな猫の声。

あの声は、思考の翻訳を挟むものじゃなくて、“そのまんま”だった。

「ここにいるよ」
「気づいてるよ」
「今の気分はこんな感じ」
状態そのものが空気を揺らしてて、伝わろうとしなくても、同じ場所の波長を合わせに来るみたいな感じ。

だから、私もきみの前では取り繕う必要なく、“そのまんま”でいられたんだ。

きみが亡くなったとき、さよならは言わなかった。言えなかったんだよ。
だって、私にとってきみはもう、内側にあり続ける体温になってて、終わってなんかいなかったから。

胸の中で脈打ってるものに「さよなら」なんて、もうどこにもいないことにするみたいで、言えなかった。

ありがとう。今も瞼の裏には、きみと過ごした日々がある。
柔らかくてあたたかい、小さな足音や毛の匂いも、そのまま覚えてるよ。

題 ぬくもりの記憶

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