「鏡」
自分が意識的に、そして無意識のうちにしていることは、実は心を映す鏡のようなものだと思っています。
頑張って作る笑顔。なんとなく撮った空の写真。
ポジティブな口癖。ついつい聴いてしまう音楽。
思ってもいないのに言った一言。そして、書いた文章。
こういったひとつひとつの行動のどこかに、自分の心の鏡が隠れているような気がして、あとで思い返したり、見返したりするとあの時抱いていた自分の本当の気持ちに気づくこともあります。
逆に、こんな些細なことで悩んでいたのか、と思うこともありますが……。当時の自分の心の幼さに気付かされるような、少し恥ずかしくなるような、そんな気持ちになります。
さて、なぜ「心の鏡」なんていう抽象的なテーマで今日の文章を書いたかご説明します。
心というものは、丈夫で鈍感そうではありますが、知らず知らずのうちに傷ついています。今この瞬間も、心の底で悩みが揺蕩っていることでしょう。
やがて心は少しずつヒビが入り、もししっかり守られないといつしか壊れてしまいます。
心の鏡が、割れてしまいます。
そんな時は、この言葉を思い出してください。
“こなごなに砕かれた鏡の上にも 新しい景色が映される”
これは、千と千尋の神隠しのエンディング曲「いつも何度でも」の歌詞の1フレーズです。
心が壊れてしまうことを決して肯定するわけではありませんが、たとえそうなったとしても、いつか美しいものがきっと見えてくる。
砕け散ったことで、心はもう二度と元には戻らないかもしれないけれど、飛び散った先で、別の何処かにある何か新しいものを見ることが出来るようになる。
そんな気がするから、心の鏡というテーマで書いてみました。
辛いことが沢山あるこの世の中ですが、どうか希望を捨てないで、心が粉々になったとしても、ずっと大切に抱きしめていてください。
「いつまでも捨てられないもの」
もうお盆も過ぎちゃったね。
夏が来ると、どうしてもきみのことを思い出す。
夏休み中、きみは近所にあるお母さんの実家に預けられてたんだっけ。初めて会った時はうちの近くでひとりで泣いてたから、どうしたものかと思いつつ何とかきみの家を探して送り届けた。
それからというもの、夏が来る度にきみはうちにやってきて、よく遊ぶようになった。
私よりもずっとちっちゃくて、くまさんの耳付き麦わら帽子の似合う、とっても可愛い子。
きみのおかげで、夏がとっても楽しみになった。
あの年も、いつも通り夏休みを待っていた。
いつも通り夏休みは来た。でもきみは来ない。
いくら待っても待っても、きみは来なかった。
どうしたんだろう。きみに何かあったのかな。
色々と想像するだけでとても不安になった。
ある日、風の便りできみのことを聞いた。
きみのお母さんが病気で亡くなって、お父さんに引き取られたのだと。だからもうこっちにきみは来ないんだ、って。
これ以上詳しいことは知ることができなかった。
あんまり根掘り葉掘り聞くのも変な気がして。
でも。あの夏が最後になるって分かっていたら、
私のこの気持ちと、お揃いのアクセサリーも渡せたのかな。
それとも……むしろ渡せなくて正解だったのかな。
きみへの想いとこのアクセサリーは、いつまでも捨てられないものとして、今日も明日も、ずっと心に仕舞われている。
「誇らしさ」
私は小国の王女。そしてあなたは私を守る兵士。
今、私のお城は火の海の中。
私以外の家族はもう捕らえられてしまったみたい。
たくさんいた兄は寒い日の薪のように燃やされ、
ふたりの姉は綺麗な髪を頭ごと斬り落とされた。
両親も今ごろ───。
私の誇りは、この家に生まれたこと。
お父様は国民を守りながら、彼らがより豊かな暮らしを送れるよう日々努めていた。
お母様だって、この美しい国を慈しみ、文化を育てた。
お兄様もお姉様も、暖かくて優しい、紳士淑女の鑑のようなひとたちだった。
そんなこの家が、この国が、私は大好きだったのに。
お父様の政策が気に食わない、利権にしがみつく臣下達が反乱を起こして、そして今に至る。
私だってただ、この国を見守りたかっただけなのに。
「姫様!諦めないでください!」
「なぜここに?私を置いて逃げるよう言ったはずでしょう!」
「自分は仕事を放棄できません!」
「私はせめてひとりでも多く助かってほしくて言ったの!」
「分かっています。でも、ここで自分が姫様を守らなければ!」
「だってあなたは、この城を守れる、たった一人の姫様なのですから!……その人を守れないで、自分には何が守れるっていうんですか?!」
炎でだんだんこの部屋も暑くなってきた。
それ以外だけではない。
音が───武器の音が聞こえる。
あぁ、私もあなたも、もう助からない。
「姫様……もう、最後ですね。さっきは諦めるなと言ったのに、もう助かる手立てはなさそうです。」
「だから……自分の最後の気持ちを伝えてもいいですか?」
「……。」
「自分は、ずっと姫様のことが好きでした。身分もこれだけ違うのに、あなたに恋心を抱いてしまったんです。」
「どうせ助からないなら、最後くらい正直にならせてください。せめて最後までおそばで仕えさせてください!」
「……あぁ、やっと言えた。」
安堵した表情を見ているうちに、だんだん私の命を狙う者たちが近づいて、ついにはこの部屋の扉を蹴破った。
もう、駄目みたいね。
その時。勇敢なあなたは立ち向かった。
細い腕で重い剣を振り回して、彼らを薙ぎ倒す。
でも、でも。あなたはひどい傷を負った。
苦しそうに倒れるあなたの顔を見る。微かに口を動かしていたから、私は耳を澄ました。
「……姫様。僕は最後まであなたを守れた。僕にとって、愛する人を守り続けることは、これ以上なく、誇らしいことです。だからせめて、生きてください。私を忘れないでください。」
苦しそうな息をして、あなたは息絶えた。
誇らしさのために、私のために。
涙で滲んだあなたを見つめているうちに、ひとつの刃が私の背中を貫いた。
あなたの誇り高き死を、私は無駄にしてしまった。
私が最後に見たものは、あなたの青白い亡骸と、広がる赤だけだった。
「夜の海」
特に理由もなく、私は夜の海を見ている。
寄せては返す波の音に耳を澄ます。それ以外の音はしない。
向こう岸の光に目が眩んで、思わず目を瞑る。
昼間はあれだけ透き通った青だったのに、今はもう真っ黒だ。
こんな都会じゃ星が降り注ぐことも、月が海に映ることもない。
夜空も海も、全部真っ黒。
なんとか見つけられた夏の大三角に手を伸ばす。当然届かない。
向こう岸にも手を伸ばす。私の腕は届かない。
小さな星の光も、私には届かない。
なんだか、寂しいな。
何にも手に入らないみたいで、寂しい。
空も海も、私のからっぽの心を映しているみたいだ。
……でも、もっと進んだら。もっと手を伸ばしたら。
星明かりも、街の灯火も手に入るのかな?
私の心も、光で満たされるのかな?
孤独で冷たくなった足で、私は光を求めて歩き出した。
「自転車に乗って」
今年も親父の実家で盆休みだ。
残念ながらここにあるのは山と畑と田んぼぐらいで、娯楽らしいものはない。
子どもの頃こそいとこと山で遊んだり、古いゲームしたりするくらいで満足できてたけど、最近ではそのくらいじゃ楽しめない。しかも、遠いからって来なくなった親戚も少なくない。
つまり……めちゃくちゃ暇なんだ。
どうしたもんか。
思い切って山でも駆けずり回ってみるか。
いや、なんかもっとあるだろ……。
ふとリビングにいるばあちゃんの方を見ると、どうやら古い家から出てきた金庫を開けるテレビ番組を見ているようだった。
うちにはそういうのないの、と聞く前にばあちゃんが一言。
「うちにはそういうのないからね?」
そっか。
……というかそんなのがあったら多分みんながほっとかないよな。そうだよなー……。
俺の暇つぶし計画は振り出しに戻った。
やっぱり暇だなー。
この暑さにも関わらず、俺は暇すぎて庭をうろうろしてる。
どうしたもんかなー?ぶつぶつ言いながら物色中。
ふと、自転車が目についた。誰かが普段乗ってるからかそこまで状態は悪くない。隣にはデカいトラクターがある。
げっ、そうだった。どこかに出かけとかないとじいちゃんの畑仕事を手伝わなきゃならなくなるんだった!
……というわけで、俺は自転車に乗ってどこかに行くことにした。
「この自転車借りるから!」
「それじいちゃんのだよー?多分乗っていいと思うけど!」
親戚のおばちゃんの言葉を背に、自転車を漕ぎはじめる。
まだ朝だっていうのにめちゃくちゃ暑い。
でも、こういう時間にしか聞こえない鳥の声とか、ピカピカの虫なんかも見て、こいつら強えなとか考えてた。
そのうち下り坂に差し掛かる。
ぬるい風が俺の周りを吹き抜けていく。
うわー、夏だなー!
しばらくしたら隣町に出た。
少し都会だからなのか、あまりの暑さのせいなのか、もう鳥も虫もいない。
うわー、夏だな……。
俺は自転車を降りて、どこか涼めそうな場所を探した。
涼しそうなところ、アイスとか食えるところ……。
路地を見遣ると日陰で猫が溶けそうになってた。
猫ー、お前も大変そうだなー。
なんて思って見てたら怪訝そうな顔で逃げてった。
なんだよ。心配してただけなのに。
不貞腐れて適当に歩いてたらかき氷の店を見つけた。
「期間限定!レインボー白くま!」……ふーん。
「¥1,580」……見た目の割に値段は可愛くない。
まあせっかく来たからちょっとくらい贅沢してもいっか。
俺はレインボー白くまを注文した。
……美味い。けどいっきにかき込みすぎて頭痛が……。
これも夏の風物詩か。
にしても、かき氷なんか食べたの久しぶりだな。
それこそ10年は食べてない……かもしれん?
ボーッとしてから時計を見ると、夕方が近づいていることに気付いた。そろそろ戻らないと夕立ちが来るかもしれないな。
本当はもう少しだけ涼んでいたかったが、仕方がないのでかき氷屋を後にした。
今日は比較的充実した日だったな。
……お、さっきの猫じゃん。ちょっと涼しくなったけど、雨に濡れないように気をつけろよー。
それに応えるかの如く、猫はしっぽをちょいと振った。
夕方になりつつあるからか、ひぐらしの鳴き声が聞こえる。
なんだか切ない気持ちになるな。夏の終わりを感じさせられるというか……夏に思い入れなんかないはずなのに不思議だ。
上り坂の踏ん張りと下り坂の少し涼しい風を繰り返して家まで戻った。
あー、冷房のある部屋はいいな!
涼しくて楽だー!
……でもあれはあれで楽しかったな。
その夜はよく眠れたが、翌日足が筋肉痛に襲われたのは言うまでもない……。
゚*。*⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒*゚*。
……ここまで書いておいて何ですが、実は私、自転車に乗れないんですよね……。運動神経が悪悪(わるわる)すぎて……( ・᷄ὢ・᷅ )
早く自転車に乗れるようになりたーい!!!