「誇らしさ」
私は小国の王女。そしてあなたは私を守る兵士。
今、私のお城は火の海の中。
私以外の家族はもう捕らえられてしまったみたい。
たくさんいた兄は寒い日の薪のように燃やされ、
ふたりの姉は綺麗な髪を頭ごと斬り落とされた。
両親も今ごろ───。
私の誇りは、この家に生まれたこと。
お父様は国民を守りながら、彼らがより豊かな暮らしを送れるよう日々努めていた。
お母様だって、この美しい国を慈しみ、文化を育てた。
お兄様もお姉様も、暖かくて優しい、紳士淑女の鑑のようなひとたちだった。
そんなこの家が、この国が、私は大好きだったのに。
お父様の政策が気に食わない、利権にしがみつく臣下達が反乱を起こして、そして今に至る。
私だってただ、この国を見守りたかっただけなのに。
「姫様!諦めないでください!」
「なぜここに?私を置いて逃げるよう言ったはずでしょう!」
「自分は仕事を放棄できません!」
「私はせめてひとりでも多く助かってほしくて言ったの!」
「分かっています。でも、ここで自分が姫様を守らなければ!」
「だってあなたは、この城を守れる、たった一人の姫様なのですから!……その人を守れないで、自分には何が守れるっていうんですか?!」
炎でだんだんこの部屋も暑くなってきた。
それ以外だけではない。
音が───武器の音が聞こえる。
あぁ、私もあなたも、もう助からない。
「姫様……もう、最後ですね。さっきは諦めるなと言ったのに、もう助かる手立てはなさそうです。」
「だから……自分の最後の気持ちを伝えてもいいですか?」
「……。」
「自分は、ずっと姫様のことが好きでした。身分もこれだけ違うのに、あなたに恋心を抱いてしまったんです。」
「どうせ助からないなら、最後くらい正直にならせてください。せめて最後までおそばで仕えさせてください!」
「……あぁ、やっと言えた。」
安堵した表情を見ているうちに、だんだん私の命を狙う者たちが近づいて、ついにはこの部屋の扉を蹴破った。
もう、駄目みたいね。
その時。勇敢なあなたは立ち向かった。
細い腕で重い剣を振り回して、彼らを薙ぎ倒す。
でも、でも。あなたはひどい傷を負った。
苦しそうに倒れるあなたの顔を見る。微かに口を動かしていたから、私は耳を澄ました。
「……姫様。僕は最後まであなたを守れた。僕にとって、愛する人を守り続けることは、これ以上なく、誇らしいことです。だからせめて、生きてください。私を忘れないでください。」
苦しそうな息をして、あなたは息絶えた。
誇らしさのために、私のために。
涙で滲んだあなたを見つめているうちに、ひとつの刃が私の背中を貫いた。
あなたの誇り高き死を、私は無駄にしてしまった。
私が最後に見たものは、あなたの青白い亡骸と、広がる赤だけだった。
「夜の海」
特に理由もなく、私は夜の海を見ている。
寄せては返す波の音に耳を澄ます。それ以外の音はしない。
向こう岸の光に目が眩んで、思わず目を瞑る。
昼間はあれだけ透き通った青だったのに、今はもう真っ黒だ。
こんな都会じゃ星が降り注ぐことも、月が海に映ることもない。
夜空も海も、全部真っ黒。
なんとか見つけられた夏の大三角に手を伸ばす。当然届かない。
向こう岸にも手を伸ばす。私の腕は届かない。
小さな星の光も、私には届かない。
なんだか、寂しいな。
何にも手に入らないみたいで、寂しい。
空も海も、私のからっぽの心を映しているみたいだ。
……でも、もっと進んだら。もっと手を伸ばしたら。
星明かりも、街の灯火も手に入るのかな?
私の心も、光で満たされるのかな?
孤独で冷たくなった足で、私は光を求めて歩き出した。
「自転車に乗って」
今年も親父の実家で盆休みだ。
残念ながらここにあるのは山と畑と田んぼぐらいで、娯楽らしいものはない。
子どもの頃こそいとこと山で遊んだり、古いゲームしたりするくらいで満足できてたけど、最近ではそのくらいじゃ楽しめない。しかも、遠いからって来なくなった親戚も少なくない。
つまり……めちゃくちゃ暇なんだ。
どうしたもんか。
思い切って山でも駆けずり回ってみるか。
いや、なんかもっとあるだろ……。
ふとリビングにいるばあちゃんの方を見ると、どうやら古い家から出てきた金庫を開けるテレビ番組を見ているようだった。
うちにはそういうのないの、と聞く前にばあちゃんが一言。
「うちにはそういうのないからね?」
そっか。
……というかそんなのがあったら多分みんながほっとかないよな。そうだよなー……。
俺の暇つぶし計画は振り出しに戻った。
やっぱり暇だなー。
この暑さにも関わらず、俺は暇すぎて庭をうろうろしてる。
どうしたもんかなー?ぶつぶつ言いながら物色中。
ふと、自転車が目についた。誰かが普段乗ってるからかそこまで状態は悪くない。隣にはデカいトラクターがある。
げっ、そうだった。どこかに出かけとかないとじいちゃんの畑仕事を手伝わなきゃならなくなるんだった!
……というわけで、俺は自転車に乗ってどこかに行くことにした。
「この自転車借りるから!」
「それじいちゃんのだよー?多分乗っていいと思うけど!」
親戚のおばちゃんの言葉を背に、自転車を漕ぎはじめる。
まだ朝だっていうのにめちゃくちゃ暑い。
でも、こういう時間にしか聞こえない鳥の声とか、ピカピカの虫なんかも見て、こいつら強えなとか考えてた。
そのうち下り坂に差し掛かる。
ぬるい風が俺の周りを吹き抜けていく。
うわー、夏だなー!
しばらくしたら隣町に出た。
少し都会だからなのか、あまりの暑さのせいなのか、もう鳥も虫もいない。
うわー、夏だな……。
俺は自転車を降りて、どこか涼めそうな場所を探した。
涼しそうなところ、アイスとか食えるところ……。
路地を見遣ると日陰で猫が溶けそうになってた。
猫ー、お前も大変そうだなー。
なんて思って見てたら怪訝そうな顔で逃げてった。
なんだよ。心配してただけなのに。
不貞腐れて適当に歩いてたらかき氷の店を見つけた。
「期間限定!レインボー白くま!」……ふーん。
「¥1,580」……見た目の割に値段は可愛くない。
まあせっかく来たからちょっとくらい贅沢してもいっか。
俺はレインボー白くまを注文した。
……美味い。けどいっきにかき込みすぎて頭痛が……。
これも夏の風物詩か。
にしても、かき氷なんか食べたの久しぶりだな。
それこそ10年は食べてない……かもしれん?
ボーッとしてから時計を見ると、夕方が近づいていることに気付いた。そろそろ戻らないと夕立ちが来るかもしれないな。
本当はもう少しだけ涼んでいたかったが、仕方がないのでかき氷屋を後にした。
今日は比較的充実した日だったな。
……お、さっきの猫じゃん。ちょっと涼しくなったけど、雨に濡れないように気をつけろよー。
それに応えるかの如く、猫はしっぽをちょいと振った。
夕方になりつつあるからか、ひぐらしの鳴き声が聞こえる。
なんだか切ない気持ちになるな。夏の終わりを感じさせられるというか……夏に思い入れなんかないはずなのに不思議だ。
上り坂の踏ん張りと下り坂の少し涼しい風を繰り返して家まで戻った。
あー、冷房のある部屋はいいな!
涼しくて楽だー!
……でもあれはあれで楽しかったな。
その夜はよく眠れたが、翌日足が筋肉痛に襲われたのは言うまでもない……。
゚*。*⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒*゚*。
……ここまで書いておいて何ですが、実は私、自転車に乗れないんですよね……。運動神経が悪悪(わるわる)すぎて……( ・᷄ὢ・᷅ )
早く自転車に乗れるようになりたーい!!!
「心の健康」
読者の諸君!!!やあ!!!ご機嫌いかがかな???
今日はボクが心の健康について直々にお教えしちゃうよ!!!
……ん?そもそも「ボク」の事を知らないって?そりゃあそうだねえ!!!なんせボクは基本的に姿を隠しているから知らなくて当然だよ!!!
というわけで、簡単に自己紹介をしておこう!!!
ボクは公認宇宙管理士だよ!!!コードネームは「マッドサイエンティスト」っていうんだ!!!え、本名はなんていうのか、って?……それは教えられないなあ!!!
「公認宇宙管理士」って何?って顔をしているね?これについては随分と長い話をしなければ理解してもらえないだろうから、またの機会にしよう!!!
さて!!!そろそろ心の健康についてお話しをしようか!!!
近年、キミたちの国では心の健康───メンタルヘルスにまつわる話題は尽きない!!!ボクらの間でもそう変わらないのだよ!!!みんな大変な思いをしているからね!!!
メンタルヘルスに関わる資格もたくさんある!!!興味があればぜひ学ぶといいだろう!!!
これに目を通しているということはおそらく、キミも心の健康に興味があるんだね!!!色々と苦労されてきたのか、それとも周りに心配なひとがいたのだろう。
そんなキミたちに心の状態を安定させる方法をお教えしよう!!!
まずはこれ!!!「コーピング」!!!
コーピングっていうのは、不安になったり、ストレスが溜まった時の対応方法を意味する言葉だよ!!!
例えば、「好きな音楽を聴く」だったり「美味しいものを食べる」だったり……ここにいるキミたちには「文章を読む・書く」なんかをおすすめするよ!!!
実際、ミステリー小説を読むことや、自分の気持ちを言語化することにはストレスを和らげる効果があるそうだよ!!!
こういう「辛い時の対処法」をとにかくたくさん考えて書き出す!!!まずは50個書き出してみたまえ!!!ちなみに、この書き出したものは「コーピングリスト」というんだ!!!
考えているだけで楽しくなるね!!!
お次はこれ!!!「マインドフルネス」!!!
この対処法には向き不向きがあるから、自分に合っていないと思ったら無理せず止めるんだよ!!!
マインドフルネスというのは、深く座れるイスや横になれるベッドで、身体から、心から力を抜いて、とにかくボーッとする(個人の感想だよ)リラックス方法さ!!!
マインドフルネス中に不安になっても、川の流れを見つめるかの如く、深く考えずに通り過ぎていくのを横目で見るのを心掛けよう!!!ここ大事だよ!!!
最近ではマインドフルネスのアプリなんかもあるから、自分に合った取り組み方をしてくれたまえ!!!
それから……「セルフハグ」もおすすめしておくよ!!!
方法は単純明快!!!自分を抱きしめる!!!だけ!!!
愛くるしいボクを抱きしめるような気持ちで自分を抱きしめるんだ!!!え?ボクの見た目を知らない???まあいいだろう!!!とにかく可愛い子を想像したらいいのだよ!!!
ここまで色々話したものの、あくまでこれらはメンタルヘルスの改善に「役立つ」ものであって、根本から解決できるとは限らない!!!
とにかく一番大事なのは、その道のプロに頼ることだ!
カウンセリングや薬物療法などなど、心の健康を維持するのに科学的な効果のある手段は少なくないよ!
諦めないで!でも無理せずにね!
疲れた時には何もかもほっぽり出して休めばいいのさ!
いっぱい寝て食べて笑って!
……ボクはキミたちみんなが幸せに過ごせることを祈っているよ!
「麦わら帽子」「君の奏でる音楽」(8/11、8/12)
入力内容が消えてしまったのでまとめて投稿しちゃうよ!!!
我ながら何度これを繰り返しているのやら!!!
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「麦わら帽子」
これは大分前の帰宅途中に見かけた可愛らしい思い出です。
私は電車の先頭車両に乗っていました。
あと少しで降りる駅だ、なんて思いながら車内をボーっとみていたのです。
少しすると、大きな麦わら帽子をかぶった小さな男の子を二人連れたお母さんが乗り込んできました。お母さんも大変だなあなんて思いつつ見つめていると、男の子たちは運転席が気になっているようで、ガラス越しに見つめ始めます。
お兄ちゃんも弟も小さい子だったので、運転席がちゃんと見えていたのかどうかはわかりませんが、楽しそうでありつつもおとなしくてよい子たちでした。
そういえば、この駅からすぐそばにあるトンネルを通るときには、いつも運転手さんが運転席のカーテンを閉めていることを思い出しました。
今は小さい子たちが見ているみたいだけれどどうするんだろう?いつも通りカーテンを閉めるのかな?そう思って見ていると、カーテンを閉めようとしたとき、小さな男の子たちが運転席にある扉のガラスにくっついていることに気付いたようです。
恐る恐る見守っていると、その子たちが運転席を見たいことがわかったのか、運転手さんはカーテンを開けっ放しにして運転を続けていました。
その様子を見たとき、私は運転手さんの静かな優しさと子供たちの純粋に楽しむ表情がとても素敵で幸せな気分になりました。
私もその親子も同じ駅で降りて行ったのですが、そのあとすぐに見失ってしまいました。
運転手さんも、小さな兄弟も覚えているかどうかはわかりませんが、彼らにとっていい思い出になっていたらいいなぁ、なんて思いながら家に帰りました。
麦わら帽子を見ると思い出す、小さくて温かい思い出の話でした。
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「君の奏でる音楽」
時々ピアノ教室で見かける君。
全然知らないけど、ちょっと気になってた。
この子はどんな演奏をするんだろう。
僕より上手いのかな。どんな曲が好きなんだろう。
気になることはいろいろある。
ある年の夏。久しぶりにピアノの発表会が開かれることがわかった。
同じ教室に通っているから、多分あの子も参加するんだろう。
何かきっかけがあれば声をかけられるだろうか。
いや、下心なんてこれっぽっちもないつもり、だけど。
変に思われないかな?
……いや、いいか。そんなことを気にしたって仕方ない。
とにかく今はたくさん練習しないと。
そうしているうちに、もう発表会当日を迎えていた。
当日のスケジュールと曲目を見る。僕は最後の方に出番が回ってくるみたいだ。
……今更緊張してきた。
たとえ緊張したとしても、僕は僕の演奏をするだけだ。
やれることは全部やったんだから、その成果を発表するんだ。
そう思って僕は舞台に立つ。
曲はシベリウスの「樅の木」。
そびえ立つもみの木、そこから漏れる木漏れ日、静かな森。
繊細でありながらも自然の強さを僕はその曲の中で表現した。
最後の音が響いて消えて、静寂ののちに拍手が聴こえる。
きっと僕はうまく弾けた。そう信じている。
そのすぐ後、ずっと気になっていた彼女の出番が来た。
曲はグリンカ・バラキレフの「ひばり」。
春のうららかな朝の日の光を浴びながら、高らかに鳴く小鳥。
森の木の間を羽ばたくひばりが見えるような、透明感のある演奏だった。
僕は思わず息をのんだ。
同じ楽器を使っているはずなのに、どうしてこれだけの違いが出るのだろう。
彼女とは何が違うんだ?
経験?感性?それとも手の大きさ、だろうか……?
美しい演奏に圧倒されて、僕は言葉を発することさえできなかった。
呆然としていると、彼女が声をかけてきた。
「君の演奏、かっこよかったよ!」
「……あなたには及ばないですよ。」
「え~、そんなこと言わないでよ!もみの木の力強さも、優しさも感じられて、私は君のあの演奏、とっても好きだよ?」
「そう、ですか?……よかったです。」
「君、同じピアノ教室の子だよね?私のすぐ後にレッスン受けてる子。」
「あ、はい。そうですね。」
「いつもすれ違うたびに、この子はどんな演奏するんだろうな~、ってずっと気になってたんだ。そしたら、すっごいいい演奏するからなんか後悔しちゃったよ。」
「え、何でですか?」
「こっそり残ってレッスンの音聞いてればよかったなー、って。あと、もうちょっと早く声掛けとけばよかったなー、とか。」
「……そうなんですね。なんか、ありがとうございます。」
「僕も、あなたの演奏がすごく好きです。まるで本物のひばりを見ているような、春の温かさと綺麗な朝日が見えるような……。あんまり言葉にするのは得意じゃないんですが、僕はあなたの演奏にすごく惹かれました。」
「あの、僕からお願いするのも変なんですが……。これからも、あなたの演奏が聴きたいです。僕もたくさん練習するので、もっといろんな曲を聞かせてください。」
「……。ありがとう。私ね、自分の演奏にあんまり自信がなかったんだ。いつもあれもこれもダメって言われて、楽譜通りに弾かなきゃって焦って。自分らしさを出すのが怖かったんだ。」
「でも、君にこうやって褒めてもらえて、すごくうれしかった。最初は純粋に好きで始めたはずなのに、だんだん自信がなくなってきて、これを最後にもうやめようかな、って思ってたんだ。」
「だけど、私らしく弾いたっていいんだよね?」
「僕はそう思います。だって、僕はあなたの演奏が好きで……。」
「え?!!私告白されてる?!!」
「あ!!!え……そう、かもしれません……。」
「かわい~!」
「それじゃ、せっかくだから連絡先でも交換しようか!」
「え、あ、ありがとうございます?」
まさか発表会が新たな始まりを生むなんて思ってもいなかった。
……でも、君の奏でる音楽をこれからもそばで聞いていられるとしたら。
これ以上幸せなことはない。