「言葉にできない」
いつもはねぼすけのキミが、珍しく朝早くからどこかに出かけて行った。朝ごはんも食べずに。ボクには目もくれずに。……珍しいこともあるもんだ!!!
にしても、いきなりどうしたんだい?
……もしかして実はネット恋愛とかしててその相手に会いに行くとかかい?!!いやいや、キミに限ってそんなことはないだろう!!!友達に会いに行くとか、よっぽど欲しいものがあったとか……???
キミにもそういうニンゲンらしい一面があるのかなぁ、なんて思ったが!!!突然いなくなられると不安というか、とにかく言葉にできない気持ちに駆られるよ!!!
位置情報を確認したが、どうやら端末は持って行かずに外出した模様!!!ひょっとしてボクに隠し事があるのかい???……そんなに信用できないのかい、ボクのことが?!!
むーー!!!考えても仕方がない!!!
とりあえず公認宇宙管理士の認定証を再発行できるように準備でもするかな!!!えーと、何が必要だったっけ……?
お菓子をつまみつつ書類の必要項目を埋めていく。……うむ、これでよし!!!
……にしても遅いなぁ!!!どこで何してるんだよキミは!!!お菓子全部食べ終わっちゃったじゃないか!!!
「ただいまー。」
「おかえり!!!今日は随分とお楽しみだったようだね……??」
「まあ、少しは。」
……これ、あんたにお土産。急に家を空けて悪かったよ。
「……???これは!!!」
いつも同じ服ばっかり着てるからたまには他の服も着たらどうかと思って。
「へぇ……オシャレなお土産だねぇ!!!どうもありがとう!!!」
あ、あんたの性別が分からなかったから色々買ってきた。
「ボクは性別などとうに超越しているのさ!!!だから全部を着こなしてみせるよ!!!」
そう言いながら買ってきた桜色の服の数々を着回している。意外と似合うな。
なんと言うか、うまく言葉にできないけれど、とにかく嬉しい。
喜んでくれてありがとう。
「へへ!!!こっちこそ!!!」
「春爛漫」
今日はいい天気だ。暖かくなってきたから寝覚めも悪くないし、少しだけ早く起きられた。
「あ、おはよう!!!珍しいね〜!!!キミが早起きなんて!!!」
自称マッドサイエンティストは楽しそうに朝ごはんを作っている。何かいいことでもあったのか?
「今日隣町で桜祭りが開催されると聞いたよ!!!行こう!!!」
人が多いところはあまり好きじゃないから一人で行ってこいよ。
「え〜〜!!!ヤダヤダ!!!キミも一緒に行こうよ〜!!!ボクは桜餅と三色団子をたらふく食べたいんだ!!!おすすめを教えてくれたまえよ!!!ボクは花を食べるという発想そのものに興味を抱いているのさ!!!」
花より団子とはこのことか……。桜を見にいくんじゃなかったのか?
「桜を目で楽しみつつ、味も楽しむんだよ!!!五感を全力で使ってね!!!」
仕方ない。行くか。
「やったー!!!」
麗らかな春の日の下で、自分たちは花見をしに桜並木まで向かった。
「うおー!!!桜ってこんなに綺麗なんだね!!!」
「花筏ってこういうやつを言うのかい?!!」
「あ!!!屋台があるよ!!!桜餅が売られているじゃないか!!!団子もあるぞ!!!」
相変わらずやかましい。ちょっとは落ち着け。
「……にしても、人が多いね〜!!!まあこんなに綺麗な景色が、春にしか見られないっていうのもあるから妥当ではあるか!!!」
「……ぼっちはキミだけだね」
なにか言ったか?
「いや〜???ま、とにかく桜餅と三色団子の食べ比べをしたいから全種類買ってきてくれたまえ!!!ボクはここでキミの分まで桜を楽しんでおくからね!!!」
……はぁ。まあせっかく来たんだ。とりあえず餅と団子を買おうか。意外と並ぶんだな。
行列の中で、自分もゆっくり桜の木を見上げた。
満開の桜から漏れる日の光が柔らかい。
風に身を任せてひらひらと舞う花びらを目で追う。地面に落ちる。そこは花びらと小さな花で溢れていた。
これが「春爛漫」か、そう思っているうちに自分の番が来ていた。とりあえず頼まれていたものを買う。……意外といい値段だな……。
値段に驚きつつ、あいつの待つ場所へと向かった。
「おかえり〜!!!遅かったね!!!随分と並んでたのかい?!!とにかく、『例のブツ』は買えたんだろうね……?」
そんな言い回しをするなよ。……はい、これが『例のブツ』だ。
「うひょ〜!!!桜餅って本当に桜色なんだね!!!いっただっきまーす!!!おいしい!!!」
餅なんだから気をつけて食えよ。
なんて思っているうちに全部食べてしまった。おい、自分の分は……??
「あ……ごめん……せっかく並んでもらったのにね……。キミの分まで食べちゃった。にしても桜って美味しいね!!!」
満足するまで桜を見たあと、帰路についた。
途中で買いたいものがあったことを思い出したのでスーパーに寄る。
値引きされた弁当を選んでいるときにあいつが自分を呼んだ。
「おー!!!これ見て!!!『春爛まん』だって!!!中に桜餡が入っているそうだよ!!!これも買ってよ!!!」
よほど桜が気に入ったのか勝手に買い物カゴに「春爛まん」を入れる。全く……。
「今日はありがとう!!!あとでこれ、半分こしようか!!!」
半分こ、か。そんな言葉久しぶりに聞いたな。
少し懐かしい気持ちで、自分たちは家に帰った。
「誰よりも、ずっと」
「いや〜!!!昨日は大変だったね〜!!!あっ……悪いと思っていない訳じゃないよ?!!キミたち、本ッッッッ当にごめんね!!!」
自称マッドサイエンティストはいつもと変わらず呑気にしている。あまりにも呑気だからあれは夢なんじゃないかと思い始めていたが、どうやらそうではないらしい。
「キミたちには何かお詫びをしないとね……。特に今は格納中だけど、ヤツをおびき寄せるための道具としてボクが使っちゃったキミには……。」
苦虫を噛み潰したような顔で作業をしながら通信をし始める。
「おーい!!!聞こえるかい?!!昨日は本当に悪かった!!!だがキミたちのおかげで得られた成果はかなり大きいものだったよ!!!本当に感謝する!!!」
「……とはいえキミたちを酷い目に遭わせてしまったのは事実。そこでキミたちにお詫びをしようと思う。」
「まずは構造色の髪の、特殊空間に格納されしキミ!!!」
『声がデカい』
「ごめんなさい」
「キミ、その空間にずっといて不便だろう?!!だがそこから出るとかなり不安定な存在と化してしまうから留まって貰わざるを得ないんだ!!!」
「そこで!!!キミにはどこへ行っても安定して存在していられるためのいわばキミの『容れ物』を贈ろう!!!」
「まだ完成してはいないが、出来に申し分はないに違いない!!!安心したまえ!!!キミのその髪の色もちゃーんと再現するからね!!!」
『容れ物……?』
「便宜上そう呼ぶしかないんだから仕方ないだろう!!!」
『そして声がデカい』
「ごめんよ」
「……んで、危うく標本にされかけたキミには……えー……??何がいいんだろう……???」
「キミ!!!欲しいもの言って!!!ボクが用意できるものならなんだって用意するから!!!」
現金。
「え???」
非課税の。
「……おい!!!夢がなさすぎるだろう?!!!もっとこう、タイムマシーンとか、なんか欲しいもの、あるだろう?!!!ちょっと!!!ねぇ!!!!」
……。
「……分かったよ……。……んじゃボクのポケットマネーからこのくらい」
おい!!!やめろ!!!!!
この国の通貨をジンバブエドルにする気か?!!!!
もっと不自然じゃない範囲でくれ!!!
「……欲は無い癖に要望は多いな……」
「う〜む……非課税かつ不自然じゃない範囲で……??……あ、思いついたぞ!!!」
「キミ、次のジャンボ宝くじを買いたまえ!!!ちょこっと数字を弄ればキミが1等を当てることなんてお茶の子さいさいだよ!!!」
「ホントはあんまり良くない行為ではあるんだが仕方あるまい!!!……本当にほかに欲しいもの、ないの……?」
いや、特には。
「そうかい……」
あ、そういえば。
自分も、悪かったよ。
「……???」
公認宇宙管理士の認定証割って。
「あ〜!!!」
そういやこいつは、自分たちに出会うまで、どんな風に過ごしてきたんだろう?
多分、その身を、想像を絶するくらいの時を、宇宙のために捧げてきたんだろう。
「まあ基本的には単独行動が多いかな〜」
ずっと、誰よりも、ずっと孤独なままで。
「……なんだいその目は……??」
いや、自分もお詫びをしないといけないと思って。
「何かしてくれるのかい???」
そこまではまだ考えてない。
「そうだな〜……それなら!!!」
「ボクが飽きるまででいいから、側にいたまえ!!!」
「あ!!!今ちょっと面倒くさそうな顔した!!!」
そう言いつつ、あんたは嬉しそうに笑った。
「これからも、ずっと」
私はとても孤独だった。
私はとても寂しかった。
そんな時、あなたに出会った。
そしてあなたは「また会える日まで待ってて」そう言ったの。
だから私は待っていた。
でもあなたは来なかった。
ずっと待っていたのに、待っていたのに。
だから私は決めたのです。
「あなた」と私が暮らすための、愛と平和で溢れた世界を作ることを。
でも私は「あなた」を置いて世界から逃げてしまった。
「あなた」を危険な目に晒してしまった。
ごめんなさい。
でも、もう大丈夫。
もう「あなた」をひとりにはしない。
これからも、ずっと───
──────────────────────────────────
今日は自称マッドサイエンティストがいつにも増してやかましい。
「おい!!!非常事態だぞ!!!ヤツが例のお人形遊び用の空間に現れた可能性が非常に高い!!!ほら!!!キミも!!!急ごう!!!」
この宇宙を吸収する未知の存在とやらが作ったその空間は、マッドサイエンティストさんによって侵入も認識もできなくされたはずだ。だがどうやってこんなことを……?
そうだ、未知の存在が執着する彼は連れていくのか?
「勿論だとも!!!人手は多ければ多い方がいいからね!!!」
そういう問題なのか……?
とにかく自分たちはその空間へと向かった。
「やあ!!!構造色の髪のキミ!!!聞こえるかい?!!急に悪いね!!!緊急事態だ!!!例の空間に集合するぞ!!!」
そんな大声出したら音割れするだろ……。
いや、突っ込んでいる場合じゃない。
自分も気を引き締めないと。
「何が起こるかわからない!!!だから今回は重装備にするよ!!!」
一度「ほぼ全てのデータを削除済み」の世界に飛び込む。
明るいのか暗いのか、寒いのか暑いのかわからない。
立っているのか、浮かんでいるのか、沈んでいるのか、それすらも。
「とりあえずここをキミたちに適した環境に設定するよ!!!だがヤツがどこに潜んでいるかすぐに分かるとは限らない!!!」
そう言いつつ、この空間そよ風の吹く暖かい草原へと変化させた。さすがマッドサイエンティストなだけある。
「だが朗報だ!!!この空間は想定よりも広くない!!!だから手分けして辺りを探ろう!!!次はヤツの居場所に集合だ!!!」
「あ、そうそう!!!何かあったときに備えて通話は切らないでくれたまえ!!!くれぐれも危険な真似はしないこと!!!いいかい?!!それじゃあ!!!」
「わかった」
了解。
自分たちはこの空間内を探索した。
しかし、辺りには草原が広がっているだけで何もない。
「そっちはどうだい?!!」
「めぼしいものはないようだ」
こちらも異常なし。
「そうか……。他に何か……あ」
「どうした?」
何があった……?
「スノードロップの花が」
「……花?」
ここまで花なんか見なかった。
もしかすると、何かの手がかりになるかもしれない。
「うわああああ!!!やめろ!!!やめるんだ!!!!」
「どうした?!」
おい、返事をしろ!!
──────────────────────────────────
ようやく再会できた。
この時を、ずっと待っていたの。
まさかこんな簡単に取り戻せるなんて思いもしなかった。
彼にもあんな隙があるなんて……。
私はとても幸せよ。本物のあなたに会えて。
──────────────────────────────────
「……ふふふ……ふふふふふ。
ははは!ハハハハハ!!!」
あいつが笑い始めた瞬間、メッセージが届いた。
“ランダム 意思 舞台 感覚 出会い 書物 居間 程度 緯度 流浪 華麗 来世 時間 系統 列島 概念 薔薇 場合 来週 で 語彙 免税 那由多 猿 意図 ! オットマン 欲望 駒 礼儀 日常 記事 づ 板 眠り ! 工事 連絡 晴れ 所謂 隠れん坊 始末 メッセージ 戸 異化 迂闊 奴 大学 黄泉 ! キミ 模試 歌詞 盥 探偵 脳 サイエンティスト 能力 画像 青葉 ルアー 鴨 眠り ! ”
「……?!」
なんなんだこれは……?
「何もわからない……どうすれば……?」
何かできることはないか、自分は渡された端末をいじってみた。
わからない……わからない……どうすれば……?
「位置情報だ!!」
そうか、位置情報を見れば居場所がわかるはずだ───
「……残念!!!引っかかったね〜!!!」
「お人形遊び用とはいえ、ボクがこんな貴重な空間のデータを本当に削除するとでも……?!」
「浅はか!!!余りにも考えが浅はかだよ!!!
そんなはずがなかろうよ!!!」
「ボクは“彼女”と手を組んでこの空間を共同管理しているんだ!!!」
「ホントは“彼女”のことなんかどーだっていいけど!!!どうしても構造色の髪の彼が欲しいって言うから仕方な〜く捕まえたんだよ。そしたらそっちのキミもおまけで付いてきた、ってわけだ!!!」
「ボクは宇宙を管理などしていない!!!ただ宇宙にいるだけの“マッド・サイエンティスト”!!!得たいものがあれば手段など選ばない!!!」
「おい、何を───」
……そうか、そうか。
「キミたちには悪いが、この空間ごと───」
「模型になってもらおうか!!!」
「それじゃあ、せめてもの弔いとして、綺麗に標本にしてあげよう。今までどうも、世話になったね。」
「……よくもぼくらを騙したな!!」
馬鹿だった。こんな話に騙される方がどうかしている。
前ここに来た時見た街並みがどんどん戻っていく。
「フフフ……さぁて問題です!!!」
「このスノードロップの花を引っこ抜いたら」
「何が起こるでしょう?!!」
「まあ、キミらはせいぜいそこで見ているがいい」
「くそっ……くそっ……!!」
終わった。もうどうにもならない。
多幸感と絶望感が入り混じる。
自分は、ぼくは、世界の一部と───
「えーい!!!つーかまーえた!!!!!……あ」
「……ケッ、逃げられたか!!!だが正体はほぼ掴めたぞ!!!」
「ほらほら、キミらも見たまえ!!!このスノードロップ!!!花言葉はご存じかい?!!お手元の端末で調べてみたまえ!!!少なくとも味方に贈るような代物じゃあないよ!!!」
「……つまり、どういうことだ……?」
何が言いたい?
「ボクは今までもこれからも、キミたちの味方だ……ってことさ!!!」
「何を今さら!」
別にもうどうだっていい。
「悪かったよ、悪かったって!!!ほら!!!この通りだ!!!だがキミたちのおかげで原因を特定できそうだ!!!」
「ボクはちゃんと公認宇宙管理士なんだって!!!ほら!!!これ認定証!!!ホンモノだぞ?!!」
バキーーン!!!
「おい今何をした?!!!認定証を真っ二つに?!!!正気か?!!!再発行の手続き面倒くさいからイヤなんだよーー!!!!」
「もう何も言うまい」
知るか!!!
「ちょっ、やめ、暴力はいけないよ!!!説明する、時間を、くれ、たまえ!!!」
「……落ち着いたかい……?これには深〜い訳がある!!!」
「構造色のキミには少々申し訳ないが、キミを使ってヤツをおびき寄せたのは事実……。その点については謝ろう。本当に申し訳なかった。」
「この空間に、キミに異常に執着しているアイツは必ずここに戻ってくるに違いないと踏んでいたから、ボクは敢えて一ヶ所脆弱なセキュリティポイントを作った!!!」
「本来ならここはボクら以外から認識できないはずだが、彼女の一部がこの空間に残っていたから、完全に切り離すことはできなかったようだ。だからまた現れた!!!これも計画通り!!!」
「ついでに、ヤツにこの計画がバレると厄介だから、したくないのは山々ながらキミたちを騙すことにした!!!ボクの迫真の演技、ちゃーんと見てくれたかい?!!」
「まあその甲斐あって、重要なデータをヤツから抜き取れたうえに!!!容易に位置を追跡できるようにもできたよ!!!本当だって!!!ホントだってば!!!」
「しかし……キミたちも見たまえ!!!これが『未知の存在』の正体だ……!!!」
自分たちは端末に映されたデータを見た。
「これ……分かるかい……??彼女、動いているのすら奇跡だよ……。詳しいことは後で解析するが、キミたちに伝わるように言うとすれば『1万年前の車が現役で、しかもメンテナンスなしで動いている』状態……かな?」
「そしてそんな状態の車が膨大なエネルギー、つまり燃料を抱えている。考えてもみたまえ。キミたちならどうなると思う?」
「いつ壊れるか分からない機械と」
膨大なエネルギー。
「そうだ。……答えは単純明快!!!宇宙規模の大爆発が起きる!!!しかも近いうちに、ね!!!」
「分かるかい?!!!めちゃくちゃ危険なんだよ!!!だからますますヤツを確保しないといけない!!!」
「分かったかい……?このタイミングで話をしても信じてもらえないかもしれないが……この通りだ!!!ボクを助けてくれたまえ〜!!!」
頭を地べたに擦り付けん勢いで頭を下げている。
「……。」
はぁ……。
「……どう、でしょうか……??」
「それなら」
この話が本当なら。
「分かった」
もう一度、信じてみよう。
「ああああありがとうございます〜!!!本当〜にごめんね〜!!!」
泣きそうな顔でいつものやかましさを取り戻した。
全く……。
「……それはそうと」
まだ何かあるのか?
「キミ、公認宇宙管理士の認定証を壊したね……??」
「いくらで再発行出来るかご存じかい……?また、認定証の破損は重罪だぞ……?これでキミの寿命があと100万年伸びても知らないよ……?」
必要経費だろ。
それに、あんな振る舞いをしたあと混乱せずにはいられない。
「ホントにゴメンって!!!」
でも、
「でも、」
あんたが自分たちを信頼してくれていたから、あんなことができたんだよな。
「あーー!!!お腹空いたよーー!!!ご飯食べに帰るぞー!!!」
「全く、呑気なもんだ」
完全に同意だ。
「とにかく!!!一難は去ったね!!!」
それはそうと、そこの君、ここまでよく読んだね!!!
書き手もやりがいを感じているに違いないだろう!!!
代わりにお礼を言っておくよ、どうもありがとう!!!
実はこの文章には隠しているものがあるんだ。
もしお時間があれば、見つけてくれたまえ!!!
「沈む夕日」
生まれ育った街のはずれにあるこの丘で、何度見たことだろう。
家族と、友達と、そして君と。
美しく沈む夕日を。
「明日は晴れそうだなぁ」って父さんは言ってたっけ。
あいつは「またここで遊ぼう」って。
君は「目玉焼きの黄身みたいでおいしそう」なんて言って。
ここでたくさん笑って、たくさんいい思い出ができた。
なのに、なのに。
壊された。故郷が、思い出が、家族が、友達が、君が。
壊されたんだ。
なんでもこの辺り一帯には、兵器を開発するのに役立つ鉱物が大量に眠っているらしい。
だからここが戦場になるかもなんていう噂があった。
でも僕は、みんなはそんなはずないだろう。そう思っていつもと変わらない日常を過ごしていたんだ。
だからみんな逃げ遅れた。
突如としてどこかの国の軍隊がこの街に侵略して、街を焼き滅ぼした。
この街は、住民たちのために綺麗に整備されていた。
それが仇となりあっという間にこの街は火の海と化したんだ。
僕の家も、大好きな街並みも、時計台も。
全部ぜんぶ。
灰になった。
生きている住民は、たまたまこの丘に来ていた僕だけになってしまった。
僕はただ、焼けた街と沈む夕日を見つめることしかできなかった。己の無力さを呪うことしかできなかった。
僕は絶対、絶対に許さない。
沈む夕日の色は絶望の色。
そして決意の色。
僕は一番星に誓った。
この街を滅ぼした奴らに、必ず復讐すると。