「君の目を見つめると」
突然現れた自称マッドサイエンティスト。
やかましくてちょこまか動くミントグリーンの髪。
ぶかぶかの白衣みたいな服を羽織って、今日も何かを観測中だ。
宇宙を救うべく立ち上がったボクは!!!
地味〜なこのひととともに未知の存在に立ち向かっている!!!
今日は晴れていて清々しい。
研究熱心なあんたの目を見つめると、星を宿したかのように輝く目を見つめると、深い群青色で綺麗だった。
モニターを見つめるその目は、どうやら可視光スペクトルとやらの数値をランダムに映しているらしく、見るたびに色が変わる。
まるで万華鏡みたいだ。
今日は晴れて散歩日和だが!!!貴重なデータの取得を見逃すわけにはいかないから!!!仕方なくボクはモニターを見つめる!!!
とはいえずっとモニターを見ていても今日はあまり面白いデータが取れる気配がない!!!まあ、退屈そうなキミの目でも見てみるか。
いつもなんだか気だるげでチョーカガクテキソンザイのボクが心配になってしまうくらいだった。なんというか、正気がないというべきか。
だが!!!キミはボクと過ごしていくうちに少しずつその目に光を取り戻してきた!!!キミの目を見つめると、今は黒い真珠くらいには明るくなったかな??
「何見てるんだ……?」
「そっちこそ、何見てるんだい?!!」
いや、不思議な色だと思って……。
「キミの目に光を宿せてちょ〜っぴり誇らしくてね!!!」
そうか。
「なるほどね〜!!!」
それならよかった。
「それならよかったよ!!!」
「ボク達、気が合うみたいだね!!!今後ともよろしく頼むよ!!!」
今後ともよろしく……か。やれやれ。
「まあいい!!!さて、そろそろおやつの時間だよ!!!それじゃあ!!!今日はショートケーキを食べようか!!!晴れているから、ちょっと出かけるのにもいいだろう?!!」
そうだな。ちょうど甘いものが食べたいと思っていたからケーキ屋に行くか。
そう言って早速あんたは自分の腕を引っ張って、まっすぐ外へと向かった。
「星空の下で」
ぼくは孤独な彼岸で、此岸のことを観測していた。
そんなある日。太陽と月が降ったある日。
ぼくはきみと出会った。
まさかこの世界で誰かと出会えるとは思っていなかったから、ぼくはあまりうまく話はできなかった。
でもまたいつか、いつか会えたらと思ってぼくは
「また会える日まで待ってて」
そう伝えた。
その瞬間、強い風が吹いて、気がつけば
きみはいなくなっていた。
だが、きみと出会ってから、観測用装置に異常な値が検出されるようになった。
-6366799 -3699 -14400 -38480 -5473
マイナスを表す数値ばかり表示される。
此岸で観測出来る存在が減り続けている、ということだ。
そして「Xjlro」という謎の文字列。
何が起こっているんだ。
きみは何者なんだ。
ぼくは彼岸で此岸を観測することしかできないから、
きみを止めることはできない。
いつかぼくもこの世界ごときみに消されるのか?
星空の下で、星が減りゆく空の下で、
ぼくはただ、此岸の破滅を見ていることしかできなかった。
そんなある日、ぼくはひとつだけこの装置から「IFO-712」という場所にメッセージを送れることに気づいた。
一縷の望みを懸けて、ただ「Help」とだけ入力した。
そうしたらなんとぼくを助けてくれるという内容の返事が来た。
ぼくは安心して、久しぶりの眠りについた。
「……おい!おいキミ!!!」
気がつくとぼくはミントグリーンの小さい人に揺り起こされていた。
「びっっくりしたよ〜!!!まさかこの空間から生体反応どころか、メッセージが!来るだなんて思ってもいなかったからね!!!」
「それはそうと……まあ詳しい話はあとにして、一旦ここから安全な場所に移動しようか!!!」
そうしてぼくはその人と共に誰かが暮らす部屋に来た。
「ただいま〜!!!」
「……お邪魔します……?」
「お〜い!!!キミ!!!ちょっとこっちへ来たまえ!!!」
そう言ってその人は誰かを呼び出した。
「あ、そうそう。いちおうキミにもこいつをつけておくよ!」
そう言いつつぼくの着ている服にピンバッジのような何かをつけた。
あぁ、おかえり。……その人が例の「特殊空間」にいた人か?
……どうも、狭い部屋ですがゆっくりお過ごしください。
この部屋の家主と思われる人の声が聞こえた。
だが実際に話をしているわけではないらしい。
「そうだよ!!!ってキミは彼も見えるのかい??!さすがだね〜!!!」
「あ、この人はマッドサイエンティストのボクの助手さ!!!キミも仲良くしたまえ……と思ったんだがキミは少し存在が不安定なようだ……。安定した空間を提供できるようになるまで、ここで過ごすといい!!!」
「あ、そうそう!!!さっきつけたそれ、助手の心の声が聞こえるようにする小型ながら高性能なボクの発明品なのさ!!!流石ボクだね!!!」
「では、そろそろ昼ごはんの時間だよ!!!何か食べたいものがあれば言ってくれたまえ!!!」
とにかく、ぼくは孤独なあの世界から救われたんだ。
それだけでとても安心して、気がつくとまた眠りに落ちていた。
「それでいい」
今日は休日。自称マッドサイエンティスト特製の昼飯「親子丼の唐揚げ」を食べたせいか眠い。久しぶりに昼寝でもするかな。
ベッドの上でボーっとしていると、突然あいつが部屋に飛び込んできた。
「おい!!!キミ!!!あ、昼寝中悪いね!!!」
「第217宇宙……えーっとこの星が本来存在しているべき宇宙、とでもいうべきかな!!!とにかく貴重なデータを取得できたぞ!!!昼寝なんかしている場合じゃない!!!」
突然驚かすな!心臓に悪すぎる!
「この宇宙を吸収する未知の存在、ヤツの目的がわかったかもしれん!!!」
よりにもよってこんな眠い時に……。
まあいい。とにかく話を聞こう。
「こほん。では改めて!!!今回取得できたのはヤツの『感情』に関するデータだ!!!これ、キミに見せても分からんだろうが、いちおうキミの国の言葉に翻訳しておいたよ!!!」
「取れたデータをキミにでも分かるように図式化したが、どう思う?」
愛、そして少しの悲しみと怒り。
「ほぼ純度100%の『愛』でできている。そうだろう?」
「この宇宙は少なくとも712兆年くらいの間、ボク以外管理していない。だからこの宇宙を相当愛している、なんてことはおそらくありえないだろう!!!しかも、吸収されるようになったのは最近になってからだ!!!」
「ということは、なんらかの方法でヤツはこの宇宙に侵入し、そこで何かを見つけたんだろう!!!そしてその存在に対して『愛』を抱いた!!!」
「だが、なんらかの理由でそれを失った!!!というわけで宇宙ごと吸収してしまおうと考えた!!!んじゃなかろうか?!!」
規模が大きすぎて理解が追いつかない。
だが、宇宙ごと吸収するなんて正気の沙汰ではない。
その感情は「愛」と呼ぶべきものなのか?
そんな自分勝手な感情。
ひとびとはそれを「執着」と呼ぶ。
「なるほど、執着か……。」
「理解が追いつかないと思いながらも真剣に考えてくれてボクは嬉しいよ!!!消極的だったキミも悪かないがそういうキミもいいね!!!ボクはそれでいいと思うよ!!!いや、正しくは『それがいい』だね!!!」
それがいい、か。
「ほら!!!もっと読み解けるものがないか、ボクと考えよう……おっと!!!もうこんな時間だぞ!!!今日のディナーは何にしようか?!!」
そうだな……。この前食べたコーンスープ鍋でいいか。
「おいおい!!!そこは『コーンスープ鍋がいい』と言いたまえよ!!!ほら、鍋を用意するんだ!!!」
はいはい。
今日も美味いものが食べられそうで嬉しい。
「そうかい!!!喜んでもらえて何よりだよ!!!」
「1つだけ」
(2/14「バレンタイン」の外伝的な読み物です。それにしてもまあ随分と前のネタを引っ張り出してきたこと……。)
ここは模型の国。ボトルシップから絶滅した小鳥の剥製まで、ありとあらゆる模型で飾られた国。
私はこの国の王女。私の肉体はいつかの王国で作られた人形。
どこかからやってくる標本を管理したり、王宮に仕える民に仕事を与えたりと毎日とても忙しい暮らしを送っている。
そんなある日、私に縁談が舞い降りてきた。
お相手は猫の国の王子。
銀色の毛に金色の瞳。とても美しい。
ひっそりと思いを寄せたあの方が私の結婚相手。
その上この国初の国際結婚。二つの国にとって喜ばしいこと。
これでこの国での仕事を真っ当に終えられる。
そして、新しい国で胸を張って生きられる。
そう思っていた。
しかし猫の国の王子の噂を偶然耳にしてしまった。
どうやら彼はお菓子の国の姫にお熱なのだという。
彼女は自分の国に貢献するどころか、欲しいものはなんの努力もせずに手に入れようとする体たらく。
我儘放題でお姫様らしいお姫様。
私よりもそんな人が魅力的に見えるのだと思うと不条理だ。
確かに飴細工のお姫様よりも見た目も中身も地味なのは認める。
それでも納得いかない。
素敵な王子様を、私のもとに。
そう決意したので、私は考えた。
なんとかして、彼のそばにいられるように。
そしてあるひとつの案が浮かんだ。
彼の国のお姫様は季節ごとに沢山の菓子を贈っていると聞いた。
となると、おそらくバレンタインデーには豪勢なチョコレートを贈ろうとするに違いない。
ほとんどの人は猫にとってチョコレートは毒だと知っている。
しかしおそらくあの愚かしい姫はそんなことを知りもしない。
それなら。そうだったら。
私はその時を待った。
この時を、待っていた。
予想通り、バレンタインデーの少し前に猫の国から依頼を受けた。
国王と王妃の愛を模った模型を作って欲しいという依頼が。
依頼はともかく、猫の国の遣いに囁いた。
「王子様は少し体調を悪くされているそうね。」
「チョコレートは、そのご病気によく効くらしいわ。」
私が私のために吐いた、ただ1つだけの嘘。
バレンタインデーの後、私の予想通りあなたは天へと旅立った。
猫の国の王家の者は、死後剥製にされるしきたりがある。
そしてそれは、この模型の国で保管される。
全て私の計画通り。
これで私は、永遠に美しいままのあなたと一緒にいられるの。
「大切なもの」
今日も朝8時に目を覚ます。体は動くが頭はまだ目を覚まさない。寝ぼけたまま自称マッドサイエンティストに朝の挨拶をする。
「おはよう!!!相変わらずキミは寝起きが悪いね〜!!!ほら、朝ごはんだよ!!!今日は特別サービスでベーコンとレタスとトマトを入れてみたのさ!!!これは美味いに違いない!!!」
それはBLTといってサンドイッチの組み合わせとしては定番だ。
「そうなのかい?!!にしてもさすがボクだね!!!この星のデータをまだ十分精査しきれていないというのにこの組み合わせを思いつくなんて!!!」
「BLT…… Bacon Lettuce Tomato か……!なるほどなるほど!」
自分はそいつ特製のサンドイッチを頬張った。
定番なだけあってうまい。
「あ!!!見たまえよ!!!桜がそろそろこのあたりでも満開なんだって!!!キミも花見に行かないかい?!!いや、行くぞ!!!ボクも四季とJapanese Wabi-Sabi の精神を感じたいのさ!!!」
人が多いから遠慮する。ごった返す場所に侘び寂びなんてあったもんじゃないだろ。
「まあ人が多いのは仕方ないだろう!!!だが!!!ワビサビがなくたってワイワイ楽しむのもいいじゃないか!!!それに、桜は散り際だって美しい!!!」
「ほら、兼好法師だって『花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは』と言っているだろう?!!満開じゃなくたっていい!!!ボクはキミと花見に行きたいんだ!!!」
……。
「ボクは心配だよ。チョーカガクテキソンザイがいうことじゃあないだろうが、キミは何か、ニンゲンとして大切なものが抜け落ちているような、そんな気がするんだ。」
「今は多様性の時代だから、あれこれ言うべきではないのはわかっているよ?それでも、やっぱりキミには伝えておいたほうがいいと思ってね。」
「キミはもっと自分自身を、自分の心を大切にしたまえ。キミと過ごしていて思ったが、キミはボクよりも感情の起伏がなさすぎる!それになんだか、そんな歳でもないのにくたびれた雰囲気があるんだよ……。」
「まあとにかく、まずは形から入りたまえ!!!
ほら、ボクのマネをするんだ!!!キミの笑顔を見せる時が来たぞ!!!」
……こうか?
「そうそう!!!その調子だ!!!」
「次は笑ってみたまえ!!!
ハーッハッハッハ!!!」
はーっはっはっは……
「そうそう!!!キミが幸せになるには、未知の存在を調査するためには、まず形からだ!!!いいかい??これを毎日続けたまえよ!!!」
……正直ちょっと面倒だ。
でも、自分のためにも、あんたのためにも、宇宙のためにも。
やれることはやろうかな。