「1つだけ」
(2/14「バレンタイン」の外伝的な読み物です。それにしてもまあ随分と前のネタを引っ張り出してきたこと……。)
ここは模型の国。ボトルシップから絶滅した小鳥の剥製まで、ありとあらゆる模型で飾られた国。
私はこの国の王女。私の肉体はいつかの王国で作られた人形。
どこかからやってくる標本を管理したり、王宮に仕える民に仕事を与えたりと毎日とても忙しい暮らしを送っている。
そんなある日、私に縁談が舞い降りてきた。
お相手は猫の国の王子。
銀色の毛に金色の瞳。とても美しい。
ひっそりと思いを寄せたあの方が私の結婚相手。
その上この国初の国際結婚。二つの国にとって喜ばしいこと。
これでこの国での仕事を真っ当に終えられる。
そして、新しい国で胸を張って生きられる。
そう思っていた。
しかし猫の国の王子の噂を偶然耳にしてしまった。
どうやら彼はお菓子の国の姫にお熱なのだという。
彼女は自分の国に貢献するどころか、欲しいものはなんの努力もせずに手に入れようとする体たらく。
我儘放題でお姫様らしいお姫様。
私よりもそんな人が魅力的に見えるのだと思うと不条理だ。
確かに飴細工のお姫様よりも見た目も中身も地味なのは認める。
それでも納得いかない。
素敵な王子様を、私のもとに。
そう決意したので、私は考えた。
なんとかして、彼のそばにいられるように。
そしてあるひとつの案が浮かんだ。
彼の国のお姫様は季節ごとに沢山の菓子を贈っていると聞いた。
となると、おそらくバレンタインデーには豪勢なチョコレートを贈ろうとするに違いない。
ほとんどの人は猫にとってチョコレートは毒だと知っている。
しかしおそらくあの愚かしい姫はそんなことを知りもしない。
それなら。そうだったら。
私はその時を待った。
この時を、待っていた。
予想通り、バレンタインデーの少し前に猫の国から依頼を受けた。
国王と王妃の愛を模った模型を作って欲しいという依頼が。
依頼はともかく、猫の国の遣いに囁いた。
「王子様は少し体調を悪くされているそうね。」
「チョコレートは、そのご病気によく効くらしいわ。」
私が私のために吐いた、ただ1つだけの嘘。
バレンタインデーの後、私の予想通りあなたは天へと旅立った。
猫の国の王家の者は、死後剥製にされるしきたりがある。
そしてそれは、この模型の国で保管される。
全て私の計画通り。
これで私は、永遠に美しいままのあなたと一緒にいられるの。
4/4/2024, 10:06:37 AM