「今日にさよなら」
今日はxxxx年xx月xx日。何でもない、いたって普通の日だ。
自分の名前は〇〇〇〇。いたって普通の人間だ。
普通の星で、普通に生きて死んでいく。
そのつもりだったのだが、夕食にカップ麺を食べている時
いきなり変なヤツが現れた。
ミントグリーンの髪の毛の、やたらと目がキラキラした子供?
は??と思っている間もなくソイツは話し出した。
「今日、この星は未知の存在によって吸収されて消滅するんだ!!!だからとりあえず近くにいたキミにそれをどうにかしてもらおうと思って!!!」
うるさい!声がデカい!近所迷惑だろ!!
あと意味がわからん!分かってるんだったら自分でやれよ!!
「大丈夫!!!キミ以外にはボクの存在を認知できないから、声も聞こえないのさ!!!それとキミも心の声がデカいね!!」
こいつ、心が読めるのか……迂闊に変な事考えられないな。
「だからボクとはテレパシーで話そうね!!!」
仕方がないのでとりあえず話を聞くことにした。
なんでも、宇宙にいるらしい「未知の存在」とやらが有象無象を吸い込みまくって宇宙の質量が半分以下まで減っているらしい。そしてそいつが間もなく天の川銀河の近くに来るからそれを「どうにか」しなければならない、自分が。
方法はあるのか?
「ひとつだけあるんだ!!!ボクが作った宇宙のバックアップへこの銀河と周辺一帯を転送すればいいのさ!!!だが実行するには『それぞれの銀河にいる波長の合った知的生物とコミュニケーションをとって承認を得る』必要があってね!!!最後にギリギリキミを見つけたわけだ!!!」
「急を要するからとりあえずこことここに拇印を押してくれたまえ!!!」
拇印じゃないとだめなのか……。
正直色々と疑問は残るが、よりにもよってコイツと波長の合う人類が自分だったんだから仕方がない。
「ありがとう!!!助かった!!!」
「あとついでに頼みたいことがある!!!ボクと一緒にヤツの正体を突き止めてくれ!!!いや、もうそれは決定事項なんだ!!!」
「ほら、よく見ろ?キミは既にここに拇印を押しているだろう……?」
急を要するとか言って相手を無理矢理動かすのって、まるで詐欺の常套手段じゃないか!!いや……よく読まずに拇印を押した自分が言えた文句じゃないな……。
「ふふん。キミ、そんなんじゃあ知らないうちに誰かの連帯保証人になっちゃうねぇ。気をつけなよ!まあとにかくありがとう!!!」
とにかく、そういうことらしい。
胡散臭いこと極まりないが、当面はコイツと付き合わなくちゃならない。
……で、どうしたらその「未知の存在」の正体を突き止められるんだ?
「ちゃーんと手段は用意してあるよ!!!なんてったって、ボクはマッドサイエンティストの端くれだからね!!!」
「ちょっと前まではむかーしむかしに作った観測装置を使って原因を色々と探っていたのだが、何かしら強すぎる力を持ったナニカが存在するってことが分かった瞬間にブッ壊れたんだよ。だから仕方な〜く宇宙ド素人のキミに協力してもらいつつ、この宇宙を別の場所からでも見たり質量が測れたりするように特殊改造を施した望遠鏡を使って、何か変な事がないか確かめるのさ!!!」
「まあとにかく今は危険な状態だから、早速この銀河ごとバックアップの宇宙に転送するよ〜!!!それじゃあ行きますか⸜!!!」
その瞬間───辺りがものすごい光に包まれた……りはせず、特に何も起こらなかったが、
「はーーーーい!!!!転送完了ーーーー!!!!」
というどでかい声が響いて無事に転送が終わったことがわかった。もう終わったのかよ。
「いやぁ、銀河系をまるまる移動させるもんだから0.00002秒ほどかかってしまったが、ちゃ〜んと終わったよ!!!ほら、みんな無事だろう?せっかくだから冥王星も忘れず連れてきていることを確認したまえよ!!!」
「それじゃあ、研究を始めようじゃあないか!!!」
あぁ、わかったよ。
こうして、自分たちはかつての宇宙と、今日という日にさよならを告げたのであった……。
この「設定」をボクらに割り振った「何者か」の気が向いたら、もしくは何か思いついたら、この話の続きがある……かもしれないね。
「お気に入り」
お気に入りのものは沢山あって
自分では全部の存在を把握しているつもりだった
久しぶりに棚を覗いたときに気付いた
ずっと前にもらったクリスマスプレゼント
初めて自分で選んだワンピース
あの子と話を合わせるために買った小説
忙しさで自分の大切なお気に入りをすっかり忘れていたことに
忘れられたお気に入り達を眺めていると
いろんなことを思い出した
当時の自分が感じた言葉にできない気持ち
その時よく聴いていた音楽
無理矢理背伸びした価値観
いい思い出も あまり思い出したくないことも
お気に入りのものと一緒に
ゆっくりと 鮮やかなまま セピア色に染まる
そしてまいにち少しずつ お気に入りを増やして
きっといい思い出になると思いながら
少しずつ忘れていく
+゚*。:゚+.゚*。:゚+.゚*。:゚+.゚*。:゚+.゚*。:゚+
そういえばここに来てから
色んな書き物をお気に入りに登録した
おんなじテーマでも 書く人によって内容が全然違うから面白い
それから 自分の書いたものが
たくさんの方に「お気に入り」として登録され
そして新しいものを「読みたい!」と思って貰えることは
とてもうれしいことだとわかった
あんまり実生活が充実していないので
プラスの評価をひとつ貰えるだけでも素晴らしいのに
これからも読みたいと思って貰えるなんてことは
すごくすごく嬉しい これがやりがいと呼ばれるものなのだろう
これからも色んなことを書いてみよう そう思って
今日もこのお気に入りの場所を後にする
「誰よりも」
(以前に投稿した「待ってて」と対にしても読める読み物です)
あれはいつだっただろうか
ぼくは彼岸に生まれ落ちた
ここまでどうやって来たかは忘れてしまった
風がぼくを運んだのか
大地のうねりに呑まれたのか
降って来た星に連れ去られたのか
それとも自ら選んで来たのか
とにかく何もかも忘れてしまった
ここはなにもない世界
ひとしきり辺りを探したが
どうやらぼく以外の人間はいないようだ
彼岸の世界は一人に一人ずつあるらしい
流石にこんな世界で暇を潰すのは難しいが
だからと言って何もしないのも手持ち無沙汰なので
とりあえずこの誰よりも孤独な世界を観測することにした
しばらくしてあることに気づいた
ぼくは今日まで全く空腹も疲労も感じていない
まるであれだな 5億年ボタンの世界だな
かなり歩いたところに
壊れているってことしかわからない機械があった
それ以外には何もなかったので
まずはその機械を修理することにした
どのくらい経っただろうか
その機械はなんとか動くようになった
そして何か文字を映し出すようになった
しかしぼくにはわからない
-185607 2765894 2753 -1576
qex jf x' zlfjebxa xfo al pelk
83509 -17709 -198780 2676678
これは何を表す数字と文字の列なんだ?
こいつについても調べなくては
文字列の意味を理解すべく
ぼくは他にも観測できるものがないか考え続けた
そして目印をつけながら歩き続けた
どのくらい経っただろうか
ぼくはこの世界で観測できるものがある程度把握できた
重力 物質の量 星の流れ そして 此岸の因果
ランダムな数値と
思い出したかのように来るメッセージのような文字列
また まるで何かを掻き消すような数値もある
もしかしたら非科学的なものが存在するのだろうか
いや そもそもぼくの存在自体非科学的なのだから
きっと他にもそういうのがいるんだろう
もしぼく以外のそういう存在同士が
何かのきっかけでコミュニケーションを図れるのなら
多少の暇つぶしにもなるだろう
あまり期待はせず ぼくはその時を待った
あれは太陽と満月が降り注いだ日の夜
世界から忘れられた木の下で
きみとぼくは出会った
闇夜のような色の髪
不思議な光を宿した瞳
子供の頃の宝物だったビー玉みたいに澄んだ声
ぼくはあまりにも驚いて殆ど声が出なかった
ぼくは多くを語れなかったが
きみと出会えたことは奇跡か
それとも宇宙の悪戯だと言った
そして
「また会えるその日まで、待ってて───」
そう伝えると同時に
朝を知らせる強い風が吹いて
気がつくときみはいなくなっていた
それから
星降る夜も 孤独な朝も 微睡みの昼も
あの木の下で ずっとずっと きみを待ち続けた
だがきっときみとの出会いは
かなりの特殊な条件下でしか再現できない
だから次の「その時」を待つことにした
待つことにはもううんざりだがもう慣れたもので
ぼくはいつまでもいつまでも
世界を観測しつつとにかく待ち続けた
観測を続けるうちにぼくは気づいてしまった
きみと出会ってから 異常な数値が増えていることに
ぼくがかつて生きていた星の重力と物質が消えていることに
きみは一体 何をしたんだ?
それからというもの
多数の銀河 ブラックホール ビッグリング
あらゆるものが消えていく
観測に使っている機械のパーツさえ少しずつ減っている
そのうえ機械が表示する数値がゼロを表示するようになった
それは観測できる事項が全て失われたことを示している
また ゼロの代わりに「Xjlro」という文字列が
何度も何度も表示されている
これもきっときみの仕業なのだろう
ぼくは彼岸の観測者 だからきみの世界に干渉できない
「また会えるその日まで、待ってて」
確かに誰よりも孤独だったぼくはそう言ったが
その時は思いもしなかった
きみが世界を全て呑み込み尽くす
そんな恐ろしい存在だとは
きみはそのうち彼岸を見つけて手を加えてくるのだろう
その時をどんな気持ちで迎えたらいいのか
ぼくにはわからない
「10年後の私から届いた手紙」
拝啓
寒い日が続くこの頃、いかがお過ごしでしょうか。
私は世界の淵で、10年前のあなたのことを思ってこの手紙を書いています。
あなたは働きはじめてからまだ1年も経たないし、あんまり要領も良くない、口下手で地味な子。
しかも朝に親和性がなかったから、午前中に起きるだけで精一杯なのに、早起きまでしなくちゃいけない。
毎日仕事で失敗ばかりしてよく泣いていましたね。
そんな様子を見た家族からは呆れられて、会社にも家にも安心できる居場所がなかった。
毎日毎日、自分がいなくなったって、誰も痛くも痒くもない、悲しまない。そう思っていたのを覚えています。
え?現在(2034年)の話をしてほしい?
勿論、色々お話ししたいことはありますが、全部秘密。
どこで暮らしていて、どんな働き方をして、どんな人に囲まれているのか。
此岸にいるのか、彼岸にいるのか、それすらも秘密。
そうしておかないと、将来の楽しみがなくなってしまうでしょう?だから、10年経ってからのお楽しみにとっておいてください。
あなたは小さい頃から何故だかずっと不安や孤独を抱えていたのに、周囲からは実力に見合わない程の評価や期待をされてきましたね。
そして、それらに応えられなかった時に言われた「嘘つき」という言葉が、心の奥深くまで突き刺さっていまだに抜けないままになっている。
少女の私だって人間なのに、まるで傀儡やアクセサリみたいに、誰かの都合にばかり合わせて、望みもしないのにのっぺらぼうの仮面で歪んだ無表情を隠して。そうやって生きていましたね。
あまりにも人の都合ばかり気にして、全てのものがとても恐ろしく感じていたある日、鏡を見て気づいたでしょう。
あなたの目の奥の、真っ暗闇に。
生き物が放つ生命力が失われたことに。
その時から、あなたは、私は自分を人間だと思えなくなってしまった。
そう、手紙を書いた今から12年くらい前に、私は私でなくなってしまったのです。その事実があまりに辛いから、もう彼岸へと旅立ってしまおうと、もやい結びの練習を何度もしたことを覚えています。絶望と憂鬱を埋める為に沢山買い物をしてお給料をほとんど使ってしまったことも、忘れていません。
でも、今この文章を読んでいるということは、辛いことを沢山乗り越えて生きてきたということです。
周囲からの期待も、蔑みも、自虐も、喜びも。
あなたは全部、乗り越えたんです。
辛いことは十二分にあったけれど、あなたが生きていてくれたおかげで私は色んなものに出会えました。
ショパンの子守歌。ラヴェルの水の戯れ。
グリンカとバラキレフのひばり。
青葉市子さんの腸髪のサーカス。
繊細な刺繍のブラウス。
マダガスカルのカカオで作ったチョコレート。
たくさんのぬいぐるみやお人形たち。
出会いの楽しみを残すために今日のあなたが知っていることしか書かないけれど、これからも沢山美しいものに出会えるんです。
だから、これからも
生きて!
「バレンタイン」
わたしはお菓子の国のお姫様。
ケーキとシュークリームでできたお城に住んでいるの。
この国とその民は忘れられた少年少女達の夢と秘密の魔法でできていて、美しくて可愛いものしかいないの。
とても素敵な国よ。いつかあなたもおいでなさい。
でも、わたしはとっても退屈しているの。
何故なら、満たされすぎているから。
異国の宝石も、楽園のドレスも、望めば全部手に入っちゃう。
嗚呼、今日も退屈。アイスクリームみたいに融けてしまいそう。
そう思っていたある日、わたしは運命のひとに出会いました。
お隣の、猫の国に暮らす王子様。
三角のクッキーみたいな耳。
夕焼けに照らされると菫キャンディーの色になる柔毛。
鼈甲飴のように輝く円い瞳。
わたしはつい、貴方に声をかけてしまいました。
でも貴方はわたしには一瞥もくれず、綿菓子の花に夢中でした。
それからというもの、わたしは貴方に
お手紙を送るようになりました。
春には桜の花びらをラングドシャクッキーに、
夏にはひまわりの花をタルトに、
秋には紅葉をゼリーに、
冬には雪の結晶をシャーベットにしたためて。
貴方はとても気まぐれなお方だったので、
お返事は殆ど来なかったけれど、ある時猫の国から来たお使いの少女が言っていたの。
お菓子の国のお姫様からのお手紙が来るたびに、
王子様は尻尾を立てているって。
どういうことかしらとお聞きすると、
猫は嬉しさを尻尾を立てて表すと教えてくれたわ。
嗚呼、わたしの王子様。
わたしのかわいい、気まぐれな王子様。
おくびにも出さないけれど、わたしのお手紙を
喜んでくださっているのね。
そういえば、もうすぐバレンタインだわ。
もし、この日に愛のチョコレイトを贈ったら、
王子様は喜んでくださるかしら?
退屈だった日々に恋の夢と彩りを与えてくださったあの方の為に、わたしは国の総力を尽くして、
世界一我儘で、世界一愛のこもった、
世界一美しいチョコレイトを沢山作りました。
あの方はレーズンがお好きかしら?
それともオレンジ?
ミルクをふんだんに使った生チョコレイトがいいかしら?
ひとつにしようと思ったのに、貴方への気持ちが
溢れて止まらないから全部贈ることにしました。
でも、わたしが贈ったとみんなに知れてしまったら
国中のスキャンダルになってしまうから、
名前は書かずに、ひっそりと。
貴方は喜んでくださるかしら?
わたしは貴方の反応が気になって、三日三晩眠れなかったわ。
豪華絢爛、百様玲瓏のチョコレイトを届けてから数日。
わたしは貴方が永遠の眠りについたと聞きました。
なんでも、あの方は2月14日に誰かから贈られた
「毒」を沢山飲み込んでしまったから、
三日三晩、国の総力を尽くして治療にあたった末に
彼岸へと旅立ったのだそう。
どうして?どうして貴方が?
毒。どく?あの方が毒を?
わたしの心を奪った、あの王子様が、何故?
わからない。わからないわ。
もしかして、わたしの「愛」は猛毒だったの?
わたしのせいで、あの方は命を失ってしまったの?
突然のさようならを受け入れられるほど、わたしは強くない。
どうすれば、どうすればいいの?
あの時贈り物をしなければ、
わたしが彼に恋をしなければ、
あの方は生きていたかもしれない?
わたしは なんということを してしまったのかしら
わたしは、夢と魔法でできているの。
でも、わたしに恋の夢を与えてくれた貴方がいなくなった。
だから、わたしの夢もなくなってしまったの。
この国の人々は夢をなくすと、
魔法が解けてただのお菓子に戻ってしまう。
わたしも彼らと同じように、ただの飴細工になってしまうの。
ただの あめざいくに
そのこころを とじこめて
そのつみを ぜつぼうを
そのからだが とけて なくなるまで
えいえんに せおいつづけるの
また貴方に逢いたい。
でもきっと もうあえない
だって わたしはもう
ただの あめざいく だから