それに見つめられた者は、体が凍りついたように動けなくなった。
その眼差しは、何人たりとも寄せ付けず、近づいたものを切り裂いてしまいそうなくらい、鋭い刃のようだった。信用のかけらもなく、手元の大切なものを傷つけさせない、安易な優しささえもはね返してしまうくらい固い守りのように思えた。
あなたの手元には、なにがあるの?
あなたの大切なものもまた、あなた自身に囚われているようにみえる。
わたしは、一歩前に出た。
あなたの鋭い眼差しに、深く深く貫かれながら。
『鋭い眼差し』
清潔そうな白い部屋
薬品の匂い
それでも不潔に感じられるのは、
病人特有の匂いのせいだろうか
塩分のカットされた、
とろみ剤の混ざった病院食の匂い
おじいちゃんに会いに来たであろう孫の笑い声と、
しーっと口に指を当てる母親
チカチカと光る音の聞こえないテレビ
カーテンの隙間から見えるベッド
スライドドアの静かな開閉音
廊下の向こうからは、
エレベーターの呼出音
あ、僕の来客の足音がする
『病室』
あのね、
明日ね、
もし晴れたらね、
公園に行ってね、
ブランコと、すべり台と、タイヤに乗るやつもやってね、
木の下でお弁当を食べてね、
ちょっとだけ眠ってね、
4時までに白鳥号に乗るんだよ!
わかったぁ?
うーん、そうだね、うーん…。
テレビに映る明日の天気は、
降水確率10パーセント
猛暑
最高気温は35℃
熱中症警戒アラート発令中だ。
『明日、もし晴れたら』
ほら、そうやって。
心地いい言葉でわたしを騙さないで。
いつまでもそばに居るだとか、
嫌いになることはないだとか、
わたしといる時がいちばん楽しいだとか。
嘘ばっかり、その場の気分で発せられた言葉たち。
わかってた。わかってた。わかってたのに。
わたしは時々、誰かと”二人”でいたくなる。
こんな気持ちになるのなら、
さみしい気持ちに、虚しい気持ちに、
深く、深く、ずぶずぶと、
沈みこんでしまうくらいなら、
───最初から、ひとりでいさせてくれたらよかったのに。
『だから、一人でいたい。』
花になって、儚く美しく生きたい
鳥になって、囚われずに空を飛びたい
雲になって、自由に姿を変えたい
星になって、誰かの心の拠り所になりたい
わたしは、どうしようもないほど、なんにも持っていない
綺麗な心も、身体も、生きる糧も、持っていない
君に何かを与えられるものなんてない
君から何かもらう資格なんてない
どうして君は、わたしにかまうの。
どうして君は、わたしの傍にいようとするの。
どうして君は、わたしの為に泣いてくれるというの。
どうしてわたしは、君と一緒だと心地いいだなんて思ってしまうの。
『どうして』