わたあめ。

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10/10/2023, 10:36:55 AM

『はぁあああああ!!』

男は剣を振り上げ、相手の方へ走っていく。


ガギィンッ

金属のぶつかり合う音がする。

男はこれでもかと力を込めて相手に剣を振るう。
相手は余裕そうに男の剣を受け止めていた。


『ぐっ……ぐぅ……』

「無駄だ。貴様と私では実力差がありすぎる。」

相手は一言、そういうと剣で男を薙ぎ払った。

『がっ!!あぁ……』

軽く払われただけで、吹っ飛ぶほどの威力。
相手の言う通り、実力の差は歴然としていた。


コツコツと相手がこちらへ歩いてくる。

「もう諦めたらどうだ。周りの味方が見えないほど、貴様も馬鹿じゃないだろう?」


周りには死体の山。
格好は男と同じ鎧を身につけている。
大方、男のようにこうして挑んで敗れていった同胞たちだ。
その中には男と共に鍛錬をし、同じ酒を交わしたやつもいた。

男はもう動かぬ同胞たちを見て歯を食いしばり、相手を見て睨む。

睨む男に対し相手はハッと鼻で笑う。


「恨むのなら、弱かった己と味方を憎むんだなぁぁ!!!」

振り下ろされてくる剣。
不思議と、男にはゆっくりに見えた。

(俺は……ここで死ぬのか。)


男が死を覚悟したその時、

「おい。何やってんだよ。」

ふと声がした。それは、間違いなくそこで倒れていた奴のものだった。

でも、あれだけ血が出て動かなくなっていたのだ。もう生きているはずがない。

(あぁ。そうかこれは。)

走馬灯。男がそう判断するのに時間はかからなかった。


ザシュッ


「……ッ!?がっは、」

相手が口から血を吐き、膝から崩れる。
男の剣が相手の心臓付近を貫いていた。


男が剣を引き抜くと相手が軽く呻き声をあげ、完全に膝をついた。


「(この私が隙をつかれるとは……)」

倒れるまではいかなくても、それなりに傷は負ったようで、なかなか立ち上がれない。

「(しかもさっきとは動きが違う……なんで急にこんな……)」


男の方を見ると、ブツブツと何か言っていた。


『いつも起こしてくれたのに……もう、いないんだよな。ごめんな。でもお前だったら』


『「諦めんな」』

『そう言って起こしてくれるよな!!』


男が顔をバッとあげる。
目に光が宿り、ただならぬ空気が男から流れてくる。


「たかが、一度隙をついただけで、思い上がるな……」

即座に相手が姿勢を直し剣を構えた。


『俺は負けられないんだ。国のためにも、散っていったあいつらのためにも!!』


男は力強く剣を握り、再び構えた。

#力を込めて



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だいぶ前のお題になります💦
遅れての投稿お許しくださいませm(*_ _)m

10/7/2023, 3:09:53 PM

『あっ。懐かしい。』

自室の片付けをしていると、棚の方に「○○年度、△‪✕‬中学校 卒業アルバム」と書いてあるのが見えた。

中学時代の卒業アルバムだ。
引き寄せられるように、棚からとった。

ペラペラとめくると、先生や教室の写真。
クラス順に生徒たちの写真も載っていた。

私は当時B組だったので、早めに見つかった。

『みんないる……。あ、こいつ……今何してるのかな。』

自分の隣に写っている男の子が目に留まる。
出席番号も近くて、クラスも3年間同じだった。
性格は合わなかったが、よく話していたの覚えている。

いや、話していた……というより喧嘩ばかりだった。



「なぁ、数学小テスト何点だった?」

数学の授業が終わると、コソコソと答案用紙を隠しながら聞いてくる。テストがあった授業後の恒例行事だ。

『ん?普通に満点。そっちは?』

「……。一点落とした。」

『え、嘘、超簡単だったよね。』

にやぁとしながら煽っていくと、相手は顔を真っ赤にした。

「うるせぇ!!お前だって、昨日の理科の問題当てられても答えられなかったじゃねぇか!!」

『はぁ!?もう復習してバッチリだわ!!』

「おーおーそうかよ!!んじゃ次の漢字テストで勝負な!!」

『望むところよ!!』

彼は走って自分の席に座って、漢字の勉強を始めた。
私も彼に負けまいと国語のノートを開く。

きっと、クラスの生徒たちは「あぁ……またか。」と思って呆れている事だろう。

馬鹿らしいと言われても、どうしても彼には勉強で負けられなかった。
今思えば良きライバル、だったのだろう。

彼のおかげで、成績で悩むことは無かった。


基本勉強の話以外しなかった私達だったが、一回だけ違う話をした事がある。


それは珍しく朝早く登校した日のこと。

その日はたまたま早起きができて、学校で少し勉強をしようかなと思い立ったのだ。
普段より静かな通学路を歩き、まだ少ししか開いてない校門を通り、人気のない校舎へと入った。

これは一番乗りか、と少しワクワクしながら教室へ向かった。


ガラガラッ


「うおっ。びっくりした。」

そこには先客として、彼がいた。

『え、何あんた。こんな早くに。』

「それはこっちのセリフ。俺はいつもこの時間に来てるんだよ。」

彼は呆れながら、読んでいたであろう手元の本に再び目を落とす。

意外だった。確かにいつも私が教室に入る頃には、もう既に席で勉強している彼。
こんな早く来ていたとは思わなかった。

ゆっくりと自分の席へ座り、荷物を机の中に詰め込み始める。


「てか、今日は何でこんなに早いんだよ。」

『んー。気分。』

あぁそうかい、と言いながら彼は本をしまってノートや教科書を取りだした。
彼も勉強を始めるようだ。


カリカリとシャーペンと紙が擦れる音がする。
まだ早い時間のため、クラスメイトが来る様子はまだない。
つまり、彼と二人きり……な訳だが。

チラリと彼の方を見る。

集中して教科書とノートを見比べて問題を解いている。真剣に取り組んでいるのだろう。


沈黙が続く中、それを破ったのは彼だった。


「なぁ。」

『へっ。何?』

話しかけられるとは思わなくて、変な声で返事をしてしまった。
少しの間を置いて彼は口を開く。

「月は……綺麗に見えるか?」

『つ、き?』

今は朝だ。月なんて見えない。
見えたとしても白い月。
そういうのは本来、夜に言うものだろう。


『今、朝でしょ?それとも今日の夜の話?』

「いや、なんでもねぇ。忘れてくれ。」

彼はまた黙って勉強を始めた。

正直、どんな意図があってこんな事を言われたのか分からず、私はいつも通り接することしか出来なかった。

私はその朝の勉強はちっとも手につかなかった。


それからは、いつも通り過ごしてお互い志望校に合格し、卒業。
卒業式も対して話さず彼とはそれっきりだった。



あの時の言葉の意図も聞けずに現在に至る。



当時の私は、頭は良くても鈍感だったんだ。

あの言葉は彼なりの告白だったのかもしれないなと、思う時もあるが、それは彼でないと分からない。


真相は彼のみぞ知るのだ。


もし彼と会うことが出来たら聞いてみようか。

そんなことを思いながら、私はアルバムを棚に戻した。

#過ぎた日を思う

10/6/2023, 9:45:16 AM

一人暮らしを始めて数ヶ月。
なれない家事をこなしながら、仕事に行くのはとても疲れる。休みの日はほとんど寝っ転がってばかりだ。

正直実家暮らしの方が楽なのはわかっていたが、実家から会社は新幹線に乗らないと行けない距離。
なので、通える範囲のところに家を借りることにしたのだ。
嫌な家事を全て一人でこなさなければいけないし、生活費や家賃のことも諸々やりくりしていかなければいけない。一人暮らしなんて面倒ばかりだ、そう思うことの方が多かった。

でも唯一、一人暮らし……いや、この家に引っ越してきてよかったと思うのは、空が綺麗に見える窓があることだ。

7月には夏の大三角が見えた。
星座はさほど詳しくないが、有名なのはわかる。

これから訪れる冬にはオリオン座や双子座が見えるかもしれない。少し楽しみにしているのも事実だ。



仕事から家へ帰宅し、電気をぱちぱちとつけていく。
不在中閉めていたカーテンを開け、窓から空を眺める。

雲も少なく、星が十数個ほど見えていた。

住んでいる地域はさほど田舎という訳ではなく、夜もそれなりに明るい。街灯も家の明かりもあるので、その分星は隠れてしまうが、都心のネオン街に比べて暗いため、何個かは見える。

今日はよく見える日のようだ。


ガラッ


窓を開けてベランダに出る。

夏は終わり、もう季節は秋。
夜になると風も冷たくて、少し冷えた。
でも、この冷えは嫌いじゃない。

仕事帰りのサラリーマン。
塾か部活終わりの学生。

人通りも多く、車もたまに通る。


だが、ふと孤独に感じることがあった。


今日も、部署の先輩に怒鳴られた。
会議用の資料に不備があったらしい。
その先輩と一緒に作っていたから間違いないはずなのに。どうしてだろうと思っていたら、こんな声が聞こえた。

「彼女の資料、完璧だったんじゃないのか。一緒に作ってたろ?」

「あ?だからだよ。なんでも完璧にこなせてると失敗した時、苦労するだろ?だからイチャモンつけてやったの。先輩の優しさだっつの。」

「優しさってお前……怖ぁw」

「怖いってw むしろ怒ってもらったことに褒めて欲しいね。」


ガハハと笑いながら遠ざかっていく声。

間違いを指摘されて怒るのはわかる。
だけれど、正しいことをしても怒られるなら、こうして頑張っても無駄なんじゃないか。
そう思ってしまった。

でも、こんな理不尽な仕打ちは初めてじゃない。

同僚にも嫉妬されて物を隠されたり、上司からのパワハラ、セクハラ……。
やりたくて入った会社の裏側を見て、幻滅したのは一瞬で、気づけばそんな会社だと見抜けなかった自分を追い詰めるようになっていた。

心が落ちていくような、何もかもがどうでも良くなっていく。そんな感覚が増えていった。

でも、それでも私がこうして立っていられるのは、今空で輝いている星たちのおかげだ。

輝きの弱い星、強い星。
どの星も星座の一部だったりする。
どんなにちっぽけでも、こうして私たちを照らしてくれるのだ。

そして、何年も輝き続け、多くの人に星座としてもその星だけでも親しまれている。
こんな遠くにいて小さいのにすごい、と尊敬してしまう。


『ん。あれ……』


昔の記憶が蘇る。
父の帰りが遅く、母と帰りを待っていた時、ベランダに出て外を一緒に眺めていた。

「おかーさん!!あの星綺麗!!」

「ん?あぁ、あれはねこうして繋げると……」



『カシオペア座……。』



M字に輝く星が見える。
そうだ、昔もこうしてみていた。
なぜ今まで忘れていたのか……。

子供の頃もこうして星を見るのが好きだった。
学業が忙しくなると同時に見なくなってしまっていたけど、今またこうして星を眺めている。

ふっ、と少し笑った。

『変わんないなぁ。』

改めて空を見上げる。
どの星々も昔と変わらぬ輝きを放っている。

『君たちは、見てられなくても輝き続けている。すごいね。』

誰かに見ていられてなくても……いや、もしかしたらこうして輝き続けていたからこそ、私や母のように見てくれる人がいたのかもしれない。

『頑張っていれば私も……?』

見てくれる人が……いるだろうか。


キラッと光の線が見える。

『えっ、流れ星?』

光の方を急いで見るが、そこには何も無くただ星が輝いているだけだった。

もしかしたら星が返事をしてくれた……り?


『ふはっ、そんなわけないか。』


少し寒くなってきたので部屋に戻る。
戻る足取りは出てくる時に比べるとだいぶ軽かった気がした。

洗面台の鏡で顔を見ると、帰ってきた時よりも明るくなっていた。
星空効果かもしれないなと、窓の方を見てニコッと笑う。

『よし。お風呂入ろ!!そして明日も頑張るぞー!!』

気合を入れて浴室へお風呂を沸かしに行った。


#星座

10/4/2023, 6:27:24 AM

もし。私に前世があるのだとしたら……。
前世での伴侶とやらに会ってみたい。

ふとそんなことを考えながら、コーヒーを啜る。


五十嵐 奈緒。今年で30代に突入。
彼氏いない歴数年。仕事一筋で生きては来たものの、寂しさは無いがこうして色々と考えることが増えた。

将来の自分はどうなるのだろう、このまま一人なのか、それとも家庭を築いているのか。
気になるようになったのだ。


ある日、テレビのバラエティ番組で、“前世” というワードが引っかかった。

元々、超能力とかお化けといった類のものは信じていない。昔の私なら、前世の自分とやらも興味が無いと言って無視していたと思う。

だが、将来について考えていたからか、ひとつの疑問が浮かんだのだ。


『前世の私は、どんな人生を歩んだのだろう。』と。


とはいえ、思いついたから完璧に信じた訳ではなく、あくまで自分の妄想程度。

真実なんて、誰にも分かりやしない。
もし分かる存在がいるのだとしたら、神様くらいだろう。

でも、もし前世があったとして……。
前世の私はこうして一人だったのだろうか。
それとも、誰かの隣を歩いていたのだろうか。

居たかもしれない、かつて生涯を共にした相手。

もし居たとしたら、どんな人なんだろう。


ドンッ。

『あっ。』

そんな風にまた歩いていると、すれ違った男性に肩をぶつけてしまった。
まさかぶつかると思っておらず、私は体制を崩しその場でしゃがむような形になってしまった。


「大丈夫ですか?」

ぶつかってしまった男性が、手を差し伸べた。

心配そうに覗き込む顔はとても整っていて、私の心を簡単に奪っていった。


これが、未来の旦那となる 結城 新太との出会い。


そして、私の前世……栞と新太の前世……拓が恋人同士であったと知るのは、まだまだ先のお話。

#巡り会えたら

10/3/2023, 6:34:55 AM

季節は冬真っ只中。
寒い中、車椅子を押しながら坂を進んでいくのは、なかなか辛いものがある。

しかも夜の道で街灯も少なく視界も悪い。
頼まれてもなかなか引き受けづらいものだろう。

しかし、俺はこれを絶対放棄するわけにはいかなかった。


『はっ、ふ、ぅ……』

「……憂?苦しいなら戻っても……」

『なに、言ってんだっ……また、ここに……くるっ
……って、決めた、だろうがぁ、』


俺は足と腕に力を入れながら、気合いで車椅子を押していく。顔は見てないから分からないが、きっと真っ赤になっていただろう。
それくらい力を込めた感覚があった。


「でも……憂は帰宅部だし、昔だって私に腕相撲勝てたこと無いじゃn」

『おいこら!!ここで喧嘩売るんじゃねぇ!!』


車椅子に乗っている女、結衣はさりげなく煽る。
いつもこんな感じで、悪気があって言ってるわけじゃないのが余計に腹が立つ。

だが、こうして結衣が煽ってくれたおかげでさっきよりも力が入るようになった。

徐々に進む車椅子を見て、後ろを向いてた結衣は大人しく前に向き直した。


「憂って、昔から頑固だよね。」

『あ?うる、せぇ。お前だって、頑固だろ。』

「いーや、私よりも憂の方が何倍も頑固。決めたことは意地でも通すし。」

『一度決めたのに、やり通さないのは、嫌なんだよ。』

彼女はもう一度振り返ってこちらを見る。

「ほら、頑固。」

ニヤッともニコッとも取れる彼女の笑顔。
昔はよくイラついたものだが、最近は愛らしさを感じる。

照れ隠しも込めて、合っていた目をそらし、車椅子を押すのに専念した。


ついに坂が終わって平らな道を少し進むと、大きな公園に着く。


「わぁ……」

彼女が見渡す。

時刻は18時。
日はとっくに沈んで、外は真っ暗。

大きく開けたその公園は、街並み全体を見渡せる高台になっていて、家の明かりが綺麗に景色を彩っていた。


『見る約束だったろ。』

「うん……また来れるだなんて。」


一年前、彼女がまだ車椅子に乗っていなかった頃。
ここに来たことがある。
その時、約束した。


「また、ここに来ようね。」


彼女の言葉を俺は叶えるために、今日はここに来たのだ。


彼女の口から白く息が吐かれる。
真冬なのもあり、鼻も赤い。


「憂!!」

『ん?』

「ありがとう。」


彼女は満面の笑みで言った。

あぁ……また見れた。

調子の悪くなる前と同じ、“無邪気な彼女の笑顔” という名の奇跡を、もう一度見たかったんだ。


#奇跡をもう一度

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