飴玉

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11/21/2024, 11:40:58 AM

朝、目を覚ますと双子が目の前にいる。お互い喋りたくないから洗面台で身支度を終えるまで喋らないと約束している。
のそのそと洗面台で顔を洗って歯を磨いて、お互いがお互いを認識してからようやく僕達は始まる。
「おはよう…まだ眠いよぉ、姉さん」
「私も、眠いけど…」
「今日お休みだし二度寝しちゃおう?ね?」
「兄さんったら仕方ないんだから。特別よ、でも朝ごはん食べてからね」
「わーい!姉さんの朝ごはん大好きなんだ」
「はいはい」
そんな呑気に過ごす僕達の生活はきっと普通じゃない。勉強とか…たまにテレビで聞く「義務」というもの全てが果たされていない。でも僕達はそれを構わないって思ってる。だってお互いがいればなんとかなるって知ってるから。
「姉さん、二度寝!はーやーく!」
「食べるのが早いんだから…」
「おやすみのちゅーして」
「うん」
ちゅーというより、触れているだけ。そして僕がちゅーをやり返すというのが僕達が眠るまでの儀式のようなもの。
「兄さん」
「どうしたの?」
「だーいすき!」
「僕ももっともーっと好き」
「えへへ…」
これが僕達の普通であり、日常であった。でも、それはある日突然奪われた。
「あのね、」
「どうしたの?」
すごく嫌な予感はした。
「姉さんね、兄さんが1番大好きなのに、姉さんはダメな姉さんだから、男の子を叩いちゃった…」
聞くに、姉さんはその男の子にときめいてしまったらしい。なんて事だ…
「どうしよう…兄さん…」
「大丈夫、大丈夫だよ。そいつは今どこなの?」
「知らない。どうしようか、また女の子みたいにする?」
「うん!名案だね。何使う?」
「糸ノコギリ!父さんもこれでやったもん。兄さんは何使うの?」
「うーん…ハサミ!まだ小さいからその方が切りやすいかと思って」
「縄とタオルは?」
「持ったよ。じゃあ行こっか!」
「あ!待って、大事なこと忘れてる」
「ん?」
「行ってきますのちゅーだよ!」
「ごめんね、姉さん」
いつも通り触れるだけでも、いつもより少し強めのちゅーをしてから男の子の家に向かった。

11/14/2024, 12:09:14 AM

いつもと雰囲気を変えた髪型。今日は、なにか特別な日だ。中学生になって初めて友達の家に遊びに行く。
あーもーなんてグチグチ言いながら己の癖毛に腹を立てている。簡単だと銘打たれたヘアアレンジを試してみるも、くせ毛が邪魔をして全く上手くいかない。
「ねぇママ、上手くできてるー?!」
「知らん」
昨日から練習しとけばよかった。電車を使って遊ぶのも初めてなもので、全く不安で不安で仕方がない。昨日は服しか決めなかったし、服だってこれでいいのかずっと不安。大丈夫だよね?芋っぽくない?
「行ってきます」
「いってらっしゃーい」
妹の小学生らしい挨拶を背中に感じて、駅まで向かった。駅までなんで30分もかかるんだよ。走りたくても髪が崩れたらとか不安で走れないし…はぁ…大丈夫だよね?どうしよう、電車の進行方向間違えたらヤバい。詰む。
ガタンガタンと独特なリズムを鳴らしながら止まった電車を見て、よし、方向は間違っていないとひとつ安心した。
そして、友達の家に1番近いらしい駅まで来て、改札を抜けると友達を見つけた。
「あ、こっちこっち」
「合ってた〜!」
「急にどうしたん?」
「マジ不安やった」

………。

「今日マジ楽しかったわ」
「自分も!んじゃまたね」
「もち、ばいばーい」
帰りはちゃんと帰れるだろう。あー、楽しかった。また友達と遊ぼう。

11/3/2024, 12:09:17 PM

「きさらぎ駅」っていう異界駅が都市伝説として結構有名らしい。なんか知らない駅から必死こいて帰るみたいな…らしいけど。
「なんそれ?」
いや知らん。知ってる?
「いや知らん。いっぺんググるべ」
ヒットした〜?
「ちょい待ち…あ、出た。福岡県の遠いとこにあるらしいね。滅多に人行かんから…なんか初めて知ったし…」
めっちゃ有名。都市伝説の駅。行ってよ
「ヤダよ」
ごめんて。
「でもまぁ界隈では人気かもよ。…駅かぁ…あ、「山崎駅」て知ってる?」
待ってググる。…普通に出た。京都の駅だね。
「なんかかたす駅から行けるとかいう都市伝説の駅なんだって」
フーン…
「興味無いでしょ」
だって興味ないんやもん。
「示せや」
都市伝説か〜。洗面台で喋る方が都市伝説っぽくね?
「まぁでも、誰でも喋ってるかもよ?秘密にしてるだけで」
たしかに。何となく秘密にしてるもんね。てかドッペルゲンガーって会っただけでそのうち死ぬらしいじゃん。ウチら大丈夫なん?
「あー…まぁ同じ世界線では無いし大丈夫じゃね?」
ん。じゃあそろそろ学校行く時間だし切り上げっか。
「ん。またね」
ちーっす。やべ〜学校行きたくねー…前科者いるし…
「こっちにも居る。アイツまた傘振り回すんかな…今日雨だし」
ヤダなー…

10/22/2024, 11:39:21 PM

「ねーっ、この服どお」
「どおって言われても…」
「似合うって言ってよ、父親でしょ」
「そうだけど…気になるなら買ったら?」
「お金勿体ないから」
買うのは自分なのに、頬を膨らませてあれも違うこれも違うと試行錯誤している。結局、悩みに悩み、買ったのは灰色のアイシャドウだった。
「これね、グレーシャドウって言って、黒髪に合うんだって」
「そうなん?変じゃない?」
「変じゃない!もう帰る」
「なんか食べていかへんの?」
「太るし、いい」
「たまには食べたら?」
「じゃあ食べる!でもいいの?パパ中年だから、太ったら痩せにくいんでしょ」
痛い所をつかれた。フライドポテトを注文して、届くのをじっと待つ。他人となら気まずい無言も親子ならそうでも無いのはなんでだろうか。
「パパはさ、ママと離婚して正解だよ」
「うん」
この言葉に、どうしていいかいつも詰まってしまう。どう返すのが正解なんだろうか。
注文していたポテトが届いた。
「えっ」
「何?」
「雪降ってる」
「まぁもう12月やから」
「新年近いと色々めんどい、パパは大掃除とか衣替えとかするん?」
「仕事忙しいしそんなんはあんまりしーひん」
「パパの住所特定出来たら掃除くらいならすんねんけど」
衣替えは流石にしないらしい。まぁ、父親の下着をうっかり見るようなことがあったら娘にとっても自分にとってもなんとなしに嫌だ。
「じゃ、そろそろ帰るか」
「うん。お誕生日おめでとう、あと、メリークリスマス」
「メッセージ送ってくれてたやん」
「リアルで言うのとメッセージは別」
まぁ、そうなのかな?と内心首を傾げた。
「じゃ、またね」
「ばいばい」

10/22/2024, 12:24:07 AM

「なぁ、最近お前、声が枯れてるんじゃないか?」
妬ましい彼奴から声を掛けられた。たしかに最近の俺は声が枯れている。何故なら、あの人を思って泣きすぎたからだ。よなよなあの人を考えている。
「大丈夫だって」
「大丈夫じゃねぇよ。ほら、のど飴でも買ってこいよ」
「えー…面倒くさいな…」
一瞬沈黙が落ちる。
「あの人は元気か?」
「おう、相変わらずの愛を与えてくださる」
「そういえば、……。」
「なんだ?」
「俺、出張なんだ」
その言葉に興奮しない訳にはいかなかった。後の言葉には、理想の、夢のような言葉が続いた。
「あの人に会いたいか」
「お前が言うなら」
トントン拍子にことは進み、俺はあの人におめ通が叶うことになった。
「久しぶりですね」
「会いたかった。会いたかった、ずっと…」
返事を聞く暇もなく、あの人にぐりぐりと甘え、膝枕をしていただいた。
「ふふ、子供みたい」
「君の前なら誰だってそうなるに違いないよ」
「そうなのね」
「あー…君を感じる…愛しい人…俺を考えていてくれたよな。俺の事を全て、俺の事を考えて…愛して…気持ち悪い彼奴にキスをせがまれて可哀想に…」
「心配してくれて嬉しい」
「ずっと君を考えて、涙を流したんだ」
「そうなの?」
「君を攫う妄想もした」
ふふ、と相変わらず微笑むあの人は女神だ。彼奴への愛は嘘っぱちで、俺だけを愛している。あの人の彼奴への言葉は、その実俺に向けられている。
「はは」
「ん?」
頭を撫でるあの人。なんて愛しい…
「哀れな彼奴だ。君の愛は全て俺に向けられているというのに、君の口から出る嘘の愛に踊らされて、全く馬鹿な男だ」
「ふふ」
あの人は俺の頬を撫でて、そして、唇を優しく撫でている。綺麗な手が、俺の唇を…
「キスをしてもいいか」
「勿論」
ふ、と優しく唇が触れた。そして俺は天に昇る気持ちになった。あの人はふんわりと、熱を帯びた目で俺を見つめている。
「私のこと、攫ってみますか?」
「いいのか…」
「えぇ、勿論」
刹那、俺は刺された。疑問が浮かんだ。そして酷く裏切られた気分になった。
「私の愛を嘘っぱちだと言ったわ」
………。
「私の友達を埋めたわ、この包丁で」
………。
「愛してる、君を何より…」
………。
「私の愛を嘘っぱちだと言ったわ」
俺はもうすぐ事切れるのか。
………。
愛しいあの人の手で…なんて美しい…

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