案山子のあぶく

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1/1/2025, 12:50:33 PM

◎新年
#43

新たな年を迎えるにあたって、
それまでの十二支は、新たな十二支を選出する。

1年間【辰】を背負った龍一族の青年は、次の【巳】を見出す為に蛇一族を訪れた。

"十二支としてその1年を背負う者は一族の誉れである"

そんなふうに言い聞かせられて育った蛇の若者たちは期待を込めて龍を見つめた。
先頭の数匹は"特別な目"を持つ十二支候補だ。

遠くまで見通す目。
視界に映る者を分析する目。
過去を見通す目。などなど

「……」

無言のまま、龍はとある蛇の前に進み出た。
その蛇はお世辞にも立派とは言えない風体だった。
床を見つめて、近づいてきた龍に気付く素振りも無い。

「君。」
「──は、……私でしょうか」
「そう、君。」

十二支の龍が、何故みすぼらしい蛇に声を掛けるのかと困惑しながらも2人の静かな問答を若者たちは息を飲んで見守る。

長く伸びて口元に掛かったたてがみの間から覗く紅い瞳は蛇を見つめて息を吐いた。

「良い目だね。」
「……お褒めの言葉、ありがとうございます」
「その目は何を見通せるの。」
「……人間たちの営みを覗き見る程度でございます」

淡々と答えながら、その瞳は床に向けられている。

「君なら上手くやれるだろうね。」
「──え」
「君が此度の十二支だ。」

混乱する蛇たちを尻目に龍は囁いた。

「私たち十二支は人間を見守り、神々に伝えることが役目。君は真面目そうだし、それに十二支は特別な目が要る訳では無いんだよ。」

これは選出における秘密事項だからねと、龍は微笑んだ。

12/27/2024, 5:12:07 AM

◎変わらないものはない
#42

何時かは此処も栄えていたらしい。
そんな時代の建造物群が苔を帯びてそびえ立つ原生林。
元は何だったかも解らない何かの部品を、今でも考古学者を名乗る人々が拾い集めている。
だから私を含める現地民はそれらを先に拾って稼ぎにしている。

今日も、一つ二つ水底から汲み上げたり、引っ掛かっているのを取ってきたりした。
透明な柔らかいベコベコと音が鳴るモノ。
金属が連なった紐。
透明な筒とそれに入っているペラい何か。

こんなモノ、何に使っていたのか全く想像出来ないが……。

日銭稼ぎになるならなんでも良いや。

12/16/2024, 9:02:17 AM

◎雪を待つ
#41

少年。
今、雪の塊を食べたかい?
そうか。
それではもう、語るしか私に出来ることは無い。

空から舞い落ちる雪には小さく白い種が混ざっている。
それは春の種だ。
冬の精霊が大切に守り、雪解け水によって芽吹き、その蕾が開花すると周辺は美しい春の景色と化す。

ただし、
間違えても生き物がそれを体に取り込んではいけない。
もし、腹に宿ってしまえばその体の持ち主は冬の精霊によって春まで眠りにつくだろう。

もし春になって目が覚めたとしても、春と同化したその命は夏を迎えることは出来ない。

怯えてももう遅いよ、少年。
君は種をその体に入れてしまった。

……延命する方法は1つだけある。
夏の種を飲むことだ。
春の終わり頃に、それは空から降ってくる。そしてまた眠るのだ。

夏の終わりには秋の種を飲む。
秋の終わりには冬の種を飲む。

それを繰り返すんだよ。
そうすれば生きながらえることもできるだろう。

だが──

おや、人の話を最後まで聞かないで行ってしまった。


10年繰り返せば
私のように死ねなくなるんだがね。

12/7/2024, 8:58:57 AM

◎逆さま
#40

『天地がひっくり返るような』
とはよく(本などでは)いうけれど、
実際に“天地が覆された”現在の状況を誰が想像しただろう。

国際連盟が秘密裏に進めていた重力からの脱却する実験が功を奏し、未だ人類は滅ぶに至らなかったが、死者や行方不明者は幾万幾億にも及んだ。
しかしこの状況で連盟の管理は行き届かず、世界の規則、法律は意味を失った。
全世界が無法地帯へ成り下がり、人々は言葉ではなく武器を取った。
第三次世界大戦とは誰が言ったか。
戦乱により狂ってしまった世界で、最早私には未来が見えなくなってしまった。

ああ、もちろん、
私みたいな語り部はその数を減らしている。

だからこうして、元ビルへと入り込み回線をつなぎ合わせ、残り少ないこの身体のエネルギーを使って誰が見るかもわからない文章を書き連ねているのさ。
これを見てくれた誰かが平和を望んでいるのならこの先へと進むと良い。

12/2/2024, 10:18:05 PM

◎光と闇の狭間で
#39

逢魔時に目を覚ました“〇〇”はその背に茜を背負い、首をもたげた。

終わりのない者たちを神と呼び、善と悪、光と闇に分ける今世。
それよりも遥か昔から存在する混沌とした“〇〇”は自身の体に巣食う者たちを見下ろして変わりないことを見届けると、再び眠りについた。

自身が完全に目を覚ませば崩れ去る世界を嘲笑いながら───

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