◎キャンドル
一つずつ蜜蝋のキャンドルに火を灯す。
石室の奥でゆらりと壁を舐める光は仄かに甘い香りを放った。
仄暗い空間に安置された主人を偲び、従者は胸の前で手を組む。
どうか楽園では何にも縛られることが無いように。
◎はなればなれ
2人のスイは1人のサンといつも一緒。
遠い遠い昔に仲良くなってからずっと一緒。
岩に囲まれた場所を潜り抜けたり、皆でぎゅっと固まっていたこともあった。
今度は金属の管を通り抜けて透明な壁に取り囲まれた場所へたどり着いた。
3人は手を離さずに周りを見渡した。
「ここはどこ?」
「わからないよ」
「離れちゃいけないよ」
3人は互いに微笑みあった。
暫くすると、3人の足元がじわじわと熱くなり始めた。
そして、我慢できなくなった3人はぴょんと飛び上がった。
「熱い!」
「痛い!」
「あちちっ!」
そして一際大きく跳ねたとき、2人のスイと1人のサンの手がぱっと離れてしまった。
「「「あっ!」」」
「離れちゃった!」
「どこにとんでいっちゃうの!」
「いっちゃ、やだよ!」
空中で2人のスイは手をつなぐことに成功したが、サンはどんどん遠ざかって行く。
手を伸ばしても届かない。
そして、真っ赤な光の中へとサンが吸い込まれたときパチンと大きな音が鳴った。
微かに見えたのはサンがその勢いで更に遠くへ飛ばされた姿だったが、それもすぐに見えなくなった。
「いっちゃった……」
「次に会えるのはいつかな」
「何億年も先かも知れないね」
「待つ?」
「待とう」
2人のスイはもう二度と離すまいと互いの手を固く握った。
◎やわらかな光
昼間に地上を照らす眩しい太陽は
暖かさと恵みをもたらす時もあれば、
時折私たちを焼き焦がす。
夜中に見上げる月は
暖かさを地上に伝えることは出来ないが
焼けてしまった者達に
そっと寄り添い包み込む。
月と太陽は互いを補うように
夜と昼に輝いている。
◎カーテン
空を見上げると日光が分厚い雲の隙間から差し込むのが見えた。
カーテンのようにも見えるが、
「天使の通り道だ」
小さく呟いた言葉に、弁当をかきこんでいた手を止めてケイは目を細めた。
「此処に降りてきたのか、天使様」
今日の最高気温は何度だったろうか。
猛暑日だったかもしれない。
◎力を込めて
大切にしていたい。
そんな執着が手元を狂わせる。
いつもなら直ぐに組み伏せてしまえるというのに、その手はただ空を切っていた。
ひらり。
すり抜けるあの子。
この手の中にあの子が収まった瞬間。
幸せが終わる。
この手は普段と同じように動き、花のような命を手折るだろう。
終わりたくなどない。
だのに、追いかけて捕まえてしまった。
両の手が正確に白く細い急所に掛かる。
もう少しでも力を込めればぽきりと折れてしまうだろう。
そんな命の瀬戸際で愛しい獲物ははにかんだ。
何を迷う。手に入るのだよ。
キミがずっと欲しがっていたものだろう。
今更怖気づいたなど言うまいな。
暗く、黒く。全てを飲み込むが如く。
光の立ち入りを拒む瞳の輝きが細められた。
惹かれる、引き込まれる。
月が宿ったその瞳から目を離せずに、指がその細首へと食い込んだ。
その月が欲しくて堪らなかったのだ。
ずっと昔から魅せられていたのだ。
瞳が閉じられる。
そこから流れ出た雫を口に含んだ。