君とつなく物語
服をめくると彼女の背中はぐちや、グチャと汁が垂れ、悪臭を放っていた。
「ヒッ!」
接骨院の院長は顔を歪め小さく悲鳴を上げる。1週間前に見た時ときには、こんなありさまではなかった。普通の中年の女の白い背中だった。
たった1週間でなんでこんなに酷くただれ、皮膚が溶け、ボコボコと小さいなしこりらしきものが皮膚から見えている。
「背中とこし〜、痛いんです〜。なんとかしてください。前に来たときにはよくなったのに〜。今回はいつまでも痛くて〜。超音波って治療〜って言ったでしょ〜。お願いします。」
女は診療台にうつ伏せになりながら続ける。
「痛くて、痛くて〜。グリグリが痛くて。助けてください。今、仕事休めなくて、家で認知症の母の介護もしているので休む訳にはいかなんです〜。
助けて〜。助けて〜。痛い〜」
院長は静かに諭すように女に言葉をかける。
「〇〇さん。病院行った方ががいいですよ。うちではこれは治せません。〇〇さんも分かっていますよね。ここでは治せないんです。病院行ってください。あなたに何があったらお母さまも困るでしょ。しつかり治しましょう」
「うぅ〜。分かりました。ごめんなさい。ご迷惑をおかけしました。病院に行きます」
あの人、もう長くないよ。
なんであんなになるまてほっとくのかね。信じられねぇ。
グチャグチャでキモかったし、帰ってくれて良かっよ。
粘られたら警察呼ぶとこだったよ。
あぶねー。
院長はあの女がもう2度とここにはこれない、いや生きていないかもなと
何となく思っていた。
一方女は、車を運転しながら泣き叫んでいた。
「病院なんて行けないよ。休めないって言ったじやん。今年、部長になったばっかで休めないよ。何カ月休むと思ってんのよ。仕事をサポートしてくれる人いないし、人手不足だし、お母さんだって、1人にできないよ。私の看病。冗談じゃあないよ。
なんで、私ばっか病気になるの。みんな普通に働いているのに、私ばっかり!神様助けてください。このままでいいんです。何も要りません。部長になったことがダメですか?引っ越す時期がダメですか?でも、私のせいではない。仕方がないんです!
助けてください。
助けて。何でもします。お願い。あっ!」
車は対向車を避けきれず、大きな音をたたててぶつかり停まった。
「あーあ。私死ぬのかな。痛い〜」
私はやっはり1人なんだな。誰も助けてはくれない。私をつなぎとめるものはない。
誰とも紡ぐ糸は見つからない。
寂しい。痛い。痛い。
心の境界線
心を開いて。なんて無理。
毎日、毎日、満員電車に揺られ疲弊しきって出勤。会社では上司を持ち上げ、部下の仕事を手伝い、同僚には「お前バカがつくほと不器用だよな」と呆れられている。
仕方がないじゃん。
仕事なんだからさぁ。
仕事しないと生きていけないでしょ。「好きなことを仕事にしてるから、苦はないです。」とか言ってみたい。みたいけど、そんな仕事ない。ない。趣味でしょ。それ。
それだけで生きていけないでしょ。
実家が大富豪なの。
なら大丈夫ね。
家は違う…。
働かないとダメなのよ。 家は…。
みんなに優しくしても、いいように使われて「ありがとう」と言われれば舞い上がる。なんて単純な私。
誰も私を見ていない。
仕事の部下で、同僚で、先輩で。家では次女で。ねぇ!それ私のこと。
あなたが心を開かないから友達できないのよ。そうなの。私のせいか。なら仕方がない。
私は人との境界線をはっきりしたいのよ。
知らない人にズカズカ入ってきて欲しくないだけ。
たたの人見知りですけど何か。
慎重だと言っていただきたい。
そんな私もパチンコ屋に行くと人が変わるらしい。そのつもりはないが、隣の知らないおっちゃんに話しかけ、どのパチンコ台がいいとか、確変があーだ、こーだと話しかける。
つまり、心の境界線もTPOなのかもしれない。
灯火を囲んで
部活の練習で学校から帰るのが遅くなり、1人で夜道を歩いている。都会ではないが、それなりに大きな街の住宅街の中を歩いている。街灯も真っ暗にならない程度にあるが、あまりにも静か過ぎてついつい早足になる。
誰にあとを付けられいる訳ではないけれど、なんたか怖い。いつもより少し暗く、ものすごく静かだ。
あれ?もう10分ほと歩いたのに住宅街を抜けられない。道の両側はずっと家が建ち並でいる。それにどの家も電気がついていない。真っ暗だ。
夕方だから、帰宅してない家もあると思うけど、全部の家の電気がついていないなんてあり得ない。いつのまにか走り出していた。
やだ。怖い。怖い。助けて。家に帰りたい。お母さん助けて。
「ミャ〜〜。」
猫の声がする。思わず立ち止まり、声のする方を見ると金色の目を輝かせたミケ猫がいた。
「ミャ〜。どこから来た?ここはお前のような小娘がくる場所ではないよ。早くお帰りよ。」
ミケ猫が尻尾を振り去って行こうをとする。猫がしゃべりた。イヤイヤ。あの猫、尻尾が2本あった。え?ここどこ?
「待って!行かないでよ。ここどこなの」
「ミャ〜。なんだい。迷子かい。あんたの世界に道案内してもいいが、見返りもなしではねぇ。」
え?見返り?
お金そんなに持ってない。どうしよう。
もしかして血を吸われるとか、あんことされるとか、こんなことされるとか。
え?!やっぱり殺されるよね。
「そんなことしないよ。失礼な奴だニャン。あんた世界に戻ったら、マタタビをおくれ。わしのベットになるくらいたくさんのマタタビだよ。どうだい。」
マタタビのベット?
「はい。それでお願いします。」
ミケ猫あらため猫又さんについて行く。あんなに抜けられなかった住宅街をあっさりと抜け、山道に入っていくと、猫又さんが振り帰り言った。
「これからは声を出すじゃないよ。昔話しであるじゃろ。定番の声を出せは気づかれてしまう。見つかれば、お前は人間ではいられないよ。」
コクコク。
うなずくしかなかった。
山道を少し進むと明かりが見えてきた明かりに向かい、木々を抜けて行くと大きな広場に出た。
そこにはたくさんの人。いや人ではない、猫又さんと同じ妖怪さん達が灯火を囲んで楽しそうに踊ったり、歌ったりしていた。
さながらキャンプファイヤーだ。
大きな火とそこにいる方がたの存在感に「うぁ〜」と声が出そうになるが、猫又さんに睨まれ息を飲む。
危ない。危ない。見つかる。
広場に入って行くとなんだか視線を感じる。え、だって私声出していないから、見えてないよね。大丈夫だよね。
猫又さんを見れば、尻尾をフリフリ知らん顔だ。そうか。知らん顔。知らん顔。
灯火の近くまで来ると傘の妖怪さんに猫又さんが声をかけられた。
「おい。猫又。今日のお供は人間か。」
え?見えてる?
「なんだ唐傘。お前くらい格式の高い妖怪になると見えるのか。さすがじゃニャ〜。
行くぞ。小娘。早く来いニャ。」
「なに言ってんだあいつ。格式って…。
みんなに見えてるのに変な奴。」
え?見えてる妖怪さんと見えてない妖怪さんかいるってこと?
「猫又さん。大丈夫ですよね。家に帰れますよね。」
「心配するなニャ。マタタビのこと忘れるなよ。」
気がつくと辺りが白み始め、霧の中のバス停に1人立っていた。家から1番近いバス停だ。朝の早い時間らしくバスは来ない。
バス停から歩き出す。家はすぐそこだ。
あれから家の庭にマタタビを広げ猫又さんを待っているが、来るのは野良猫ばかり。
まあ、猫さん達マタタビベットに寝転んでニャ〜。ニャ〜って可愛いいからいいけど。
あの時、きっと妖怪さん達には私が見えていたのだと今更ながら思う。猫又さんにからかわれたのかもしれないけど家には帰ってこれた。猫又さんには感謝だ。
だから、マタタビベットも用意したし早く来てよ。待ってるよ。
「なんだよ猫又。行けよ。格式高い唐傘さまが送ってやろうか。あの子怒っては無さそうだぞ。友達になりたんだろ。行けよ」
冬支度
紅葉が落ち葉となり冬が来る。
冬支度が必要なほど寒い地域に住んでいないが、季節の変わり目はなんかウキウキする。
冬支度といえばなんたろう。
なんかシチューを思いだすのは、CMに影響されすぎだろうか。
冬はイベントもたくさんあり待ち通しい季節なのかもしれない。
時を止めて
お願い。時を止めて。
私の大事なあの子を連れて行かないで。
あの子が私の全てなの。あの子が居なくなったら、私はどう生きていけばいいの。
私の全てをあげてもいいわ。
いいえ。それ以上のものを差し出すわ。
だから、あの子を連れていかないで。
『いいだろう。若き女の生きた血を我に差し出せ。さすれば、お前の望み叶えてよろう。この者の魂は我と共にある。』
「え?誰?いいえ。誰でもいいわ。あの子を残してくれるなら。悪魔とでも契約するわ。」
『その言葉忘れな。』
男爵家の奥さまは、悪魔と契約を交わしたと噂が広がった。
若い女が行方不明になるたびに男爵家に警察がやってくるようになった。
確かに、奥さまの寝室にはたくさんの女性の絵画が飾られている。それが、悪魔との契約なんて警察だって信じているはすないのにバカバカしい。
「毎回、大変ですね。証拠もないのに奥さまを警察が疑うなんておかしな話しですね。」
「お手伝いのあなたには、いつも迷惑をおかけします。毎回の事情聴取です。奥さまを疑ってはいませんよ。警察もそんなにバカではない。」
「では、誰の犯行だと思っていますの」
「例えば、お手伝いであるあなたとかはどうですか?」
「私ですか?私は奥さまのために仕事をしているだけです。」
そうね。警察もバカじゃない。でも、私は捕まらないわ。私が捕まればあの子は誰がお世話をするの。
奥さまが守るあの子は、私の子。奥さまの変わりに私が産んだ子。私の子だわ。
だから、奥さまが手をくだすのはこれで終り。
私の子。
可愛い子。
奥さまが、あなたが寂しくないように同じ位の年の女の子に声をかけてくれるわ。
それからは、私の役目。母親としての私の役目。悪魔との契約は守るわ。必ず。
だから、あの子を連れていかないで。