たやは

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時を止めて

お願い。時を止めて。
私の大事なあの子を連れて行かないで。
あの子が私の全てなの。あの子が居なくなったら、私はどう生きていけばいいの。
私の全てをあげてもいいわ。
いいえ。それ以上のものを差し出すわ。
だから、あの子を連れていかないで。

『いいだろう。若き女の生きた血を我に差し出せ。さすれば、お前の望み叶えてよろう。この者の魂は我と共にある。』

「え?誰?いいえ。誰でもいいわ。あの子を残してくれるなら。悪魔とでも契約するわ。」

『その言葉忘れな。』

男爵家の奥さまは、悪魔と契約を交わしたと噂が広がった。
若い女が行方不明になるたびに男爵家に警察がやってくるようになった。
確かに、奥さまの寝室にはたくさんの女性の絵画が飾られている。それが、悪魔との契約なんて警察だって信じているはすないのにバカバカしい。

「毎回、大変ですね。証拠もないのに奥さまを警察が疑うなんておかしな話しですね。」

「お手伝いのあなたには、いつも迷惑をおかけします。毎回の事情聴取です。奥さまを疑ってはいませんよ。警察もそんなにバカではない。」

「では、誰の犯行だと思っていますの」

「例えば、お手伝いであるあなたとかはどうですか?」

「私ですか?私は奥さまのために仕事をしているだけです。」

そうね。警察もバカじゃない。でも、私は捕まらないわ。私が捕まればあの子は誰がお世話をするの。

奥さまが守るあの子は、私の子。奥さまの変わりに私が産んだ子。私の子だわ。
だから、奥さまが手をくだすのはこれで終り。

私の子。
可愛い子。
奥さまが、あなたが寂しくないように同じ位の年の女の子に声をかけてくれるわ。
それからは、私の役目。母親としての私の役目。悪魔との契約は守るわ。必ず。
だから、あの子を連れていかないで。

11/6/2025, 10:10:39 AM