黒山 治郎

Open App
9/6/2024, 2:58:23 PM

時間だ。

言葉と同時に施錠は解かれ
重い扉を看守が開く

二度と此処へは戻るなよ。

鈍く釘を刺す幻聴を煩わしく思い
反応もせずに外へと歩き出した

色を忘れた廊下を抜けて
外気を感じられる扉の前に立つ

遮る物も無いままに色も知らぬ眼窩へ
責め立てる様な光彩が一斉に飛び掛ってくる

母胎に宿った頃から既に悪魔の子として
牢屋と質素な食事が与えられると定められていた

しかし、時代にそぐわぬと誰かが囀ると
滑稽にもお偉い様の掌は一様に返され
永遠の囚人であるべき悪魔の子は
感動的にも枠の無い景色との対面を果たした


色を知らぬメアリーに問う
物理主義者共に心を示せ
主体的真理に歩を進めよ

外界に戸惑う事など許可されない
残酷な程に、時は待ってくれないのだから。


ー 時を告げる ー

9/3/2024, 4:27:09 PM

右目が僅かに痙攣する
戦慄く両の手は机の影へ
傀儡を繰る様に唇の端を上げ
口内を突く嗚咽を無理矢理に嚥下する

些細な事だ、瑣末な事だ
視線の絡まぬ対話など
気に止める必要も無い

嘯いて、欺いて、その度
呼吸は浅くなってゆく
喉の奥も締まってゆく
視界の隅が白に侵蝕され
心臓の音は耳の中で木霊する

笑って、嗤って
分からないなりにも
愛されようと必死だった

失敗しない様にと
それこそ、懸命に
息の仕方を思い出していた

心の中で励ます言葉を唱え
涙腺と感情には重い蓋を
目にも映らない気持ちの揺らぎは
波紋をとめどなく広げ
いつしか大きな波となり
私を飲み込むとも知らぬまま
正される為の治療法なのだと
延々と信仰心を磨き続けていた。

ー 些細なことでも ー

9/2/2024, 4:39:11 PM

胸中の熱が心を炙り鼓動を速める
足が浮いている気さえして
離れてく君へ、さぁ追いつけと
地面を蹴る速度を上げた。

蹴っていたホームは途切れ
更に離れていく距離に
追いつけなくてもいいからと
大きく手を振り、また会おう!
そう叫んで、君へ愛しい灯火を委ねた。

ー 心の灯火 ー

8/31/2024, 4:15:32 PM

完全を何故求めるのか。
不完全を何故許せないのか。

完璧を愛し、曖昧を憎むのは
己の欠点を言葉に押し付け背負わせて
自分が正しいと思い込みたいからだろう。

形を誤認する度に
はみ出した心は切られ
何時か、君の言う失敗作になる
不完全な僕はそれを楽しみにしているよ。

ー 不完全な僕 ー

8/30/2024, 8:53:37 PM

⚠︎直接表現はありませんが、下世話な話が苦手な方は読まずに飛ばして下さい。












香り立つ水の目には映らぬ厚化粧
興奮材料にもならないソレは
身の回りを飛ぶ羽虫の様に煩わしく
関心すら湧かない指に胸元をなぞられ
恥らいもなく下世話に腰を揺らし
長ったらしい髪しか纏わぬ相手をすり抜け
無駄に広い寝具へと閉口を保ち身を放った。

心底どうだっていい
一時の快楽で現実逃避が出来るなら
それ以外は興味も無く、望みも無い。

粘度の高い嬌声が耳元で嫌に響く度
蛾の様に鱗粉めいた香りを振り撒き
布の上で乱れ広がる長髪に嫌気が差し
顎下を擽る細い指は終始、触覚に見えていた。

見下げ果てている冷めきった視線にも
虫では気付けないだろうと内心合点がいく。

関係は時計の針とは真逆に後退する
気持ちがいいと声を張る羽虫
互いに独りよがりが過ぎるなと嘲笑し
一方的に熱の薄れる私の体躯を
囲み施錠しようとする腕の重み。

あぁ、馬鹿だな
散々言ったじゃないか
恋慕なんぞは面倒だと。

目を刺す赤い口紅が恋を語る前に
私の口は次なんて無いと告げていた。

ー 香水 ー

Next