黒山 治郎

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8/28/2024, 1:36:16 PM

玄関のチャイムに肩を揺らした午後
突然の来訪者に少し零れた珈琲
人が苦手な私はため息混じりで
文句のひとつでもと 扉を 開け

腕の中は君の香りで満たされていた。

視界は水に揺れて
過ぎた願い事だと
私、思って、想ってた のに
貴方は、どうして
そんなに私を甘やかすのか。

こんなに嬉しい突然なんて
産まれて初めてだから
涙が、どうにも止まない の。

ー 突然の君の訪問。 ー

8/27/2024, 9:58:27 PM

雨天に追われ屋根の下

埃で汚れたバス停の案内板
所々に穴の空いた頼りないトタン屋根
もう何年も広告が変わらぬ薄い壁
少し背の傾いた弱々しいブリキのベンチ
雨を飲み続けるひび割れたアスファルトの道
バスの待合所の裏では竹林の葉が雨に唄う

ここは誰かの遠い記憶の中
バスは届け先を決めあぐね、来る事もない
記憶の主は雨と草の音に閉じこもり
頻りに懐かしさをしげしげと眺めては
空ではなく、気分が晴れる事を待っていた。

ー 雨に佇む ー

8/26/2024, 9:56:25 AM

着実に台風は近付いているというのに
嵐の前の静けさと言えばいいのか
空は予報を笑う様な快晴を今日も保っている。

もう、そろそろ九月だと言うのに
何処かしらの涼しい店内に入っても
外気で浴びすぎてしまった熱や
アスファルトからの照り返しが
身体の奥で燻ったままな気がしてならず
帰宅後すらも、素直になれない体は
クーラーからの恩恵を得られずにいた。

昼夜問わずの熱帯気候に嫌気がさして
最近では、涼し気な動画ばかりを眺め
元より少ない睡眠時間を削ってしまう事が増えて
心身共に疲弊し、摩耗していると強く感じる。

最早、たとえ台風でも構わないから
駆け足で雨を運んで来てはくれないものかと
渇くばかりの身では願わずにいられなかった。

ー 今日の空模様 ー

8/24/2024, 11:37:11 AM

やるせない筈なのだが
何故、こんなにも
空とは晴れやかなのだろう。

八つ当たりだと知っていながら
朝靄を梳かす朝日を帽子で拒みつつ
周辺の風景を睨むことしか出来なかった。


「死んだってお互い様でしょう
このイカれた戦場じゃ
誰が何時死んだって可笑しくはない

私が先に敵地へ行こうが
貴方が先に敵地へ行こうが
膨れきった戦火を消すには
必ず誰かしらは犠牲になりますよ

なら、私は…いえ、俺は
育ててくれた上官殿へ恩を返せないまま
無駄に死にたくはないだけです」


…これ迄の指導や訓練に疑念を持つ程に
その瞬間は呆気にとられて…
いや、呆気なかったと言うべきか。

部下一人に率いられた少数隊は
上官命令に背き、本隊を守るべく
背後に迫る敵軍中隊のど真ん中へと
怯む事も無く突っ込んで行った。

夜戦での撤退が成功するか否かの瀬戸際
敵軍は夜目の冴えきらぬ暗闇から
突如、引き返してくる小隊に不意をつかれ
我々本隊は奇しくも予想より犠牲者を抑えて
無事に予定地へと帰還したのだ。

仕方ない、部下の勝手な判断
上官として、我々は無事
犠牲者は少なく済んだ…

やるせない。

本当に、情けない…!
こんな薄汚れた戦場で!
尊い犠牲などと、死んでものたまうものか!!

確かに私は死ぬべきでは無いのかもしれない
後続の者が決まっていようと筆頭者を失えば
刹那であろうが、隊全体の生死に関わる…。

しかし、だからといって
誰かが犠牲になる事などが
正当化されるべきでは無い…!

…私は上官として君という恥を
生涯、この身に塗り続けるだろう。

君の墓標を心臓に突き立て
たとえ、私が殉職しようとも
それが誇り高き死では無いことを
死んでも、忘れることの無い様に。

ー やるせない気持ち ー

8/23/2024, 9:36:34 AM

シャツが裏返っている事に気付かないまま
一日を過ごすと次の日には幸運が訪れる。

迷信の類だが、この話が私は好きだった。

実際には袖を通した後や出る直前に気付き
いまだに達成出来たことは一度もない。
気が付き、着替え直す度に
鈍感であれたらと心の底で思う。

もう少し色んな事に愚鈍であれたら
人と対話する時に背を走る嫌な感触も
自分の言葉に含まれる保全的な選択も
気にもとめずに生きられるのかな。

おまじないは、まだ成功しない。

ー 裏返し ー

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