ひらりひらあり
緑を背に、花弁も羽根も
風を受け翻っては空へ舞い上がる。
目が回ってしまいそうな程
色を着飾る貴婦人らの会
あの花は、あの蝶は
見られていようがいまいが
優雅さを柔らかさを保ったまま
本能のまま生きるという難しさを
身をもって知る強い者たちだと思う。
彼、彼女らには
クオリアが結晶の如く
その身、形となって
宿っているのだろうと私は感じた。
ー 蝶よ花よ ー
太陽がただ明るいのを
抽象的に書きなぐって
何故か覆いたいと思ってしまう。
ただ明るくて暖かい物を
心のどこかで否定したくて仕方ない
変に勘ぐって他に無いだろうって言葉を探して
それを当て嵌めて快晴なんて無視して
結局は淀んだ空にしたがる。
何時でも世界はシンプルなのに
こうじゃないかああじゃないか
他の人ならどんな風に書けば見てくれるのか
別に、要らなかったんだ。
何もいらない、太陽が明るかった
それだけで本当は良かったんだよ。
明るさにいつまでも目が慣れなくても
怯えて逃げて背を向けてたって
誰も気にもしないんだから。
ー 太陽 ー
雅楽における時の声では
夏は黄鐘調(おうしきちょう)に当たる
名の通り黄鐘を主調音とした六調子の一つの旋法
この六調子と五行説との結びつきにより
四季に配され、祭儀などに用いられたりする。
芸術音楽というだけあり
論じられる内容は多いが
ここでは語りきれないだろう事は
想像に難くない。
少しの単語の組み合わせで
様々に派生する言葉が占める範囲の広さに
世の中は容易く無いものだと
改めて、感じたお題であった。
ー 鐘の音 ー
【作者の後書き】
時間ギリギリの滑り込みだったので
論文の様になってしまいました。
昼はつまらない事なのに
夜はどうしてこんなにも
真夏の湿気を含んだ生ぬるい夜風が
暗がりを照らす電灯と自販機のノイズが
急に夜闇を割いて飛び込んでくる車の轟音が
自分しかいないと錯覚させるアスファルトの道が
電気の灯りきらない薄ら寒い田舎の町並みが
嗤う様に緑が揺れる並木達のざわめきが
綾取りの如く絡まり合う電柱の線が
どうして、こんなにも
心に波を打つのか。
全貌の視認が容易いと
いつしか黙認してしまう
そこにあってしかるべき物
見慣れる度に自然とつまらない
粗末な事と意識は自ずと切り離す
それらを夜の帳が覆い
切り取りを強制する事で
予測が不可能な事柄となる
予兆少なに露わになるモノは
途端に幾つもの想定へ変化する
陽を喰らう周囲の暗さは恐怖心を舐め
我々の想定にも光が灯る事は少ない
故に人は夜を恐れてきたのだろう
幾ら光を灯し夜を拭おうとしても
我らは夢へと潜り込む他ないのだ
“今夜”が、また明けるまでは。
ー つまらないことでも ー
粒の大きい塩で飾られたクラッカーが
赤い液体を抱え込んだグラスの奥で
色気の強いライトを浴びて輝く。
もうそろそろと左手の時計を確認した端で
元の色を忘れたであろう爪先がグラスを弾き
音に惹かれて発信源の表情を伺えば
頬杖をついた君と目が合う。
泣き腫らした涙袋がヤケに際立っていて
自分のカクテルの名前が不意に脳裏に過ぎった。
夜も更けて、席を立つ前にと
最後ぐらいは健康を気遣うつもりで
ビールとトマトジュースだけの
シンプルなカクテルを注文したのだが…。
酔いの回った見知らぬ彼女には
少々、引っ掛かる選択だったようだ。
赤くなった瞳がスルリと側へ寄って
同情は人にあげるものでしょうと
目前のグラスは攫われてしまっていた。
違いないが、黙ってくれてやるほど
優しい魔法使いにはなれそうにもなく
艶やかな髪から漂う甘い香りに
沸き立つ自身の中のアルコールを感じて
これが蒸発仕切る前にお代を頂いてやろうと
無防備に話し出した君へ距離を縮め微笑みかけた。
If you are Cinderella.
The time limit is until they sober up.
ー 目が覚めるまでに ー