「あの方は神霊様に選ばれた
衣を持たぬ幼き天女よ」
豪奢な座敷楼の中央で
裾を折り畳んだ羽の無い雛
栄えある尸童(よりまし)
神霊に見初められた頃より
慣れた村から引き抜かれ
託宣を授ける時のみ
神憑りの儀に相応しい扮装と共に
囀る(さえずる)事を赦される
村の者達は童女へ傅き(かしずき)
村から出る者もないままに
たいそう大事にしたそうな
座敷楼という籠を与えた者に
加護を授けられ村に縛られるとは
たいそうな皮肉であろうと
人知れず虚像は苦笑した。
ー 鳥かご ー
笑顔が眩い人だった
他者の目を惹く程に
良くも悪くも中心で
外を知らぬ人だった
好奇心は猫をも殺す
境界とは常に曖昧で
内から出るは容易い
いきはよくとも
かえりはこわく
月に叢雲花に風
叢雲が月を呑み込み
風は花を食い散らす
無知では身は守れず
無垢では心も守れぬ
白さ故に黒は塗られ
穢れだと謗りを受け
終いには指先集まり
花は散るも定めだと
落ちた花に虫は集る
煮詰めた涎も拭わず
下卑た口々を歪めて
馳走に愉悦と残した
下劣な色の虫食い痕
床は涙を飲み終えて
望まぬ種は灰へ埋め
何の罰かと天を仰ぎ
応えかと見紛う雨に
心を乱した君が嗤う
ー 花咲いて ー
【作者からの後書き】
精神的な疲労が文章に影響しているのか
何度書き直してもバットエンドになったので
開き直って後味の悪さを増し増しにした。
お兄さん、ちょいトお隣失礼すルよ
こんな涼しい夏ノ日ハァ
どうにも煙草も美ン味くて
困っタものだねぇ…?
そうだ、ここ出会ったノも何かのご縁ダ
少しお遊戯でもイかがかな?
良い反応だ…ジゃあ…
交代で質問を投げ合いナがら
お互いの欲しいモノをより早く当てる
はいかイいえで答えられる質問で
相手ノ今、欲しい物を当てるんだが…
チょっと刺激が足りないかねぇ?
デハ、欲しい物を間違う度に…
罰が加算されてくッてのはどうだい?
マぁ、良くあるお遊戯の決まり事だが
それラしく刺激にはナるだろう?
イかがかな?
決まりだ
それじゃ、始めようか。
ー 今一番欲しいもの ー
誰であっても呼ばれるのは好きじゃなかった。
似合わないと自負していたから
だから、ペンネームを初めて作った時は
とてもワクワクして早く呼ばれたかったんだ。
ペンネームでの人とのやり取りは
気兼ねもなく、ただ楽しかった。
居たい時に居て
話したい人と話し
聴きたい声を聴いて
ネットの海原を自由に泳げた。
特定の知り合いもできて
現実もネットも案外悪くないって
そう前向きに思えるようになっていった。
けれど、なんでだろうか。
アナタに本当の名前を教えた時
本当の名前を教えてもらった時
それまでの楽しい時間より
ずっと幸せだと感じてしまったんだ。
名前を呼ばれるのは嫌だった筈なのに
呼んでもらえる事が何故だか嬉しくて
アナタを知れる事が幸せだと思う様になった。
いつか、また
隣合って呼び合えたらって
今もそう強く願っています。
ー 私の名前 ー
いくら作り置きしたかったとは言えど
流石に焼き重ね過ぎたホットケーキの塔は
積み方を少しでも誤れば簡単に崩壊しそうだ。
フランスの数学者であるエドゥアール・ルーカス
その人が作ったパズルを彷彿とさせる佇まいに
最早、一種の達成感すら覚えていた。
出来栄え自体は文句も無く、寧ろ上々
こんがり小麦色のつるりとした面に
ふくふくと上手に膨れてくれた境い目
出来立ての温かく優しい湯気に甘い香り
一枚ずつを見れば完璧であった。
しかし、全体を視界に収めると…
徐々に、とはいえ着実に
ピサの斜塔へ変貌しつつある。
手早く冷凍庫に空きを作らねば
お次は、タロットカードに
塔として描かれてしまいそうだが…
傾きつつある現状に合わせ、首を捻ると
視界の端には水切り籠を占拠する三枚の皿
…数学者の創り出した問題の数々は
間違いなく人々の発展に一役かっているなと
身を持って体験と共に体感したのだった。
ー 視線の先には ー