黒山 治郎

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6/3/2024, 1:07:16 AM

いつも、自分の事は真面目を装った
ただのクズ野郎だと思ってるよ。

それにしても…
二個も書けなかったお題があるってのが
なんとも口惜しいなぁ。
                    ー 正直 ー

5/30/2024, 4:57:35 PM

寿命という夢が儚く消えた時から
心の根付く場所を探し歩き
身を屈め土に触れては違うと頭を振り
己の終わりだけを願って旅を続けてきた。

「此処では無かった…
この密度の高い土では私の心は混じれない」

まだまだ歩いている
靴底が擦れて無くなっても
寝付ける場所だけを求めて
人混みをすり抜け、植物は踏み固めた。

「此処でも無いか…
生き物の多い土は余りに踏まれ過ぎて固い」

服の端もはらはらと解れているが
それでも踏み出す足は止まらず進む
手入れもされない髪は女性の様に長いまま
情緒も無く手付かずの雪原へ足を放った。

「此処でも無かった…
この土地は、眠るには余りにも余所者に冷たい」

何処だ、私は一体どこでなら
泰平を胸に抱き安らかに眠れるのだろう
この両瞼は何時から閉じていないのか
川の粼でさえもが眠りを妨げている気がした。

「違う…こんな場所では無い…
川の濁流に飲まれでもすれば眠れもしない」

草木を押し退ける様に手を置き脚を引き摺る
ここは違う、ここも違う、ここすら違う
刹那の時に凪いだ海面へ映りこんだ自分の姿
血濡れの手足を引き摺り血眼は鋭く
骨と皮だけになる程に痩せこけた己の姿は
誰が見ても違えようもなく…

死も生も忘れた、ただの怪物であった。

「あぁ…あぁあぁぁ!!
嫌だ!私は、私は化け物なんかじゃない!
私は、私…は…わ た し は

一体、誰だった…?」

                ー 終わりなき旅 ー

5/29/2024, 12:47:08 PM

          ー 「ごめんね」 ー

動詞も名詞も抜けた漠然とした謝罪に
答えを探す為の黙考が数秒間…
当てはまりそうな事象も自分が怒った記憶も
両者共に最近は、とんとなかったものだから
この熟考は無駄に終わりそうだ、とだけ悟った。

然し、口を噤んで答えは一向にくれない相手
これは此方から伺うが吉なのかと
次は自分の中で柔らかめの問いかけを探し始めた。

「え、とね…まず、そのごめんは
私宛であってるの…かな?」

しくじったと言葉の影で僅かに慌てる
此処には私と相手しかいないのだから
これ程に分かり易い方程式も無い
相手の真意が分からないからと
臆病になり過ぎて周りが見えていなかった。

これでは相手から見たら分かりきった事すら
必要以上に探られていると感じる可能性がある
責められているのだと負荷が掛かっているのでは?

「いや、私こそごめんね!私宛だよね!
けどね、あの…
何かあったかなって、考えてみたんだけど…」

私の言葉は途端に千切れて空気へ霧散した
相手の目元には溢れ出た涙が溜まっている
最早、悪循環どころの話では無く
一見すると私しか悪者は居ない気さえしてきた。

一体過去に何があってこんな事態に陥っているのか
どれだ、どれに対しての謝罪だったんだと
脳は現状を忘れフルスロットルで過去を回想する
が、答えの気配さえ掴めそうになかった。

「あのね…」

相手がようやく口を開いてくれた
冷や汗もやっと打ち止めかと心して待つ
安堵は相槌となり相手の話を促す。

「うん、ゆっくりでいいよ」

「あの…」

そうか、相手にも準備が必要なのだ
まだ謝罪だけならば良かったのだが
その言葉の真意を説明するには
自分の非を改めて見つめなくてはならなくなる
それらを加味すると大っ変に心苦しいが…
私には、これ以上に手の施しようがないのだと
願う様な気持ちで言葉を待っていた。

「本当に…ごめんなさい」

違うんだ、謝罪を整え重ねて欲しい訳ではなくて
その内訳をどうにかして私に見せて欲しいのだ
謝る事に勇気を使い果たしてしまったら
この話には本当に後味の悪さしか残らない!
大変なことになってしまった
せめて、ヒントや切っ掛けだけでもくれないと
此方は事象への対応が出来かねる…。

「怒らないで…」

それだ、怒られる恐怖が勝るのなら
私と共に一度、落ち着いてもらってはどうか?
安易な考えだが相手にも余裕は無いのだから
一概に悠長な事だとは、思い至らないだろう。

「…大丈夫だよ、怒ってないからね
そうだ、一度
私と一緒に深呼吸をしてみようか

ゆっくり鼻から息を吸って…
口からそう、息を吐いて〜…

どうかな、少し落ち着いたかな…?」

目元の潤みも肩を揺らしていた嗚咽と吃逆も
心の幕溜まりからは確実にはみ出てはいるが
先程よりは、現状引っ込んだと見える。

「うん、うん、ごめ」

非を認めた者の言葉を遮るのは
成長を妨げるよろしくない行為だと分かっているが
謝罪とは度が過ぎれば遅効性の毒にしかならない
泣くのも謝罪したいのも私の方な気がしてきたが
とにかく、涙が零れる前に言葉ごと慌てて止める。

「大丈夫だよ〜!
ゆっくりでいいから、君の身に何があったか
私に教えてくれるかな?」

ひっくひっくと小刻みに肩を揺らす相手に
心底頼む堪えてくれと際限なく胸は痛んだ
此方も内心は満身創痍なのである。

「あの…ね
お姉ちゃんのカップ…」

ようやく待ち望んだ名詞が現れ
この話にも光が差してきたと
相手に隠れてそっと胸を撫で下ろす。

「大事なの…割っちゃったの…」

ここまで読んでくれた人なら
きっと理解を示してくれるだろう
だから、どうか許して欲しい。

「なんだ、そんな事だったのか〜…!
怪我がなくて本当に良かった…」

そんな事、だなんて
本当は言うべきでは無かったのかもしれない
子供にとっては身を切る様な一大事で
割れたカップは戻っては来ない
しかれども、可愛い妹に怪我はなく
形あるものいつか壊れるのだから
私にとっては君が泣いていた事の方が
余っ程の大事件だったんだ。

     “小さな子供の謝罪は、大人の大きな受難”

5/28/2024, 4:19:04 PM

視界の下で道路から陽炎が手を振る夏
水流に揉まれてくたくたになった脱皮がら達は
群れを成しては青嵐に撫でられ順に波となり翻る
半袖のトンネルを抜けて来たひと束の風は
人懐っこい犬の様に此方へ駆け寄り頬を舐めていた

どこかでは見知らぬ誰かも同じように日々を営み
清々しくも少し憎らしい夏へ呆れつつも
敵わない、なんて口元を綻ばせて
澄んだ空を愛でているのだろうか

あぁ、そうだ…今度の休日までに
お気に入りの半袖が乾いたならば
出来るだけ飛びっきりのお洒落でもして
その誰かを探しに出掛けてみようかな。

                    ー 半袖 ー

5/27/2024, 5:21:15 PM

此処は粗野な荒くれ者が集まる村外れの酒場だ
賞金首の情報が掲載される傾いたコルクボードに
店内にゃ日がな一日ポーカーに勤しむ奴もいて
見慣れた酒乱が良く喚めいてる此処は天国だってな
酒乱にとっちゃ天国にゃ酒があって然るべき
そんな単純で幼稚な考えなんだろうが
知らぬが仏とは上手い言葉だなと思ったよ

この店は天国の皮を被った地獄に他ならねぇ

この情報を知ってる奴は少ねぇが
この店は政府公認の処刑場だ
村外れって事もあり村の連中は
余っ程の酒好きでなきゃ足を運ばねぇ上に
村と村を繋ぐ道の途中にある店だからな
表立って出歩けねぇ連中が出入りするには
御誂え向きの立地だ、賞金首の情報も貰える
そこに鼻のいい政府連中は目を付けて
此処の店主にある取引を持ち掛けたんだよ

「監視員を一人、店内に置き
賞金首になり得る者を監視
または始末してもらいたい

勿論、店の経営を補助し報酬も弾む」 ってな

店主は悩む事も無く二つ返事で了承した
何せ時代が時代だからよ
職にあぶれず稼げりゃそれでいいらしい

なんでお前にこんな話をしたかは、分かったか?
何も知らずにぽっくり死なれちゃ腹立たしいからな
せいぜい来世は銀食器を持ち歩けよ兄弟って話さ。

                 ー 天国と地獄 ー

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