黒山 治郎

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寿命という夢が儚く消えた時から
心の根付く場所を探し歩き
身を屈め土に触れては違うと頭を振り
己の終わりだけを願って旅を続けてきた。

「此処では無かった…
この密度の高い土では私の心は混じれない」

まだまだ歩いている
靴底が擦れて無くなっても
寝付ける場所だけを求めて
人混みをすり抜け、植物は踏み固めた。

「此処でも無いか…
生き物の多い土は余りに踏まれ過ぎて固い」

服の端もはらはらと解れているが
それでも踏み出す足は止まらず進む
手入れもされない髪は女性の様に長いまま
情緒も無く手付かずの雪原へ足を放った。

「此処でも無かった…
この土地は、眠るには余りにも余所者に冷たい」

何処だ、私は一体どこでなら
泰平を胸に抱き安らかに眠れるのだろう
この両瞼は何時から閉じていないのか
川の粼でさえもが眠りを妨げている気がした。

「違う…こんな場所では無い…
川の濁流に飲まれでもすれば眠れもしない」

草木を押し退ける様に手を置き脚を引き摺る
ここは違う、ここも違う、ここすら違う
刹那の時に凪いだ海面へ映りこんだ自分の姿
血濡れの手足を引き摺り血眼は鋭く
骨と皮だけになる程に痩せこけた己の姿は
誰が見ても違えようもなく…

死も生も忘れた、ただの怪物であった。

「あぁ…あぁあぁぁ!!
嫌だ!私は、私は化け物なんかじゃない!
私は、私…は…わ た し は

一体、誰だった…?」

                ー 終わりなき旅 ー

5/30/2024, 4:57:35 PM