黒山 治郎

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5/26/2024, 2:47:51 PM

文から面を上げ、翳る窓辺にほうと呆れたれば
つれなし玉桂は沙汰もなく
安穏たる水面を守りたれど
日を掲げた八咫烏はいつに飛び失せきといふや
口を引き垂る我は行燈の灯に
影引き伸ばされんばかりなれど
ありつる文へと心を思ひなおり
神妙なる言の葉に移りゆく由無し言を
かの給ひける恋心へ返そうと
焦らむ筆心静かに文を書きゆく。

今宵の望月へ祈ぎ事が許されば
今一度だに君のさまを目にして
直ちに声をゆかしがれり
せめて、この祈ぎ事が月に及ぶ程までは
文に記せし恋心が移ろはぬこと乞ひ願ふ也。

--作者の一言--
古文いと難しぃ




                 ー 月に願いを ー

5/25/2024, 4:28:59 PM

傘の中のハッキリしない筈の境界線
夜の街に降る雨が点滅する街頭に照らされ
私の現実世界へ延々とノイズを走らせている
車が走り去ったばかりであろうアスファルトは
音も無いままじわりと湿り気を帯び始めていた

漫ろ雨に誰かはレインコートの奥で顔を伏せている
足元の長靴に溜まった水が動く度に溢れ出す様は
この子にとって陰雨でしかないと暗喩していた

踏み出した靴は防水性に劣っていて
水溜まりを大きく踏みしめれば
その長靴と同じく足は濡れてしまって
意味をなさなくなっていた

けれど、跳ねる水音は億劫な私を弾いて
濡れそぼった君へハンカチを渡すには
充分な切っ掛けになった

「…あの!」

予報では、まだしばらく
雨は降り止まないだろう

               ー 降り止まない雨 ー

5/25/2024, 9:18:39 AM

案外しぶとく、元気に過ごしていますよ。
思ってたよりは幸せです。
                ー あの頃の私へ ー

5/23/2024, 11:11:23 PM

夢というのは何時かの何処かで見た景色を
浅い思考の中で無意識に繋ぎ合わせて再生し
本人の記憶の棚を整理している状態なのだと
哲学を担当していた教授から教わった事がある。

ならば、悪夢の中で強引に矯正される感覚や
夢に現れる忘れたい言葉や、捨てたい傷が
傷痕を掻き毟る様に蒸し返されるのも
無意識だとしても自業自得という訳だ。

鮮明に夢を見てしまう事だってそうだ
昔からの逃げ癖、現実逃避という悪癖の産物で
少しでも現実から目を背けたくて忘れたくて
綺麗な夢を紙に書き出していたら
ぼやけていた筈の夢の境界線や輪郭、感覚が
徐々にハッキリとしていって…
それらは悪夢であっても変わらなかっただけだ。

そうだった、そうだよ
今までも“元凶”と指を刺されてきたんだ
どこまでいっても悪いのは私で、いつも話は終わる
忘れてはいけない、逃げる意味もない
償うべき事は其れこそ山ほどあるのだから。

                ー 逃れられない ー

5/23/2024, 3:29:42 AM

瓶詰めの脳は夢を見る
平凡な日常を夢に見る

普通とは一体なんだろうか…
瓶の外では冷ややかな視線が充満しているのに
八百万のカミサマ達はカルテを粛々と埋める
バイタルサイン、感情の起伏、夢の内容
個人個人の幸福や不幸の振り幅
脳髄液と保存液の複合度とそれらの循環値
瓶外部の劣化、損傷の具合

外部から操作された日々にも気が付かず
夢を見るもの達の感情は色鮮やかだ
長い時間の中で当たり前になった喜怒哀楽
定着しきった記憶と感情、幻肢に与えられる触感
人間としての形を誇り過ごす今日という日
気付かずとも相容れない者の色は僅かに薄いが
脳へ直接的に流される刺激に感覚は嫌でも尖る

己の視覚を疑う事もなく、それこそ夢にも思わず
人々は思う様に表情を描き口々に親しい者らへ
今日を終える区切りの度に、こう告げていた

“また明日”
                  ー また明日 ー

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