黒山 治郎

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5/28/2024, 4:19:04 PM

視界の下で道路から陽炎が手を振る夏
水流に揉まれてくたくたになった脱皮がら達は
群れを成しては青嵐に撫でられ順に波となり翻る
半袖のトンネルを抜けて来たひと束の風は
人懐っこい犬の様に此方へ駆け寄り頬を舐めていた

どこかでは見知らぬ誰かも同じように日々を営み
清々しくも少し憎らしい夏へ呆れつつも
敵わない、なんて口元を綻ばせて
澄んだ空を愛でているのだろうか

あぁ、そうだ…今度の休日までに
お気に入りの半袖が乾いたならば
出来るだけ飛びっきりのお洒落でもして
その誰かを探しに出掛けてみようかな。

                    ー 半袖 ー

5/27/2024, 5:21:15 PM

此処は粗野な荒くれ者が集まる村外れの酒場だ
賞金首の情報が掲載される傾いたコルクボードに
店内にゃ日がな一日ポーカーに勤しむ奴もいて
見慣れた酒乱が良く喚めいてる此処は天国だってな
酒乱にとっちゃ天国にゃ酒があって然るべき
そんな単純で幼稚な考えなんだろうが
知らぬが仏とは上手い言葉だなと思ったよ

この店は天国の皮を被った地獄に他ならねぇ

この情報を知ってる奴は少ねぇが
この店は政府公認の処刑場だ
村外れって事もあり村の連中は
余っ程の酒好きでなきゃ足を運ばねぇ上に
村と村を繋ぐ道の途中にある店だからな
表立って出歩けねぇ連中が出入りするには
御誂え向きの立地だ、賞金首の情報も貰える
そこに鼻のいい政府連中は目を付けて
此処の店主にある取引を持ち掛けたんだよ

「監視員を一人、店内に置き
賞金首になり得る者を監視
または始末してもらいたい

勿論、店の経営を補助し報酬も弾む」 ってな

店主は悩む事も無く二つ返事で了承した
何せ時代が時代だからよ
職にあぶれず稼げりゃそれでいいらしい

なんでお前にこんな話をしたかは、分かったか?
何も知らずにぽっくり死なれちゃ腹立たしいからな
せいぜい来世は銀食器を持ち歩けよ兄弟って話さ。

                 ー 天国と地獄 ー

5/26/2024, 2:47:51 PM

文から面を上げ、翳る窓辺にほうと呆れたれば
つれなし玉桂は沙汰もなく
安穏たる水面を守りたれど
日を掲げた八咫烏はいつに飛び失せきといふや
口を引き垂る我は行燈の灯に
影引き伸ばされんばかりなれど
ありつる文へと心を思ひなおり
神妙なる言の葉に移りゆく由無し言を
かの給ひける恋心へ返そうと
焦らむ筆心静かに文を書きゆく。

今宵の望月へ祈ぎ事が許されば
今一度だに君のさまを目にして
直ちに声をゆかしがれり
せめて、この祈ぎ事が月に及ぶ程までは
文に記せし恋心が移ろはぬこと乞ひ願ふ也。

--作者の一言--
古文いと難しぃ




                 ー 月に願いを ー

5/25/2024, 4:28:59 PM

傘の中のハッキリしない筈の境界線
夜の街に降る雨が点滅する街頭に照らされ
私の現実世界へ延々とノイズを走らせている
車が走り去ったばかりであろうアスファルトは
音も無いままじわりと湿り気を帯び始めていた

漫ろ雨に誰かはレインコートの奥で顔を伏せている
足元の長靴に溜まった水が動く度に溢れ出す様は
この子にとって陰雨でしかないと暗喩していた

踏み出した靴は防水性に劣っていて
水溜まりを大きく踏みしめれば
その長靴と同じく足は濡れてしまって
意味をなさなくなっていた

けれど、跳ねる水音は億劫な私を弾いて
濡れそぼった君へハンカチを渡すには
充分な切っ掛けになった

「…あの!」

予報では、まだしばらく
雨は降り止まないだろう

               ー 降り止まない雨 ー

5/25/2024, 9:18:39 AM

案外しぶとく、元気に過ごしていますよ。
思ってたよりは幸せです。
                ー あの頃の私へ ー

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