黒山 治郎

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5/23/2024, 11:11:23 PM

夢というのは何時かの何処かで見た景色を
浅い思考の中で無意識に繋ぎ合わせて再生し
本人の記憶の棚を整理している状態なのだと
哲学を担当していた教授から教わった事がある。

ならば、悪夢の中で強引に矯正される感覚や
夢に現れる忘れたい言葉や、捨てたい傷が
傷痕を掻き毟る様に蒸し返されるのも
無意識だとしても自業自得という訳だ。

鮮明に夢を見てしまう事だってそうだ
昔からの逃げ癖、現実逃避という悪癖の産物で
少しでも現実から目を背けたくて忘れたくて
綺麗な夢を紙に書き出していたら
ぼやけていた筈の夢の境界線や輪郭、感覚が
徐々にハッキリとしていって…
それらは悪夢であっても変わらなかっただけだ。

そうだった、そうだよ
今までも“元凶”と指を刺されてきたんだ
どこまでいっても悪いのは私で、いつも話は終わる
忘れてはいけない、逃げる意味もない
償うべき事は其れこそ山ほどあるのだから。

                ー 逃れられない ー

5/23/2024, 3:29:42 AM

瓶詰めの脳は夢を見る
平凡な日常を夢に見る

普通とは一体なんだろうか…
瓶の外では冷ややかな視線が充満しているのに
八百万のカミサマ達はカルテを粛々と埋める
バイタルサイン、感情の起伏、夢の内容
個人個人の幸福や不幸の振り幅
脳髄液と保存液の複合度とそれらの循環値
瓶外部の劣化、損傷の具合

外部から操作された日々にも気が付かず
夢を見るもの達の感情は色鮮やかだ
長い時間の中で当たり前になった喜怒哀楽
定着しきった記憶と感情、幻肢に与えられる触感
人間としての形を誇り過ごす今日という日
気付かずとも相容れない者の色は僅かに薄いが
脳へ直接的に流される刺激に感覚は嫌でも尖る

己の視覚を疑う事もなく、それこそ夢にも思わず
人々は思う様に表情を描き口々に親しい者らへ
今日を終える区切りの度に、こう告げていた

“また明日”
                  ー また明日 ー

5/21/2024, 2:46:25 PM

暑い夏に解けゆく氷のようだった。

放課後、夕暮れに染まる教室に
取り残された君が楽しげに歌う
その耳馴染んだ懐かしい童謡は
脆く儚いシャボン玉の姿を描く

高い音が心地好く耳へ届く度に
君も弾けて消えてしまいそうで
どうにかして留めておきたくて

その透明な声に色を混ぜる様に
僕は君へ声を掛けてしまった。

「懐かしい曲だね」

聞かれた事へ色付いた君の頬に
僕は人知れず胸を撫でて安堵し
それまで思考の外に放っておいた
夕焼けの空を、漸く思い出していた。
                   ー 透明 ー

5/20/2024, 11:06:24 AM

理屈なんて当てにもならなかった
想望するだけでは足りず

之繞に余生を乗せ、帰途を共にしたいと願う

貴著を読めば殊更に私は惚れ込んだ
方今、君は違えようもなく私の理想なのだ。


タテッ              ー 理想のあなた ー

5/19/2024, 1:30:24 PM

「人はパンのみにて生くるものにあらず」

悪魔に魅入られたユダの申し子よ
汝に主の口より出てし言葉を授けましょう
この苦行の最中でも汝の心が安らぐように

そして、咎人である貴方に身を清める為の選択を…
さぁ、選びなさい 水か?パンか?
どうしました、もしや声を出せないのですか?
ガロットも今この時ばかりは緩めて…

おぉ、なんと!なんという事だ…!
主へ直接の許しを乞いたいと
常々、切に願っていた貴方でしたが
まだ償いきれぬ不浄の身でありながら
もう果ててしまったのですか?

あぁ、貴方が真に敬虔な信者であったなら
我らが同胞に別れも言わずに立つなど
ありはしなかったでしょうに…

なんと悲劇的で不遜な末路なのでしょう
せめて、穢れた汝と共に不浄の者が
永久の眠りへと誘われん事を此処に祈ろう。

                ー 突然の別れ ー

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