カガミ

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5/1/2023, 9:57:58 PM

世界を絵の具で塗れたなら、何色で景色を彩ろうか。

燃えるような赤?
どこまでも広がる青?
まばゆい光の黄色?

色と色を混ぜ合わせて、もっと複雑な物にしてもいいかもしれない。

ミステリアスな紫?
心休まる緑?
暖かみのある橙色?

どんな色でも世界を美しく輝かせてくれるだろう。でも魅力的だからと言って、決して全ての色を混ぜて塗ってはいけない。

赤と青と黄色を混ぜ合わせてしまったのなら、世界は真っ暗に包まれてしまうのだから。

夜の帳の黒色も私は好きであるけどね。

5/1/2023, 9:04:21 AM

痛くて熱くて苦しくて辛くて。
毎日毎日憂鬱な日々を過ごしていた僕は、気がつくとどこまでも真っ白な空間に立っていた。
「こんにちは」
戸惑う僕に自分より背が高いお姉さんが声をかけてくる。
「一緒にあそぼうか」
あいさつも返せない僕を気にすることもなく、お姉さんはかたまる僕の両手を引いた。
真っ白な世界にはいつの間にかブランコやすべり台が現れていて、お姉さんに促されるままに僕は1つ1つの遊具で順番にあそんだ。
「…たのしい」
「ふふ、よかった」
ぽつりと呟いた僕の声にお姉さんは嬉しそうに笑う。こんなにあそんだのは生まれて初めてだった。
「ちょっと休憩しようか」
流れるような動きでお姉さんの膝の上に座らされる。知らない間に息が上がる程あそんでいたらしい。お姉さんの膝はとても気持ちがよくて、気を抜くとねむってしまいそうだった。
「…」
けれどここで寝てしまったらこの幸せな空間が終わってしまいそうで。目が覚めたらいつもの苦しい日々が始まるかと思うと怖くてしかたなかった
「大丈夫大丈夫…起きてもここにいれるよ。貴方が望むならいつまでもいていんだよ」
僕の頭を優しく撫でながらお姉さんが囁いた。強ばっていた気持ちがゆるゆるととけていく。
いいのかな。いいんだよね。だって疲れちゃったんだもん。
遠くから聞こえる大好きな人たちの声に耳を塞いで、柔らかく暖かい白いお姉さんの膝の上で僕は眠りについた。

「…残念ながら…ご臨終です…」
「…ーっ!!!」

ごめんね、おかあさん。おとうさん。
ばいばい。

4/30/2023, 9:32:16 AM

風に乗って移動できたらどんなに便利だろう。

都会で行列に並んで美味しいものを食べて
歴史的な建築物を見ながらお散歩をして
海を渡って異国でお洒落しちゃうのもいいかも

楽しい気持ちで心がいっぱいになったとき、河原に座る私の後ろから強い風が吹き抜けた。

もし、移動中に突然嵐が吹いたらどうしよう。望まないところまで飛んで行ってしまって、ここにはもう帰ってこれないかもしれない。

お母さんが作る温かいご飯
友達とする何気ない会話
憧れのあの人の後ろ姿

大好きな自分の日々が風に乗ってしまったら2度と経験できないかもしれない。そう思うと心臓がズキズキと痛んだ。頭を左右に強く振って考えを打ち消し、芝生の上に寝転がる。

先程とは違う心地よい風が私の頰を撫でた。空を飛ぶ小鳥の鳴き声が耳に届く。私はそっと瞼を閉じた。

風に乗るのはまた今度にしよう。
訪れる眠気に従い、私はゆっくりと夢の中へ落ちていった。

夢の中で私は今と変わらない平和な日常を過ごすのだった。

4/29/2023, 8:48:25 AM

「おはようっ!」
「…はよ」
休み明けの学校の朝。憂鬱な1週間の始まりなはずのに、何故か友人はとても元気だった。
「ふふふ…親友よ、君だけに特別に僕の宝物を見せてやろう!」
「は?」
いきなり目の前の席に座った友人は制服のポケットから何かを取り出す。別に何も聞いてないんだが。しかもそこお前の席じゃないし。
「見よ!」
「…、…髪の毛?」
友人が掲げて見せたそれは黒く長い1本の髪の毛だった。友人は短髪だから友人の毛ではないだろう。
「ただの髪の毛じゃない!これは幸運の女神の前髪だ!」
「気でも狂ったのか?」
「狂ってない!」
冷静に返した俺に友人は興奮した様子で話しだす。
「今朝電車からホームに降りた瞬間、僕の目の前に女神が現れたんだ!」
「へー」
「サラサラの美しい黒髪にこの世とは思えない程いい香り!彼女は女神に違いない!僕は反射的に女神へ手を伸ばした!」
「変態か?」
「違う!僕の手は女神の髪をしっかりと掴んだはずだった。しかし彼女の髪はまるで風のように手からすり抜けてしまったのだ」
「やっぱり変態だろ…」
「違うと言っているだろ!そしてうなだれる僕の手には1本の光り輝く髪の毛だけが残された。そこで僕は気がついた、これは幸運の女神の前髪だと!」
「目の前で消えたなら前髪じゃなくて後ろ髪なんじゃね?」
「君はかの有名な話を知らないのか?!女神に後ろ髪はないのだよ!」
「だったらそれ女神じゃないんじゃ…」
熱く語る友人に現実を説明しようとした時、タイミングよく教室の扉が開いた。他のクラスメイトにも同意を得ようと扉に顔を向ける。

「おはよー…」
「おはよー。なに?元気ないじゃん」
「聞いてくれる?!さっき駅でいきなり髪の毛抜かれたの!」
「えぇ!?怖っ…!?」
「でしょー!自転車壊れたからって1駅分電車使うんじゃなかった!」
「変態ってどこでもいるんだね…。てかアンタ髪型変えた?」
「うん!シャンプー変えたら癖っ毛おさまったからストレートにしてみたんだ!」
「いいじゃん、似合ってるよ」
「ありがとう〜!テンション上がった〜!」

「「………」」

登校してきたクラスメイトから顔をそらし、そっと視線を静かになった友人に戻した。あんなに輝いていた笑顔は一瞬でなくなり、顔は火が出そうなくらい真っ赤に染まっている。
「…。あとで謝っとけよ」
「なんて言えばいいんだよぉ…!」
女神が現実にいてよかったじゃないか、とは軽口でも流石に言えなかった。

後日友人は無言で女神に菓子折りを渡したらしい。女神は大層困惑していたそうだ。

4/28/2023, 9:01:05 AM

「生きる意味って何だと思う?」
「生殖本能」
「身も蓋もない!」
読んでいる本から目を離さず友人の問いに答える。返ってきた叫びを無視してページを捲った。
「立派な生物の本能でしょ。生き物の遺伝子はそうやってここまで続いてきたんだから」
「そうだけどさぁ…現実的すぎるよ…」
しくしくと泣きながら友人は机に突っ伏す。項垂れた友人の下にはよれてに皺くちゃになったプリントが1枚あった。表題は【生きるってなぁに?】だ。
「課題は自分の力でやらないと駄目だよ」
「うぅっ…いじわる…」
「補習に付き合ってあげてるだけありがたく思ってほしいな」
「それはありがとう…好き…」
「はいはい」
適当に相槌を打ってまたページを捲る。私が教えてくれないことが分かったのか、友人は渋々といった様子で手を動かし始めた。
「…」
2人だけの教室にシャーペンが走る音が響く。遠くから運動部のかけ声が聞こえた。少しだけ顔を上げて目の前の友人を見る。

ふんわりとした焦げ茶色のくせっ毛。
集中して伏せ目がちの黒い瞳。
白くはないけれど健康的な肌の色。

知らず知らずのうちに本を持つ手に力が入る。お腹の中でぐつぐつと熱いナニカが渦巻いて今にも口から飛び出しそうだ。
「…やっぱり生殖本能よ、生きる意味なんて」
吐き捨てるように言った私にリアリストだなぁと何も知らない君が笑った。

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